ヒトラーの科学者たち の商品レビュー
20世紀初頭、ドイツは世界の科学技術をリードしていた。しかし1933年ナチスが政権を握ると共に、公職からのユダヤ人追放が始まり、科学者もその例外ではなかった。押し寄せる国家社会主義とユダヤ人排斥の波の中で、科学者たちは何を考え、どう行動したのか。物理学、数学、生物学からロケット技...
20世紀初頭、ドイツは世界の科学技術をリードしていた。しかし1933年ナチスが政権を握ると共に、公職からのユダヤ人追放が始まり、科学者もその例外ではなかった。押し寄せる国家社会主義とユダヤ人排斥の波の中で、科学者たちは何を考え、どう行動したのか。物理学、数学、生物学からロケット技術まで、幅広い分野でその動向を追う。 ナチ政権は反ユダヤ人政策を理論づけるため、人種優生学をはじめとする疑似科学に傾倒してゆく。ナチスに迎合しアーリア科学を標ぼうする科学者もあったが、ユダヤ人排斥に抵抗を示す者もいた。しかし多くの状況に流された科学者や技術者の手で、大戦終結までのドイツの生産力は支えられてゆく。ロケットを始めとする兵器生産のため、収容所の労働力も動員された。ドイツの敗戦後には、戦勝国は残った科学者や技術者を確保するのに躍起になった。 本書はドイツおよび連合国の科学技術への態度、戦争への科学者の動員、新兵器開発の経緯を概観するのに適している。良心に照らして不本意な研究を国家に強いられた時、どう行動するのか。祖国への愛情と普遍的な価値観の間にどう折り合いを付けるのか。科学者なら自分に問わねばならない問いであり、過酷な状況でそれを突き付けられた人々の経験から学べることは多いだろう。 残念ながら訳文に問題あり。日本語として整っていない。てにをはの間違いは多数、文章としても正しく繋がっていない場合が散見される。内容が深いだけに残念だった。膨大な訳注は便利で、訳者あとがきの考察も参考になるのだが。
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科学に明るくないので前半ずいぶん読むのに時間がかかりました。 総じてナチの抗癌戦争は「よい科学は反民主主義の理念の名においても追及し得た」ことを示した。(208P)
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ユダヤ人への残虐非道な人体実験とかよく考えるね。本当に人間が人間にここまで出来るのか、という事例が多くて読んでいて、気分が悪くなる。
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図書館で予約して借りたんだけど、途轍もなく分厚く、しかも小さい文字がギッシリ詰まってて、少しいやになった。 科学史家は、ナチの原爆の実現可能性を今日に至るまで論じている。………ヒトラーの人種主義政策は、理論ならびに核物理学を熟知する数百人の主要なユダヤ人物理学者を追放する結果を...
図書館で予約して借りたんだけど、途轍もなく分厚く、しかも小さい文字がギッシリ詰まってて、少しいやになった。 科学史家は、ナチの原爆の実現可能性を今日に至るまで論じている。………ヒトラーの人種主義政策は、理論ならびに核物理学を熟知する数百人の主要なユダヤ人物理学者を追放する結果を招いた。 p.40 「ロシア人が発明したものは何もない」とヒトラーは思い込んでいた。 p.49 彼は戦争が始まると早々に「最も好ましいことは、キリスト教を自然死させることだ」とヒムラーに告げた。 p.50 ヒトラーは、戦争に必要な応用科学と工学技術を理解し、さまざまな兵器に強い関心を持ち、それが、どのように働くか、すばやく理解した。 p.38 人種衛生学のようなドイツの優生学の進展は、アーリア人至上主義の神話と同じく、擬似ダーウィン進化論によって、具体化されていった。 p.110 四分の一のユダヤ人の血を持つ者でさえも非アーリア人とされた。 p.158 医学、人類学、地理学といった学問は、ナチのイデオロギーにのっとられていった。 -p.214 ハイゼンベルグは戦争は長引かず、ドイツが勝利するはずであり、ドイツの原子物理学は、英米と肩を並べていると想定していたのかもしれない。 -p.349 ジョン・ロールズはトルーマンの政治的手腕の純然たる欠如のため核兵器の使用なしに戦争を終結させられなかった、と1995年に論じた。 -p.495 ナチだけが格別に違う存在と言えるだろうか? アーリア人だけが人種的に優秀であるとする科学的な根拠はついに見出せなかった。 -p.512 日本は731部隊の医学研究者チームは、数千人の人間モルモットに、致死力のある病原性細菌や化学毒物を盛り込んだ実験を行った。 広島と長崎の核兵器の先制使用の正当化における馴染みの議論は、それが戦争終結を早め、多くのアメリカ兵の命を救ったというもの。 -p.495 あとがき 歴史は勝者の視点で描かれる。 ドイツは世界に先駆けて、国家的にガン予防策(タバコの規制など)をとった。 アスベスト素材を禁止した。被害者には国家補償を提供するという公衆衛生の先進性を実行した。 我々は、科学の光と影を、より客観的に見つめねばならない。
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この一冊ヒトラーの科学者たち ジョン・コーンウェル著 現代社会に投げ掛ける重い問い 2015/7/5付日本経済新聞 朝刊 核物理学の創始者ラザフォードは一九三七年、『新しい錬金術』の中で「人工的に核から有用なエネルギーを取り出せる見込みは、まずない」と書いている。彼の門下...
この一冊ヒトラーの科学者たち ジョン・コーンウェル著 現代社会に投げ掛ける重い問い 2015/7/5付日本経済新聞 朝刊 核物理学の創始者ラザフォードは一九三七年、『新しい錬金術』の中で「人工的に核から有用なエネルギーを取り出せる見込みは、まずない」と書いている。彼の門下生チャドウィックが中性子を発見したのは一九三二年、その二年後にはフェルミが中性子の照射による元素の人工変換に成功しているが、そうした実績を踏まえてもまだ、ラザフォードですら、核エネルギーの実用化は非現実的とみなしていたのである。 ところが、一九三八年、ドイツのハーンらが中性子の衝突によるウランの核分裂を発見すると、科学の進歩と国際政治は大きな曲がり角を迎えることになる。核分裂の連鎖反応を起こさせれば、化学エネルギーの百万倍に達する核エネルギーの実用化がにわかに現実味を帯びてきたからである。ヒトラーが政権を掌握してから五年目の出来事である。 その間に、アインシュタインをはじめとする多くのユダヤ系科学者がドイツを去っている。もし、ヒトラーの台頭と核分裂発見の順序が逆転していたら、彼らはドイツ国内に拘束され、現代史は大きく塗り替えられていたかもしれない。本書によれば、一九四二年の時点においても、ヒトラーは原爆の概念と核物理学の革命性を理解できなかったとあるが、もし独裁者の認識にずれとわずかな遅れがなかったとすれば、世界の情勢は大きく変わっていたであろうと思わざるを得ない。 本書は、こうした“歴史のif”を基礎科学から医学、応用技術の多分野にわたって想像したくなる、科学史と現代史を融合した刺激的な一冊である。その内容は書名を「ヒトラーとその時代に生きた科学者たち」と幅広く解釈して読める浩瀚(こうかん)さであり、科学技術の進歩と社会への影響が、特異な独裁者の存在に収斂(しゅうれん)させる形で論じられている。 著者は、歴史的な証言を残した多くの著名な科学者への取材と貴重な資料の渉猟を試みており、そこから、ノンフィクションの面白さと研究書としての緻密さを併せ持つ力作が出来上がっている。 最終部には、「ナチだけが格別に違う存在と言えるのだろうか?」と題する章が設けられている。そこでは、科学と軍事を含めたテクノロジーとの結びつきがますます深まり、その成果が人間の判断しだいで、功罪いずれの方向にも恐ろしい力で働くポテンシャリティをいっそう強めている今日の社会に対して、答えを見いだすのが容易ではない問いを投げ掛けている。 原題=HITLER’S SCIENTISTS (松宮克昌訳、作品社・3800円) ▼著者は40年生まれ。英国のジャーナリストで作家。ケンブリッジ大の歴史と科学哲学科の研究員でもある。
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