骨相学 の商品レビュー
ドイツ人医師のフランツ・ヨーゼフ・ガルによって提唱され、18世紀末から19世紀にかけてヨーロッパの思想界に大きな影響をもった骨相学が、とりわけ教育思想史のなかでどのような位置を占めているのかという問題について考察をおこなっている本です。 こんにちでは骨相学は、脳機能局在論の先駆...
ドイツ人医師のフランツ・ヨーゼフ・ガルによって提唱され、18世紀末から19世紀にかけてヨーロッパの思想界に大きな影響をもった骨相学が、とりわけ教育思想史のなかでどのような位置を占めているのかという問題について考察をおこなっている本です。 こんにちでは骨相学は、脳機能局在論の先駆という評価がなされる一方、頭骨のかたちから個人の能力を類推することができると説く疑似科学の一種とみなされています。しかし「骨相学」(phrenology)ということばは、古代ギリシア時代に感情や思考の座と考えられた「横隔膜」を語源としており、「サイコロジー」とは異なるもうひとつの「心の科学」でした。著者は、この「心の科学」が「能力心理学」の一種だったと主張し、とくに19世紀の教育にかんする言説空間において、骨相学に依拠したさまざまな言説が展開されていたことを明らかにしています。 本書で主な考察の対象となっているのは、骨相学の創始者であるガルと、その助手で骨相学の「哲学化」と「科学化」を試みたヨハン・ガスパール・シュプルツハイム、そして骨相学に依拠した教育の実践にたずさわったジョージ・コームの三人です。さらに、「能力心理学」の系譜についても著者の考察はおよんでおり、とくにジョン・ロックの認識論のなかで「能力」という概念が重要な位置を占めていることを指摘するとともに、彼の哲学的能力心理学を科学的生理学に移し替えたのが、ガルにはじまる骨相学だったという見かたが提示されています。 骨相学については、ヘーゲルの『精神現象学』のなかで現代の読者がとまどいを感じるほど詳細な議論がなされており、以前から多少気になっていたこともあって、本書を手にとりました。「能力」にまつわる知の系譜学的な考察など、もうすこし突っ込んで議論を展開してほしいと感じるところもありましたが、骨相学とそれを取り巻く言説空間の実態について知ることができたように思います。
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