男性漂流 の商品レビュー
結婚、育児、介護、老い、仕事……それぞれについてうまくいっていない男たちの姿が描かれる。読んでいながら、どれもこれもについて自分も片脚突っ込んでいるような気がして戦々恐々としながらページを繰った。対象人物を追ったルポなのだが、相手によっては足かけ10年くらいかけているものもあり、...
結婚、育児、介護、老い、仕事……それぞれについてうまくいっていない男たちの姿が描かれる。読んでいながら、どれもこれもについて自分も片脚突っ込んでいるような気がして戦々恐々としながらページを繰った。対象人物を追ったルポなのだが、相手によっては足かけ10年くらいかけているものもあり、その点で非常に真面目な構成。著者は女性で、定番の戯言として「女に男の何がわかるか」という声もあろうが、こうした男性の生きづらさに焦点を当てるのは女性か女性的に生きる男性にしかできないだろう。 男たちの何がつらいかというと、おそらく理想の男像と自画像との乖離にある。女たちはたぶん、わりと日常的に女であることの不条理や理不尽、不便を感じながら生きている。対して、男にそれはない。男であることの不条理や理不尽、不便ではなく、自らの不徳のいたすところとされてしまうから。理想的な男の姿でない自分を情けなく思い、堕ちていく。男だと過剰に意識したりしなければもっと気楽に対処することができるのかもしれない。自分の意識や世間がそれを難しくさせている。理想の男像を最大公約数の男にしておけばいいのに、最上の男においていることがつらさを生んでいる。最大公約数の男=「平均的な男」という言葉からしてポジティブワードでないのだから。 とはいえ、書中の男たちは気の毒だ。わが身をなぞらえて共感も覚える。やさし過ぎたり正面からぶつかることが彼らの不幸を呼んでいる気もするのだ。本当なら、やさしかったり正面からぶつかるというのは「男らしい」とされていることなのに、そのことが不幸を呼ぶということは、少々強引だが、男らしくいることが不幸を呼ぶと言い換えることもできよう。そのものずばり旧来の男性像、価値観を意識するあまりの不幸もあるだろう。世の中は「男らしく」生きていると生きづらい。一番のうのうと漂っていけるのは「男ぶって」、いいとこどりしながら生きていくことではなかろうか。もっとも、それでは男の魅力も世のゆく末も期待の外になってしまうだろうけれど。
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「仕事のパワーゲームで常に勝者であることを欲してきた男というものはとかく、競争原理にとらわれやすい。そうして、父親たちはわが子の育児、教育についても他者との比較による優劣や勝ち負けに過敏になってしまう。 」という部分が印象的。 「イクメン」という言葉をよく聞くようになり、一見良い...
「仕事のパワーゲームで常に勝者であることを欲してきた男というものはとかく、競争原理にとらわれやすい。そうして、父親たちはわが子の育児、教育についても他者との比較による優劣や勝ち負けに過敏になってしまう。 」という部分が印象的。 「イクメン」という言葉をよく聞くようになり、一見良い風潮かと思うが、当の本人である男性たちは仕事にプラスしてさらにプレッシャーがかかり押しつぶされそうになるのかもしれない、と思われる。 女性にも多かれ少なかれ勝ち負けを意識することはあるが、男性のそれは更に上をいくのかもしれない。
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たくさんの男性を十年ぐらいの長い期間追跡調査しながら,社会の傾向とリンクさせ,男性の社会の中での問題に迫っている.そっくり女性に置き換えてもいいところも多い.また立ち直るきっかけに,妻の力が結構あったのが印象的だ.
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婚活、育児参加、親の介護、アンチエイジング、非正規雇用、これらは女性だけではなく、男性にとっても深刻な問題。 とくに育児参加するのは当たり前という風潮に対して、働き盛りで責任の多い時期にあるイクメンたちのプレッシャーには同情する。 昔、自分は子供達を保育所に預け働いていたが、20...
