棄霊島 (下) の商品レビュー
【概略】 軍艦島で起きた30年前の出来事に縛られる者達、それは殺人事件という形にまで昇華された。浅見光彦に軍艦島に棄てられた念について語った元・刑事である後口(うしろぐち)は、その刑事たる職責と人としての情の間に苛まれ、30年という時間を飛び越え、当時打ち捨てた自身に立ち向かい...
【概略】 軍艦島で起きた30年前の出来事に縛られる者達、それは殺人事件という形にまで昇華された。浅見光彦に軍艦島に棄てられた念について語った元・刑事である後口(うしろぐち)は、その刑事たる職責と人としての情の間に苛まれ、30年という時間を飛び越え、当時打ち捨てた自身に立ち向かい、帰らぬ人となる。上巻で明かされた秘密から浅見光彦は、真の闇に迫っていく。 2024年06月10日 読了 【書評】 毎回「概略」を書くのが大変。概略=要約、で「要約」をわかりやすく且つその要約を見てその本を読みたくなるような、そんな形にしたいのだけど。要約力、高めたいからずっとこのブクログ続けてるのだけども、今回はなんか難しく感じた。 上巻である程度の情報が提供された状態で、読者としての自分は「まぁ、この状態だと犯人は〇〇で、実際には△△だよな」なんてことを、浅見光彦マナーと照らし合わせながら推測する。いや今回はその推測で間違いないでしょう?と、あたかも自分が浅見光彦になったかのような形で待ち受けていたら最後の最後、やはり本作中の浅見光彦のようにビックリさせられる。ある意味、推理小説って「うわぁそうきたか!」という自身の推測が外れた時に起きるカタルシスがよかったりする。正解を導き出す喜びではなく、負けた時に味わう爽快感かな。「うわ~やられた~まいったー」ってセリフと、(昭和っぽいアクションかもだけど)利き手で額を覆う感じ。マゾっ気が、ミステリーを楽しむ重要な要素かも? さて浅見光彦シリーズは時折、社会問題が下敷きにおかれ、単なる謎解き旅情を楽しむだけでなく「あなたはどう思う?どう考える?」という命題を与えられる。こんなものに正解は、ない。特に「正義とは?」といった類のものについては、歴史を振り返ると、なにが正義でなにが正義かなんて語ること自体が青臭いのよね。 今回の社会問題は、北朝鮮による拉致問題。拉致被害者という立場の方達がいることから徹底した究明を!となってしまうことは理解できる。そして、日本が朝鮮人を強制連行し強制労働をさせたことと、拉致被害者の方達からしたら直接の関連がないということも。でも、どちらも「日本」が関わっていることなんだよね。「個」という部分と、その個が集まった「組織」という部分の矛盾。これは靖国問題でもなんでも当てはまる。東京空襲や長崎・広島に原爆を落としたアメリカが、なんで大量破壊兵器のことを偉そうに糾弾できるのか?なんてことも不思議だよね。それでも、それぞれが毎日なにかしらの「断」をくだしていかないといけないし、そのくだした「断」から広がる果実・・・その果実にはプラス・マイナスの双方があるのだけれど・・・の責任を背負って歩いていく必要があって。 本書では浅見光彦は「逃げますか」と、対決をした相手に投げかけられる。その投げかけの前に浅見光彦は「正義」という言葉を使っている。浅見光彦は、もちろん公権力を有していない立場であるから、なんらかの「断」をくだすことができない。でもその一方で、目の前に起きた謎に対して(不謹慎かもだけど)好奇心と、その好奇心の支持棒としての彼なりの正義を活用している。たかがフィクションで、しかもミステリーでと思うかもしれないが、この浅見光彦の優しさを羨ましくも思うし、ここが日本のエンターテイメントが欧米、とりわけアメリカのエンターテイメントと大きく異なるところなのかなとも思う。白黒ハッキリさせない、スカッとさせない、なにかが読者の読了したココロに残る。それでいいのかもね。 例によってほとんどが本書の感想じゃないことをつらつらと書き綴ってしまった。よかった、この本を読めて。
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ブク友さんレビューで知ったのだが『世界の廃墟島 美しく孤独な場所』に、当地の端島(軍艦島)が挙げてあるという。『海底炭鉱だったが、埋蔵量が激減したため放棄されたその姿が戦艦「土佐」に似ていたことから、軍艦島とも呼ばれている(一度は行ってみたいです)』と書かれている。 それで、思い...
