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永遠の夏 の商品レビュー

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2023/07/23

真珠湾攻撃、インパール作戦、硫黄島の戦い、沖縄戦、広島原爆投下等々… 第二次世界大戦を題材にした14人の作家による戦争小説集。 戦時中の兵士、一般市民だけでなく、現代に繋がっている物語もあり。 全てフィクションでありノンフィクションなのだと思う。

Posted byブクログ

2018/04/22
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

アンソロジーなので、面白く読んだものもあれば、タイクツしたものもある。 面白かったのは、古処誠二「糊塗」、帚木蓬生「抗命」、の2作。 前者は、敗戦の陰が差すニューギニアで、部隊移動のために道を補修し続けるという終わりない作業を任務とする隊内で、部下を刺し殺したとする上等兵の謎を暴く物語。それは天皇陛下から預かった銃剣を紛失するという事件から端を発していた。何気ない些細なミスが大きな事件を生むことはあるが、何万という将兵が殺される現実を前に、何を大事とすべきか、何を事件とすべきか、苦しい判断に迫られる。天皇の子であると教育されている兵士たちにとって、銃剣の紛失は大変な失態であり、殺人を犯したと言い募るほどのことであったかもしれない。 しかし、その後の歴史が証明している。この後、何十万もの兵士や市民が命を落としていく。その戦争の中では、銃剣一本のことよりも大切なもの、なくしてはならないものがあったはずだ。そのことを無視して、剣一本、悪意なき不注意を咎め立てできる者はいない。 後者は、ちょうど、その逆で、インパール作戦において、大勢の将兵の命を預かる烈師団長の佐藤中将の判断を問う物語だ。 そもそもの最初から無謀と言われ、その悲惨さも含め、今も最大の作戦失敗として名高いインパールの占拠作戦。中将は後方補給地のコヒマ攻略が任務だったが、兵站の乏しい難路の強行軍に、補給もなく、将兵は病気と飢えでバタバタと倒れていく状況に、軍法会議にかけられる=死刑を覚悟して、司令官牟田口中将の命令に背き、撤退命令を出した。佐藤中将の命令時の精神鑑定をする山下軍医が、もし自分が、中将の精神に異常なしとしたら死刑になってしまう、異常だということになれば命が助けられるのではと逡巡することになる。 無謀かつ強引な作戦を強要した牟田口中将と、将兵の命を優先して命令に背いた佐藤中将と、どちらの精神が明晰であり、どちらの判断が明察であるか。それを法廷で争おうとした佐藤中将の思いは、しかし、激しさを増す戦争の波の中に沈んでしまう。 その他、坂口安吾「真珠」は、太平洋戦争開戦のハワイ特攻を行った九軍神への市井の反応を綴ったものとして興味深い。「あなた方」と呼びかける言葉の裏には、闘いの火蓋を切った若者たちへの尊敬の念が感じられる。その先の歴史を見通しても、同じ尊敬の念を継続し得たのだろうか。 また、五木寛之「私刑の夏」は、敗戦後、北朝鮮から三十八度線を越えて日本へ帰りたいと願って逃走を企てる人々に起きた出来事を語る。敗戦後の混乱期に、遠い異国の地に残された人々には、騙し、騙され、死にものぐるいの駆け引きをしながら、戦史には語られないさまざまな出来事があったことだろう。 田村泰次郎「蝗」では、棺桶とともに、いわゆる朝鮮人女性の慰安婦を部隊に輸送していく軍曹の物語。 冒頭、柴田哲孝「草原に咲く一輪の花 異聞ノモンハン事件」も、ありもしない(?)チンギス・ハンと義経伝説を追って、戦略的には意味のない場所を争った日本とソ連の両軍の空しさが書かれる。その当時の兵士たちは必死だったが、長い年月を経て振り返った時、果たして、厳命をもって他言を禁じたことの意味と価値について考えさせられる。 通して読んで、振り返り、いったい、あの戦争は何だったのだろうと思う。それぞれの刹那が、あまりにも儚く、脆く、愚かだ。

Posted byブクログ