四月は少しつめたくて の商品レビュー
前作も良かったけど、これも良かった。 詩人が出てくる小説だと、どんな詩を書いているのか気になるが、世に知られた詩人という設定なら、読者を納得させる詩でないといけないわけで、そういう詩を書く自信のない作家は書かずに誤魔化す。『ぱりぱり』がそうだった。 谷川直子は、書いた。そしてそれ...
前作も良かったけど、これも良かった。 詩人が出てくる小説だと、どんな詩を書いているのか気になるが、世に知られた詩人という設定なら、読者を納得させる詩でないといけないわけで、そういう詩を書く自信のない作家は書かずに誤魔化す。『ぱりぱり』がそうだった。 谷川直子は、書いた。そしてそれはいい詩だった。それだけで小説が少々つまらなくても許せるが、小説も良かった。 『うたうとはちいさな命ひろいあげ』も作家自身が短歌を詠み、それもなかなか良かったが、小説の出来はさほどでもなかった。こちらは大人の恋愛未満の関係だけでなく、子どもの学校でのトラブルも描かれているが、そこだけでもそこらのYAよりずっと人間が描けている。 谷川直子、好きだな。次回作も期待する。
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文句なしの「良い」一冊。 日々、生活の中で 言葉を選んでいるのは、それらを紡ぐ一人一人。 その各々、本に登場するみんなが 品を持っている。 だから文章に無駄がない。 詩人と、編集者の関係は どこか滑稽。 でもその距離に、二人の 控えめな主張と深い悲しみが 現れているようです。...
文句なしの「良い」一冊。 日々、生活の中で 言葉を選んでいるのは、それらを紡ぐ一人一人。 その各々、本に登場するみんなが 品を持っている。 だから文章に無駄がない。 詩人と、編集者の関係は どこか滑稽。 でもその距離に、二人の 控えめな主張と深い悲しみが 現れているようです。 教室の生徒さんと、 そのご家族たちも、 誰一人、不要なキャラクターがいない。 とても満足度の高い一冊でした。
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派手ではないけど、しっかり印象にのこって好きな雰囲気だった。物語の軸のひとつである詩人と編集者の関係がなんかすごく、いい。恋愛の浮ついたりどろっとしたものを持ってなくて、最後にちょっと気持ちが近づくのがよかったな。 こちらも軸のひとつである詩についても。詩ではない歌詞をのせて歌う...
派手ではないけど、しっかり印象にのこって好きな雰囲気だった。物語の軸のひとつである詩人と編集者の関係がなんかすごく、いい。恋愛の浮ついたりどろっとしたものを持ってなくて、最後にちょっと気持ちが近づくのがよかったな。 こちらも軸のひとつである詩についても。詩ではない歌詞をのせて歌う歌手、若い世代のカリスマってみんなそんな感じ。無責任な応援歌か、感想文みたいな恋の歌。単純でない言葉や表現は今の子たちには理解されないのかも。
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今の私たちは、自分の話した言葉がどう切り取られ、誰にどう批判されるかわからない世の中に生きている。目の前にいる人に発した言葉であっても、様々なツールによってそれは拡散される。人はそれを確かめもしないで、ささやき合い、悪意のない態度で、距離感で、人を追いつめることができる。本当のこ...
今の私たちは、自分の話した言葉がどう切り取られ、誰にどう批判されるかわからない世の中に生きている。目の前にいる人に発した言葉であっても、様々なツールによってそれは拡散される。人はそれを確かめもしないで、ささやき合い、悪意のない態度で、距離感で、人を追いつめることができる。本当のことなんて言えない。当たり障りのない言葉で相手を認め、口をつぐむ。または、匿名で相手を罵倒する。罵倒する言葉も決まりきっている。自分の生み出した言葉なんかでなく、お決まりの言葉を使って…。今の時代の小説だなあと思った。
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詩人と名乗りながらも詩集が出せない藤堂。編集者の桜子。詩とは心を降りていく階段、という言葉が印象的。
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エッセイのように軽く読めて 詩のように心に届く 妙に清々しい小説だ テーマの一つに《謝罪は権力を生む》というフレーズがある その中で 死に別れという痛みに負けた老いぼれ元大詩人と なんとか再起させようとムキになる傷ついた編集者の出合い 底無しの距離をとりながらの絡み合いで 傷...