婚活、育児参加、親の介護、アンチエイジング、非正規雇用、これらは女性だけではなく、男性にとっても深刻な問題。 とくに育児参加するのは当たり前という風潮に対して、働き盛りで責任の多い時期にあるイクメンたちのプレッシャーには同情する。 昔、自分は子供達を保育所に預け働いていたが、20年前にも関わらず、父親や祖父母の協力を得ている母親は多かった。だから今さらイクメンというのがよく分からなかった。 しかしこの取材を読んで、仕事がうまくいかず逃げ道として育児に集中するとか、パパ育児サークルとか、自分の有能さを子供に誇示するとか、、イクメンと言われる人達に対して、ますます理解に苦しんでしまった。基本的に彼らは自己中である。みな親としての成長過程があるわけだが、、、。 しかし最終的に、子供は大人になっていくし、そんな父親とも良い親子関係になれたりしている。 最初から立派な親は存在しないだろうが、一所懸命になる部分はあまりズレないほうが良い… 介護に関してはいまさらだが、今後の高齢化日本は大丈夫なのか、先行きがとても不安になる。嫁や兄弟のいない息子が親の介護をして仕事までやめて貯金を崩す。そして再就職するには難しい現実。でもそういう事例がたくさんある。仕事が忙しい家庭では、就職を一度もせず介護をする孫娘のようすをテレビで見た。 片やアンチエイジングだが、ED治療で自信を取り戻した男たちの全盛と行く末に、申し訳ないが失笑してしまった。自分の老いを受け止められない。ショックは大なり小なり皆経験する事だが、男も女も、血眼になってアンチエイジングにはまるのは、著者曰く、今の自分を否定する事に他ならない。見ためを若く保つ努力は良いが、何ごとも本末転倒になるのはいかがなものか。しかし人間が不惑の境地に達することはいくつになっても難しいもので、そこが愛すべきところでもある。
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結婚・育児・介護・老い・仕事と5つのテーマに沿って新聞記者である著者による問題当事者である男性(主として中年)への取材記録です。 イクメンという言葉だけが先立ってブームの圧力に押され慣れない子育てに右往左往している元エリート銀行員男性、母親を介護することによって自暴自棄になってし...
結婚・育児・介護・老い・仕事と5つのテーマに沿って新聞記者である著者による問題当事者である男性(主として中年)への取材記録です。 イクメンという言葉だけが先立ってブームの圧力に押され慣れない子育てに右往左往している元エリート銀行員男性、母親を介護することによって自暴自棄になってしまった中年未婚男性、そして若い女性との性的関係でしか自己満足感が得られない老いに対する恐れ・アンチエイジングへの執着が強い男性などとて興味を持ちました。 自分に関係することはもちろんのこと、自分とは関係がないことでも自分と同世代の男性が抱えている問題・悩んでいることを知ることによってとても勉強になります。こういった当事者を追いかけたインタビュー形式のルポルタージュは少しでも他者を理解するうえで本当にいいものだと思います。
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いろいろなケースにおかれた男性が登場し、初めの印象は公私ともに体面を気にする、加齢を気にする、仕事・育児・介護に完璧に向き合おうとする…など必要以上に生真面目な印象を持つ登場人物が多かったです。世間の標準以上を目指そうとしているというか。でも、その強い行動力が行き過ぎると自分を傷...
いろいろなケースにおかれた男性が登場し、初めの印象は公私ともに体面を気にする、加齢を気にする、仕事・育児・介護に完璧に向き合おうとする…など必要以上に生真面目な印象を持つ登場人物が多かったです。世間の標準以上を目指そうとしているというか。でも、その強い行動力が行き過ぎると自分を傷つけてしまい、その怪我を契機に自然体の自分を取り戻す必要に気付いて、なぜか、おのれの気付きができたときから自分の周囲の環境もうまい具合に転がり出して行く…男性の生き方に寄り添う長期戦の取材であり、辛く苦しい時期の話の聞き取りは、ジャーナリストという仕事の特性とはいえども気持ちの良い作業ではないと思うのですが、その分読み応えがありました。読んで行けば、仕事をしながら介護をしようにも介護保険制度の使いづらさが浮き彫りになってきました。
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※このレビューにはネタバレを含みます
結婚、育児、介護、老化、仕事をテーマにした男性論。 バブル脳のキャリアウーマンが駄目男たちを「だから男が悪いのよ!」メッタ切り…というのを想定して、戦々恐々として読んだが、以外と著書の人当たりが柔らかいせいか、読みやすかった。 こじらせ男を面白い獲物がきたとばかりに、自己の心の動きまでありありと描写した部分は笑ってしまった。 10年越しの長期取材でターゲットとていねいな関係を築きあげながら、プライバシーまで聞き出せた努力は評価されてもよい。すくなくとも、新聞に載せられている、貧困を知らないエリート目線ではない。 白雪姫を待つ王子のように、若く美人女ばかりが寄ってくることを願って行動しない高望みの婚活男が、50近くになって年相応のパートナーに恵まれる。 専業主夫になったはいいが、子どもに押しつけ英才教育をし、ついに児童虐待、別居に至ったイクメン。仕事がないなら、理想のできる父親という完璧主義で子が犠牲になる。 40過ぎて独身、男性介護者。 介護離職のために生活に行き詰まり、ついに実母に殺意を抱くようにまでなる。現金給付のない、若い嫁を想定した介護保険制度の制度破綻を指摘しており興味深い。 男性機能の回復をして、若い子と不倫をした社長。 事業の支え手だった妻を失い、会社から人が離れ、やがて依りを戻す。 就職氷河期のワーキングプア。 就職難を苦にして非正規の女性まで敵視した男が、40過ぎてやっと正社員として採用されるまで。 ここに紹介されたケースは、かなり幸福な部類の男性だろう。人の出逢いは一期一会で、初回で印象が悪ければ話を聞きたいとも思わないが、長期にわたって取材し、彼らの成長を見守ったこと、ときには著者のほうが取材男性から慰められること、などに感銘。 個人的にはこれの女性版も読んでみたい。
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長期にわたる取材でないと描けないことが書かれている。まとめ方は強引なところがあるが、丁寧な長期取材に脱帽。
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「~がこわい」男性を、「結婚がこわい」、「育児がこわい」、「介護がこわい」、「老いがこわい」、「仕事がこわい」の5章立てにして、世にいうミドルエイジクライシスを追った本です。(当事者である男性心理に同情はできても入り込めない)女性の視点から、長い年月をかけて取材を重ねて書いている...
