エグゼクティブは美術館に集う の商品レビュー
借りたもの。 美術鑑賞の”現場”から、アートに関わることの有用性を、脳科学の視点を交えて言及する。ビジネスパーソンへの啓発より、児童への学習に重点が置かれている本。 子どもはただ漠然と面白がって絵を見ているわけでは無い。絵の世界に入り込み、全身を使って感じ取っている。それは時に...
借りたもの。 美術鑑賞の”現場”から、アートに関わることの有用性を、脳科学の視点を交えて言及する。ビジネスパーソンへの啓発より、児童への学習に重点が置かれている本。 子どもはただ漠然と面白がって絵を見ているわけでは無い。絵の世界に入り込み、全身を使って感じ取っている。それは時に作者の意図とも合致してる…… 教育現場でのエピソード、児童への美術鑑賞教育の在り方についても交えつつ、子供と美術鑑賞の可能性の大きさに心躍る。 世界の美術教育の在り方の変遷も取り上げられていて、興味深い。 山口周『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか? 経営における「アート」と「サイエンス」』( https://booklog.jp/item/1/4334039960 )にも取り上げられていた、"The MFA Is the New MBA"と言われる所以を解説する。臨床心理学者、脳科学者などの対談から、該当する脳や心の作用で該当するものの解説を通して、美術鑑賞がただ心の休息や娯楽ではないことを訴えている。 それはエイミー・E・ハーマン『観察力を磨く 名画読解』( https://booklog.jp/item/1/415209642X )も言及していた、気づきを与える物の見方を養ってくれる……物事を俯瞰で見たり、一見繋がりがないものが結びつく橋渡しになるひらめきの原動力となる。メタ認知。 ダニエル・ピンク『ハイ・コンセプト「新しいこと」を考え出す人の時代』( https://booklog.jp/item/1/4837956661 )で取り上げられていた、求められる人材になるための要素でもある。 ニール・ヒンディ『世界のビジネスリーダーがいまアートから学んでいること』( https://booklog.jp/item/1/4295402443 )、増村岳史『ビジネスの限界はアートで超えろ!』( https://booklog.jp/item/1/4799323717 )が語っていたことの根底にあるもの。 巻末には著者流の展覧会鑑賞の極意。(初心者向け?) …これは個人的には今まで展覧会へ足を運んで培ってきたものなので、今更とは思いつつ…… 楽しみながら教養を深める充実した時間を、多くの人が過ごせたら良いと切に思う。鍛え、我らが審美眼! 本の巻末に記載されていたサイトは、出版から3年後まで(2018年)の期間限定だった模様……再開を切に願う。 鑑賞教育.jp http://kanshokyoiku.jp/
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ビジネスの場に出ると、美大卒であることをコンプレックスに感じることがある。これには特に根拠があるわけではなく、美大生の間にただなんとなく蔓延している「一般大生に比べて自分は社会の役に立たない」みたいな考え方が卒業後も尾を引いているものだ。 でも私は美大に進学したことを1ミリたりと...
ビジネスの場に出ると、美大卒であることをコンプレックスに感じることがある。これには特に根拠があるわけではなく、美大生の間にただなんとなく蔓延している「一般大生に比べて自分は社会の役に立たない」みたいな考え方が卒業後も尾を引いているものだ。 でも私は美大に進学したことを1ミリたりとも後悔していないし、あの4年間がなかったらいまの私はいないと本気で思っている。だからこそ美大卒であることを強みにするしかないとも思っている。だって、一般大の人が絶対にできない経験を4年間してきたんだもん! 美大にいるとそれが当たり前になってしまって全然特別だとは思わなかったけど、4年間作品をつくり続ける経験なんて普通の人はまずしないし、その特別感に気づけたのも社会に出て外の人と関わるようになったからだ。だから私は美大卒であるという強みを最大限に生かして伸ばして働きたかった。その方が絶対に仕事が楽しくなると思った。 そういうときに推しが書評を書いていたのがこの本だ。「うわあ! 私のための本に出会ってしまった!」と思った。そういう経験ができるから本屋が好きだなあと思う(もちろん推しの本屋で買った)。 美術作品に対面するとき、脳はどんなふうに動くのか、どんな刺激を得てどんな体験ができるのか。どうすればその体験をより深めることができるのか。その刺激はビジネスマンにとってどう役立つのか。そういう話を理論的に展開してくれていて、なんというか、美術館に行きたくなる! いますぐにでも! あと、美術教育が子どもの成績にいい影響を与えるということもしっかり示されていて自信がついたし、うれしくなった。これからもこういう分野の本はいろいろ読んでいきたいなあ。 【読んだ目的・理由】美術を学んだ経験を仕事に生かしたかったから 【入手経路】買った 【詳細評価】☆3.9 【一番好きな表現】実は、脳は環境との相互行為で成立する唯一の臓器です。(中略)脳だけは、本を読んだだけで変化するのです! 人としゃべるだけで言葉を覚えるのです。特に幼児は、昨日の脳と今日の脳、日々違っていることでしょう。骨やほかの臓器のように物理的に成長するのではなく、学習によって成長する、それが脳です。体験、学習をはじめとした外部の環境と密接な関係を持っているのが、脳の大きな特徴なのです。(本文より引用)
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美術鑑賞によって脳が活性化することを説く。確かに美術鑑賞の結果、得られる解はひとつではない。それはビジネスも同じ。美術を鑑賞して、自分が何を感じるのか、内面に問う大事さを教えてくれる。
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美術館によく行くことがあるのだが、たいていの一般の人は「高尚な趣味」と思っているようで、「眠たくなる」「わからない」などの言葉が飛び出す。 文字と違って視覚から物事を見るのだから、もっと素直に観察して、自分なりの意味を見出せばいいのではないか、と思っていた。 この本では、そうした...
美術館によく行くことがあるのだが、たいていの一般の人は「高尚な趣味」と思っているようで、「眠たくなる」「わからない」などの言葉が飛び出す。 文字と違って視覚から物事を見るのだから、もっと素直に観察して、自分なりの意味を見出せばいいのではないか、と思っていた。 この本では、そうした「素直に見ること」から、エグゼクティブ、上層部の幹部たちが得られる恩恵についても述べている。つまり「創造性」といったものに集約される、知識や教養を発展させる力だ。 題にある「エグゼクティブ」の出番はさほどない。「なぜ彼らは美術館に通うのか」という話はでてくる。従来美術館は「趣味」「教養」の範疇で語られ、仕事や日常生活とかい離したものとしてとらえられていたから、「ビジネスに役立つ力」を伸ばすための手段として紹介されているのは新鮮だった。 脳に対してどのような影響を与えるのか、といった話にも言及されている。仕事にかかわらず、認知症、子どもの教育といった観点からも美術が語られている。 美術を見る、ということが「視点を変える」ということにもつながり、相手の立場に立つ、ということも可能にさせる。観点を変える訓練にもなるのではないかと期待させる内容だった。 私自身教育に携わる人間なので、本書の内容の中でも「教育」に関する記述はとりわけ興味がわいた。「知識」となると、子どもたちにも格差が生まれやすいが、美術品から気づいたことを話し、周囲の子たちと意見を深めていく様子が自然に行われていくのは、やはり時代を超えた優れた美術品ならではの力だろう。 わかりやすく簡潔に書かれているが、内容は幅広く、うっかりすると読みそこなっている内容もあると思う。それほど示唆に富んだ内容であり、かつ、一般人の美術鑑賞の態度をそれとなく変えてくれるような内容だった。
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