エッセイのように軽く読めて 詩のように心に届く 妙に清々しい小説だ テーマの一つに《謝罪は権力を生む》というフレーズがある その中で 死に別れという痛みに負けた老いぼれ元大詩人と なんとか再起させようとムキになる傷ついた編集者の出合い 底無しの距離をとりながらの絡み合いで 傷を舐め合うことから脱皮していくという物語と 娘がイジメられて自殺未遂したと訴えられた無実の親子と 同じ元大詩人が絡んでそれぞれが再起していくという 物語が交差するストーリー 妙にシツコカッたり頑張ったりと無理な箇所も感じるけれども こんなことも多様な自然界になくはないのだろう
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藤堂孝雄という書かなくなった詩人を軸に二つの物語が交互に語られる.でもどちらも言葉の持つ力に向き合っていて,最後には再生の瞬間を見せてくれる.挿入されている詩も良かったです.
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いつからか詩を書けない詩人、子供の死に心深く罪の意識を宿す編集者、友人の自殺未遂に自ら外の世界とつながる言葉をなくしてしまった少女、少女に語りかける真の意味をもつ言葉を探し続ける母親、4人をめぐる言葉と詩の物語。 作者の谷川さんご自身が詩を書かれるので、言葉に対する執着、愛着は...
いつからか詩を書けない詩人、子供の死に心深く罪の意識を宿す編集者、友人の自殺未遂に自ら外の世界とつながる言葉をなくしてしまった少女、少女に語りかける真の意味をもつ言葉を探し続ける母親、4人をめぐる言葉と詩の物語。 作者の谷川さんご自身が詩を書かれるので、言葉に対する執着、愛着は強い。 「意味を失ってしまった言葉に、もう一度意味を持たせるにはどうしたらいいのか」 「詩は心の内側に降りていくための階段」 物語の中に出てくる純粋な言葉と詩へのこだわりの対極に、物欲にまみれた現実の描写は詩の純粋さを際立たせる。ラストで用意された、詩人と編集者、少女と母親の行き着いた結論はもう少し深く味わいたかった。
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四月は少しつめたくて、その言葉から物語は始まる。 再び春がくるまでに、そのつめたさに少しずつ触れ、言葉とその意味とそれらが表すものの正しさを、詩人と編集者とともに考えさせられる。 詩人が詩を書けない理由と、女性誌の敏腕編集者が詩の編集者に転向した理由はどこかつながっている。 「失...
四月は少しつめたくて、その言葉から物語は始まる。 再び春がくるまでに、そのつめたさに少しずつ触れ、言葉とその意味とそれらが表すものの正しさを、詩人と編集者とともに考えさせられる。 詩人が詩を書けない理由と、女性誌の敏腕編集者が詩の編集者に転向した理由はどこかつながっている。 「失なわれたもの」を捉えようとひたむきに正面から向き合うこと、またそれに背を向け考えることを止めてしまうこと。 哀しみや愁いを言葉にすることの意味がどこにあるのか。 美しい言葉は情報のように空虚に感じられ、感動は押し付けがましいものになり、ただ与えられた言葉を重ねるだけでは「詩人のふり」になってしまう。 「詩ってなんですか?」という問いに対する詩人の答えは、本書のラストで明かされる。
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現代にとても即した小説で、誰もが薄々思っていたことが書かれていた。 スマホ、ライン、スタンプなどの登場で言葉はどんどん従来の意味から離れ、空虚なものとなってきている。かわいい、いい感じなど使い勝手の良さから意味が複数加えられ本来の意味を見失った言葉もある。 詩人というのは、言...
現代にとても即した小説で、誰もが薄々思っていたことが書かれていた。 スマホ、ライン、スタンプなどの登場で言葉はどんどん従来の意味から離れ、空虚なものとなってきている。かわいい、いい感じなど使い勝手の良さから意味が複数加えられ本来の意味を見失った言葉もある。 詩人というのは、言葉に対して真摯で、物事に対しても簡単に考えるということをしない人種だとわたしは思う。そんな言葉と物事を大切に考える詩人と、現代の浪費される言葉を並べて描き、生きた言葉を使うことの大切さを読者に教えてくれる。 作中に出てくる詩がとても素敵でした。「謝罪は権力を与える」その通りだと思います。今まで一度も考えたことがなかったけれど、謝ることも一筋縄ではいかないのだなと。心に何か傷痕を残すような素敵な言葉がたくさん詰まっていて読んでいて心地が良かったです。
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