レモン畑の吸血鬼 の商品レビュー
光の描写の美しさが強く印象に残った。ヨーロッパの国をモデルにしているであろう作品は特にだが、作者の描く光には透明感があり、からっとしていて温かい。それらが時にはひやりとするような状況や人物の恐ろしい心情を際立たせ、作品の魅力をぐっと増していると思った。 童話や諺のような一見おか...
光の描写の美しさが強く印象に残った。ヨーロッパの国をモデルにしているであろう作品は特にだが、作者の描く光には透明感があり、からっとしていて温かい。それらが時にはひやりとするような状況や人物の恐ろしい心情を際立たせ、作品の魅力をぐっと増していると思った。 童話や諺のような一見おかしな状況設定も多いが、決してアイデアのみの一発芸的なストーリーではなく、どの作品も深い後味を味わうことができた。
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“「レモンが効かないわ」「いつから、そうだった?」「効いている振りをしていたよりも、長くよ。ごめんなさい」” 血を吸わないことによる渇きをやり過ごすためにレモンを啜る吸血鬼の会話なのに、倦怠期の夫婦が交わしているとなると違う響きを帯びてくる。 古い因習を捨てて、若い妻と新しく理...
“「レモンが効かないわ」「いつから、そうだった?」「効いている振りをしていたよりも、長くよ。ごめんなさい」” 血を吸わないことによる渇きをやり過ごすためにレモンを啜る吸血鬼の会話なのに、倦怠期の夫婦が交わしているとなると違う響きを帯びてくる。 古い因習を捨てて、若い妻と新しく理想の生活に踏み出したはずの吸血鬼が落ちいる閉塞。 永遠の愛のために払った犠牲を数え始めたとき、心はすれ違い、愛には苦味が混じる。だが、吸血鬼である二人を死が分かつことはない。 表題作を始めとして、カレン・ラッセルの描く物語は、奇想であっても幻想ではない。登場人物はみな、リアルな痛みと抜け出せない苦しみにもがいているー縛り付けられた土地、人生、異形の身体、自らの選択ー。そして記憶や過去から。 『帰還兵』では、PTSDに苦しむ帰還兵と、治療を担当するマッサージ師は、真実を検証することのできない記憶を、それぞれ内に抱えている。物語の最後に導かれた、辛い記憶からの回復への答えは決して恩寵ではないかもしれない。それでも簡単ではない問題に対して精一杯、誠実であろうとする作者の思いが物語を超えて聞こえてくるような気がする。 『エリック・ミューティスの墓無し人形』もそうだ。償うことのできない過去。忘れて蓋をした過去が現れたとき、人は赦しを乞うことはできるのだろうか。読んでいて苦しい。この作品だけは共感で語れない。それでも、後悔や懺悔とも違う、内面から滲み出した行動を美しいと思った。
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- ネタバレ
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2017年に途中で放り出した本をがんばって読了。 アイデアはかなりすごい。日本のライトノベルなら ありそうななさそうな設定…を力技で昇華している、 というイメージ。 「お国のための糸繰り」「任期終わりの厩」 「帰還兵」が良かったです。 大統領が馬に転生する、というのは日本の 総理でもぜひ誰かに書いてもらいたい設定です。
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奇想は面白いし、そのわりに人間も書けている。だけど、もう少し詩情が欲しい。 構成など実力がしっかりしているのは間違いない。好みが合えば、どハマりする人がいそうな。
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物語の、そして言葉のはしばしから聞こえてくる叫び――「逃げたい」。逃げたい。終の棲み処であるレモン畑から。馬となった自分自身から。友の死を刻むタトゥーから。受け入れられない現実から。 その「逃げたい」を、彼らは様々な方法で実行に移そうとする。女工らは羽化を企んだ。少年は窓を...
物語の、そして言葉のはしばしから聞こえてくる叫び――「逃げたい」。逃げたい。終の棲み処であるレモン畑から。馬となった自分自身から。友の死を刻むタトゥーから。受け入れられない現実から。 その「逃げたい」を、彼らは様々な方法で実行に移そうとする。女工らは羽化を企んだ。少年は窓を抱き走った。もうひとりの少年は、兄の恋人とセックスをした。 興味深いのは、逃亡、そのすべてが、成功したか否か注意深くぼかされているところだ。それでいいと思った。むしろそうでなくちゃ、と感じた。わたし達だってそうなのだ。体がそこにあっても、こころは離れられるのだから。 「逃げる」を思い描く瞬間だけは。
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「帰還兵」「エリック・ミューティスの墓なし人形」がお気に入り。「お国のための糸繰り」「任期終わりの廐」は変わったメタモルフォーゼもの。好き嫌いの分かれる作家だな。
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素晴らしい傑作です!ノスタルジーな雰囲気の中にレモンの爽やかな香りがほとばしる……そんな作品集です。
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★想像力と緻密さのありえない融合★100年を超え世界をめぐる吸血鬼の愛情、女工哀史を思わせる繭になった日本の女、米国西部の開拓と土地への奇妙な信仰、馬に転生した米大統領、動く刺青と込められた意味の転換、苛めていた同級生と同じ顔のカカシ。発想がとんでもないし、それを支える周辺の知識...
★想像力と緻密さのありえない融合★100年を超え世界をめぐる吸血鬼の愛情、女工哀史を思わせる繭になった日本の女、米国西部の開拓と土地への奇妙な信仰、馬に転生した米大統領、動く刺青と込められた意味の転換、苛めていた同級生と同じ顔のカカシ。発想がとんでもないし、それを支える周辺の知識が具体的で細かい。その上で永遠の愛の行方や虐げられた女性の自立、時空を超えた存在の意義といったテーマが染み込んでくる。 小説でしか表せない、まさに小説の世界。読むのは簡単ではなく歯ごたえはあるが、この数年の小説では最高だった。海外の小説はあまり読まないが、やはりすごい。訳もおそらくいいのだろうし、訳者のあとがきも愛にあふれている。
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1週間くらいかけて読む予定が、おもしろくて1日でイッキ読みしてしまった。 私の中では、小説には二種類あって、描写をうっとりと堪能するものと、「この先これからどうなっちゃうの?」と筋を夢中で追うもの、の2つに分かれるんですが、この人の小説は両方の意味で楽しめました。この先、どうなっ...
1週間くらいかけて読む予定が、おもしろくて1日でイッキ読みしてしまった。 私の中では、小説には二種類あって、描写をうっとりと堪能するものと、「この先これからどうなっちゃうの?」と筋を夢中で追うもの、の2つに分かれるんですが、この人の小説は両方の意味で楽しめました。この先、どうなっちゃうの?と思いながらも、描写にうっとり。こんな風に両方向に楽しめる作家ってなかなか少ないです。 収録されているどの作品も、設定が奇想天外で印象的でしたが、強いて言うなら、「帰還兵」が一番好きです。 でも、「エリック・ミューティスの墓なし人形」も捨てがたいです。描かれている哀しみと切なさと渇望みたいなものが、まるで自分の未熟さをつきつけられたみたいにリアルに感じられて、胸をえぐられるようでした。 訳者の「あとがき」も良かったです! 著者のインタビューでの受け答えなどについて触れられていて、ラッセルが「本物のヒキガエルの棲む架空の庭」という引用をしたというあたり、非常に興味深かったです。
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短編集8編 どの物語も風変わりで,存在というものにこだわっている.「お国のための糸繰り」の不気味さは背筋を何かが這い上ってくるようだった.
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