動物翻訳家 の商品レビュー
動物ものってどうも苦手だ。安易な擬人化がされていたり、予定調和的に感動方面に持って行ったり、勘弁してよ~っていうのが多いように思う。しかし、これはそういうものではなかった。動物園の飼育員に密着した、まさに「リアルストーリー」で、面白さに一気読み。 動物園って矛盾や葛藤に満ちた存...
動物ものってどうも苦手だ。安易な擬人化がされていたり、予定調和的に感動方面に持って行ったり、勘弁してよ~っていうのが多いように思う。しかし、これはそういうものではなかった。動物園の飼育員に密着した、まさに「リアルストーリー」で、面白さに一気読み。 動物園って矛盾や葛藤に満ちた存在だ。飼育員さんが、少しでもその動物本来の生息環境に近づけ、動物のストレスを減らしたいと願うのも自然な成り行きだろう。現実には公立・民間問わず、予算をはじめとする制約は大きい。その中で奮闘する四例がとりあげられている。きれいごとで終わらず、厳しい現実がきっちり書き込まれているところが良かった。これは片野ゆかさんの著作に共通する美点で、シビアに現実を直視しつつ、おおらかさ、あたたかさを失わない姿勢がいいなあと思う。 出てくるのは、ペンギン・チンパンジー・アフリカハゲコウ・キリン。それぞれに味わい深い話がいろいろある。自分が見たことがあるのは京都市動物園のキリンだけだが、あの新施設への引っ越しにこんな苦労があったとは知らなかった。是非また行って、今度は飼育員さんたちの苦闘に思いをはせながらじっくり見てこようと思う。 しかしまあ、同じ動物とは言え、犬や猫のペットと野生動物ではまるきり違うのだなあとつくづく思い知らされる。あるベテラン飼育員さんの「深い愛情を感じているし、信頼関係も築けていると思うけど、フェンスもないところでは絶対に背中を向けません」という言葉が紹介されていた。簡単に理解とか交流とか言えるものではないのだなあと感じた。
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