ブク友さんレビューで知ったのだが『世界の廃墟島 美しく孤独な場所』に、当地の端島(軍艦島)が挙げてあるという。『海底炭鉱だったが、埋蔵量が激減したため放棄されたその姿が戦艦「土佐」に似ていたことから、軍艦島とも呼ばれている(一度は行ってみたいです)』と書かれている。 それで、思い出した! 端島を舞台にした内田康夫さんの『棄霊島』を・・・。夏帰省していた次男と軍艦島へ上陸し、荒廃したコンクリートの建物の黒い窓が髑髏の眼窩のように暗く光っていたのが甦った。暮れに書店に平積みされた小説『棄霊島』を見つけたのは、今から一昔前の年末だった。 以下は、2010年01月07日に、別なブログに感想を書いていたのを転載しました。 作家は旅情ミステリー作家と云われている有名な内田康夫さん。題が意味深な『棄霊島』。何とも絶妙なタイトル。『浅海は『棄霊』という文字を連想した。幾多の霊魂が棄てられた島のイメージが頭の中に広がった。眼下の殉教の島、軍艦島、それに日本列島の至る所から、無為に棄て去られた霊魂たちの慟哭が聞こえてくるような気がした』の一文があった。彼の作品は一度も読んだことがないけれど、軍艦島を舞台にしてどんなプロットで小説が書かれたのかとても興味が湧いた。 忌まわしい事があってもちっともおかしくないような風貌の島影。炭鉱労働者として朝鮮大陸から連れて来られた人々など、現代の北朝鮮拉致問題と絡み合わせ、まるで事実かのようなフィクションを織り交ぜ、時々挟まれる彼の政治へ対する思想背景なども興味深く読んだ。小説中に出て来るカステラ屋さんの名前は松翁軒が松風軒と名前を変えてあるだけで、建物の佇まいはそのまんま。本当に、電車通りに面した七階建てのオランダ風の小粋なビルで、一階が店舗、二階がカフェレストラン。地名は実名で野母崎にあるレストランなどもまったくその通りなので、ノンフィクションとはとても思えず、リアリティが増す。本当にそんな事件が隠されていたのかと、モデルがあったのではないかと疑いたくなるほど。 ほとんど小説の舞台は中央都市が多く、旅行はそこに訪れて主人公の気持ちになるのが私流の楽しみ方なのだが、本作は地元だったため主人公の動向が良く把握できた。 「それにしても作家の想像力って凄い!」と、素直に手離しで喜べる作品だった。 市内の山に登ると、見えないと解っていても、長崎湾の伊王島のもっと先に浮かぶ軍艦島をつい探すしてしまうのは、いっとき止められそうにありません。と結んでいる。
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2回映像化されているように記憶しているが、いずれも、本書の「政治色」、「宗教観」の問題はバッサリ切られていましたね。 映像化作品だけを見ると、なんでそこまで(今更後口さんが死ななければならないほどに)話が大きくなるのかがちっとも見えてこなくてモヤモヤが残ったのが、読んですっきりと...
2回映像化されているように記憶しているが、いずれも、本書の「政治色」、「宗教観」の問題はバッサリ切られていましたね。 映像化作品だけを見ると、なんでそこまで(今更後口さんが死ななければならないほどに)話が大きくなるのかがちっとも見えてこなくてモヤモヤが残ったのが、読んですっきりとまではいかなくても、多少解消されました。 今年の、軍艦島を含む近代化遺産群の世界遺産登録とそれをめぐる韓国との軋轢を、光彦はどう見るだろうか? 素直に喜びはしないような… ところで、山前譲氏の解説にある「二〇一五年早々に日本社会を震撼させたある事件を見据えていたかのような…」って何のこと?そこだけ、全然ぴんと来なかった。 普通この時期の社会を震撼といえば、ISによる人質事件のことかなと思うが、それと本作のつながりが見えない。他に何か? 私の常識がないせい?
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