犯罪 の商品レビュー
弁護士である「私」が携わった事件、その背景を追いかけながら、被告人たちの真実を描く11篇の連作短編集。 現代ドイツを舞台にしているのだが、難解で共感も困難な事例が多く出てくる。それを一番感じたのは、移民や難民などの他民族他国籍の人々との絡みだった。「この民族は〜な性質」「この国籍...
弁護士である「私」が携わった事件、その背景を追いかけながら、被告人たちの真実を描く11篇の連作短編集。 現代ドイツを舞台にしているのだが、難解で共感も困難な事例が多く出てくる。それを一番感じたのは、移民や難民などの他民族他国籍の人々との絡みだった。「この民族は〜な性質」「この国籍は〜レベル」といったような暗黙の既成観念があるように感じ、それを覆せなかった人々による犯罪は、日本にいるとあまりピンとこないように思った。読み進めると、痛々しくて生々しい人々の叫びが文中から聞こえてくるようで、淡々とした「私」視点も相まって、一篇一篇にキツイ読後感を味わうこととなった。 後書きを読んでもう一度本文を読み直したのだが、確かに全部の話にリンゴが登場しており、作者の仕掛けたちょっとしたトリックに驚かされた。「これはリンゴではない」なるほど、確かに。
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東京創元社のフェアで気になり購入。犯罪者と聞くと別世界の話に感じるけど、私たちはたまたま罪を犯していないだけであって、抱える愛も悲しみも彼らと何ら変わりないことを感じる。誰かに肩入れをせず物事を平に見つめた淡々とした文章も良かった。お気に入りは、「フェーナー氏」と「チェロ」。&q...
東京創元社のフェアで気になり購入。犯罪者と聞くと別世界の話に感じるけど、私たちはたまたま罪を犯していないだけであって、抱える愛も悲しみも彼らと何ら変わりないことを感じる。誰かに肩入れをせず物事を平に見つめた淡々とした文章も良かった。お気に入りは、「フェーナー氏」と「チェロ」。"物事は込み入っていることが多い。罪もそういうもののひとつだ" 人間の感情は自分ではどうしようもできない、理屈では説明できないことも多くとても難しいものだけど、だからこそきっと愛おしい。
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<(前略)私には参審裁判所で裁判長を勤めたおじがいました。故殺や謀殺などの殺人事件を扱っていました。おじは私たち子どもにもわかる事件の話をしてくれました。でも、いつもこういってはじめたものです。「物事は込み入っていることが多い。罪もそういうもののひとつだ」 おじのいうとおりでした。私たちはさまざまな物事を追いかけています。ところが物事の方が速すぎて、どうしても追いつけないものです。私の話に出てくるのは、人殺しや麻薬密売人や銀行強盗や娼婦です。それぞれにそれぞれがたどってきた物語があります。しかしそれは私たちの物語と大した違いはありません。私たちは生涯、薄氷の上で踊っているのです。氷の下は冷たく、ひとたび落ちれば、すぐに死んでしまいます。氷は多くの人を持ちこたえられず、割れてしまいます。私が関心を持っているのはその瞬間です。幸運に恵まれれば、なにも起こらないでしょう。幸運に恵まれさえすれば。(後略)> まさに本書「序」のとおりだ。たまたまそれが可能な状況や環境が訪れた/いつの間にかそのような事態に陥ってしまった彼ら“犯罪者”と、まだ罪を犯してない私たちとの差など紙一重なのだろう。作者が描く数々の罪はどれも異様で不可解なものばかりだが、それは私たち人間そのものを描かんという意図の表れではないだろうか。
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「さあ、櫂を漕いで流れに逆らおう。だけどそれでもじわじわ押し流される。過去の方へと」 「物事は込み入っていることが多い。罪もそういうもののひとつだ」 ・様々な原因があって人は罪を犯してしまう。自分が今犯罪者にならずにいるのは、幸せなのだと気づいた。作者の言っていた通り、幸運...
「さあ、櫂を漕いで流れに逆らおう。だけどそれでもじわじわ押し流される。過去の方へと」 「物事は込み入っていることが多い。罪もそういうもののひとつだ」 ・様々な原因があって人は罪を犯してしまう。自分が今犯罪者にならずにいるのは、幸せなのだと気づいた。作者の言っていた通り、幸運に恵まれさえすれば何も起こらない。幸運に恵まれさえすれば。 ・特に3つ目のチェロの話が好きだった。 幸せになろうとしても、押し流されてしまう。彼女が罪を犯さずに幸せになれる方法が思いつかない。
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2010年クライスト賞(ドイツ) 2012年本屋大賞〈翻訳小説部門〉 『このミステリーがすごい!2012年版』海外編第2位 週刊文春2011ミステリーベスト10 海外部門第2位 『ミステリが読みたい!2012年版』海外篇第2位 いわゆるミステリー小説ではなく、様々な「犯罪」の話...
