黒澤明と三船敏郎 の商品レビュー
かなり頻繁に出ている黒澤明の甥(姉の種代の長男)の井上マイク(井上芳男)という人はこれまでの黒澤研究書ではみかけない名前で、かなり叔父を親しく知っている風なのだがなぜ出てこなかったのだろう。 親しい人たちを大勢丹念に訪れて取材し、渉猟した紙資料も膨大で、だから700ページもの大冊...
かなり頻繁に出ている黒澤明の甥(姉の種代の長男)の井上マイク(井上芳男)という人はこれまでの黒澤研究書ではみかけない名前で、かなり叔父を親しく知っている風なのだがなぜ出てこなかったのだろう。 親しい人たちを大勢丹念に訪れて取材し、渉猟した紙資料も膨大で、だから700ページもの大冊になったのだろう。 新しく目にするのが多いのは何といっても欧米諸国側の黒澤作品の初公開当時の批評の数々で、ずいぶんと上から目線で西洋の真似よばわりしているのが多いのがわかる。むっとするくらい無知で傲慢で無理解なものも多い。単純に黒澤は日本では認められなかったが西洋で評価されたという図式は当てはまらないな、と思った。 各作品が公開されるまでの経緯や日本から何年遅れて公開されたか、規模はどんなものだったのか、を整理して年表化してみたら面白いだろう、と思った。順番などめちゃくちゃに近いのだ。 一応ある程度の規模で日本からちょっと遅れて海外でも公開される、という軌道に乗ったのは、最晩年なのがわかる。 「トラ!トラ!トラ!」トラブルの元凶である黒澤プロの青柳哲郎がアメリカ側プロデューサーのエルモ・ウィリアムズに宛てた手紙、というのがp496にあるが、どうしてこういう人間性の男を信じたのか、と思わざるをえない。この矮小なイアーゴーの末路はどんなものだったのか、知りたいところ(悪趣味ながら)。 メインテーマであるところの、黒澤と三船の決別の理由、というのは煎じ詰めると身もふたもないが、二人が組んでじっくり仕事できるだけの経済的余裕が日本映画から失われた、ということに尽きる。
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