「~がこわい」男性を、「結婚がこわい」、「育児がこわい」、「介護がこわい」、「老いがこわい」、「仕事がこわい」の5章立てにして、世にいうミドルエイジクライシスを追った本です。(当事者である男性心理に同情はできても入り込めない)女性の視点から、長い年月をかけて取材を重ねて書いているので、取材対象者の男性が年月を経て変わっていく様が(同性である私からは)何とも切なくやりきれません。それでも、何例かはポジティブに自分を変えて(吹っ切って)、それら対象への新しい接し方、見切り方を身に着けていくので、全編悲劇のオンパレードというわけでもありません。 この本で取り上げられている男性を見ると、マスコミがあおるブーム(婚活、イクメン、モテ)や、急速に市民権を得た社会的な規範(女性活躍)に翻弄され、疲れ果て、自分を見失い~まさにタイトルが示すように「漂流」し・・・「もうちょっと主体的に生きようよ」と思うこともしばしばですが、私もたまたま仕事でそうした分野にたびたび接することがなければ、同じように漂流する中年に成り果てていたのかもしれません。女性はたとえ生涯独身でも漂流なんてしないでしょうが、男は弱いですね。「男はつらいよ」とはよく言ったものです。 ここのメンバーは女性の方が多いわけですが、既にパートナーのいる方は愛する人がそういうクライシスを抱え込まないように、まだパートナーと呼べる人がいない人は社会勉強として、こんな本を読んでみるのも悪くないでしょう。先週末に新宿紀伊国屋(南口店)の新書売り場をチラとのぞいたら、面置きになって売れ筋コーナーにディスプレイされていました。買っているメインは当事者の男性なんですかね?それとも夫を気遣う女性たちなのか、そちらも興味をひかれます。
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結婚がこわい、育児がこわい、介護がこわい、老いがこわい、仕事がこわい…って、怖がりすぎだろ!と若いころの私ならば飛び蹴りの2~3発でもかましたくなるところで、今の私だって、飛び蹴りとは言わずとも、回し蹴りの1発くらいはお見舞いしたい気持ちになる…のは目次まで。 中身を読むと、「そ...
結婚がこわい、育児がこわい、介護がこわい、老いがこわい、仕事がこわい…って、怖がりすぎだろ!と若いころの私ならば飛び蹴りの2~3発でもかましたくなるところで、今の私だって、飛び蹴りとは言わずとも、回し蹴りの1発くらいはお見舞いしたい気持ちになる…のは目次まで。 中身を読むと、「そんなことこわがってるなんて甘い」とはとてもじゃないけど言えず、そういうことってあるよね…とその「こわさ」をまじまじと見つめることになる。 男性の老いに対するこわさとかも、なんかもう女性からすると、そんなことを考えてるのね、と、もうこれはカラダのつくりの違いからくるものなんだろうけれど、新たな発見というかなんというか。 女性の方が、こういった問題について「友達となんとなく愚痴を言い合って、解決した気持ちになりつつ、日々を乗り切る」みたいな術を持ち合わせてきたように見えて(コレまでの時代、育児がこわいとか、介護がこわいとか言ってる場合じゃなくて、女性(嫁)が担うしかなかったってのも大きいのかも)、それを苦手とする男性たちが、これからどうこれらの問題と向き合い、解決していくかってのは大きな問題なんだろうなと。 ともあれ、ここで語られている問題の裏側には、「育休世代のジレンマ」で取り上げられていた女性側の問題もあるよねというのは色々感じられて。だって、育児がこわいっていってた旦那さんの、仕事を辞めて専業主婦になった奥さんの「ダンナの仕事のために辞めたわけじゃない。自分の仕事にやりがいを見出せなくなったから辞めた」って、それまさに育休世代のジレンマっていうか、マミートラック?まさにそれよね、なんて。 数多くの男性を、かなり長期間にわたって取材し続けた本書は、密度も濃いし、文章も面白い。女性たちの悩みの裏側で、男性は何を考えているのか。これからの時代、「育児と仕事の両立」を本当に実現するには男性の意識改革がカギだと思っているのだけれど、その男性たちも悩みを多く抱えているんだよね、という当たり前のことに気づかされた。たぶん、これまた当たり前だけれど、私たちが協力し合えることは多いはずなんだ。そうして世の中が少しでもいい方向に、多くの男性が多くのことを怖がらなくて済む世の中に、なることを祈って。
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