2010年クライスト賞(ドイツ) 2012年本屋大賞〈翻訳小説部門〉 『このミステリーがすごい!2012年版』海外編第2位 週刊文春2011ミステリーベスト10 海外部門第2位 『ミステリが読みたい!2012年版』海外篇第2位 いわゆるミステリー小説ではなく、様々な「犯罪」の話を刑事事件専門の弁護士である著者が語る11編からなる短編集。 伏線やどんでん返しのようなドキドキする展開はなく、被告人が罪を犯すに至った過程を読み、客観的に罪について考えさせられる。 被告人は善人だったり、精神を病んでいることが多く、ただ犯罪者とくくれない複雑さがある。 やるせない気持ちでちょっと重たい気持ちになった。
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作者はドイツの弁護士。 発想の源泉に自身の職務経験があるのではないかと思わせる。 派手ではないが、いろんな背景やドラマのある犯罪が11話収録されている。 独自の詩的な表現が面白い。
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本物の弁護士が書いたミステリーで、「現実の事件に材を得て」とあったので、とてもリアリティーを感じました。 一般的なミステリーとは違って、いろんな境遇の人たちの感情を描いた作品になっています。それでいて文体は極めて簡潔で、冷静なものです。 描き方も一捻りあって、中には最後まで読むと...
本物の弁護士が書いたミステリーで、「現実の事件に材を得て」とあったので、とてもリアリティーを感じました。 一般的なミステリーとは違って、いろんな境遇の人たちの感情を描いた作品になっています。それでいて文体は極めて簡潔で、冷静なものです。 描き方も一捻りあって、中には最後まで読むと「?」となり、頭から読み直したくなるものもありました。
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※このレビューにはネタバレを含みます
・あらすじ 刑事事件専門の弁護士である作者が罪を犯した人々を描く短編集。 ・感想 シーラッハ3作目なんだけど特徴的な修飾のない平易な文体は読んでると自分が参審員になった気持ちになる。 罪に問えない、問いたくない…物事は全て複雑。 特に好きなのは序、フェーナー氏、棘、エチオピアの男。 最後の「これはリンゴではない」という一文と解説を読んで前編にリンゴが出てるのに気づいた…w 「緑」で最後に「自分の数字は緑」と言うんだけど…これはどういう事なんだろう? さっぱり意味がわからない…。
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東西ミステリ海外版52位の本作を読了。 犯罪が起きた背景を司法に関連する著者が描く。 人によって好みが別れるかもしれないけど読む価値は有ると思います。 ①なかなか。動機ちょっと見えず。 ②タナタ氏:こうゆう話が続くのかな? ③チェロ:事件の真相とは。 ④ハリネズミ:小僧の知恵話。 ⑤サマータイム:ちょっとしたトリック。真相は結局何だったんだろう。 ⑥正当防衛:読了 ⑦緑:ちょっとサイコ入ってる少年のお話 ⑧棘:俺はこの中では、上位で好きかな。金閣寺モチーフとでも言うか。 住居愛情:カリバリズムの奇形性を上手く捉えている ⑨エチオピアの男:人情噺とこの本のエッセンスが上手くミックスされてる。秀逸。
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短編集で、フェルディナントが弁護人として担当した事件を題材にしたフィクションということです。非常に興味深い話が連なっており、読了後は些か呆然としました(ぼんやりと、という表現が正しいような気もしますが。)。 前回読んだ『コリーニ事件』の後書きに書かれていましたが、私達がみな&q...
短編集で、フェルディナントが弁護人として担当した事件を題材にしたフィクションということです。非常に興味深い話が連なっており、読了後は些か呆然としました(ぼんやりと、という表現が正しいような気もしますが。)。 前回読んだ『コリーニ事件』の後書きに書かれていましたが、私達がみな"薄氷の上で踊っている"のだという表現がまさしく相応しい話ばかりでした(中には違うものもありますが、概ね。)。小説内の犯罪自体は確かに異様ですが、その犯罪に及んだ人はみなどこにでもいる普通の人間で、序章の表現を借りるなら、公園で犬の散歩をしている人です。この連作に、普通の人間がほんの僅かな歯車の狂いにより一瞬で薄氷の下に沈むイメージを与えられました。 昨年、私達は犯罪者や被告人を異常な者として捉えてしまっているんじゃないかと揺さぶられた経験があります。極端な話をするつもりはないのですが、私達は誰もが犯罪に手を染める危険を有していて、そのことに気が付かず、犯罪の淵へ落ちないまま人生を終えることができたらそれは運の良いことではないでしょうか。
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