禁忌 の商品レビュー
おおう……なんというか、前衛っぽい芸術映画をみたような読後感。 でもまぎれもなくミステリではある。
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この作家は謎に満ちている。しかし、この現役の刑事弁護士でもある作家が生きてきた舞台は法廷である。謎に満ちたできごとを真か偽かに切り分けてゆく論理と証拠の世界である。多くの法廷出身作家たちは、謎を切り分けることで真実を暴露させてゆく小説的快感を法廷ミステリー俗にいうリーガル・サス...
この作家は謎に満ちている。しかし、この現役の刑事弁護士でもある作家が生きてきた舞台は法廷である。謎に満ちたできごとを真か偽かに切り分けてゆく論理と証拠の世界である。多くの法廷出身作家たちは、謎を切り分けることで真実を暴露させてゆく小説的快感を法廷ミステリー俗にいうリーガル・サスペンスに取り入れるのが常道だと思う。しかし、このシーラッハは一筋縄ではゆかない。 刑事弁護士というよりもむしろ純文学作家のように見える。そのくらい際立った小説文章であり、描写力であり、推進力を持った作品をぼくらは今手に取っている。奇跡的とでも言いたくなるくらいの冷徹で選択的で妥協なき文体により、切り出されてゆく事象は、描写されていることを単に読み取るばかりではなく、なぜこの事象が選択されて記述されているのか? といった作品の裏に心が彷徨う。 あらゆることに意味があるに違いないと思えば、交わされるような場所と時間。主人公は、あらゆることを色でしか理解認識できないという特異性を持つ。貴族の生まれだが没落し、城を売りに出し、彼は写真家として成功し、芸術の極みを求め、人生を彷徨する。彼が求めるものは何であるのか? 小説史上最も理解しにくい主人公と言っていいゼヴァスティアン・フォン・エッシュブルクという人間は果たして何者であるのか? 作家は日本の読者に向けてのメッセージでさらに謎を深めて見せる。まるでそれすらもが小説の一部であるかのように。そして表紙のモノクロームの写真は、作者の提供した謎めいた女性の表情でありながら、小説で行方も正体もわからない被害者の少女を思わせる。現実世界に作品世界がじわじわと滲み出てくるような怖さと錯綜とを持っているのが本書なのである。それこそが禁忌(タブー)ではないのだろうか? インスタレーション。すべてが禁忌に挑んだインスタレーションと言える本であり、また主人公の物語内部で行われたそれであるのだろう。複層構造の現実と物語が鏡面のように反射して心に不確かさをもたらす。これは、読書の未体験感覚を味わいたい方に挑戦する作者の、激しく意欲的な力作なのである。
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共感覚・チェスの自動人形・サディズム・写真・「罪」とは何か・家族や恋人との愛憎・存在の曖昧な女…ちりばめられたピースは、結局カチッとはまらない。全体に何が描かれているのかも見えない。なのに面白くて読んじゃうのはなぜ? 普通ならこれは伏線だなと意識される描写が、ことごとくどこかに...
共感覚・チェスの自動人形・サディズム・写真・「罪」とは何か・家族や恋人との愛憎・存在の曖昧な女…ちりばめられたピースは、結局カチッとはまらない。全体に何が描かれているのかも見えない。なのに面白くて読んじゃうのはなぜ? 普通ならこれは伏線だなと意識される描写が、ことごとくどこかに漂って行ってしまう。なんとも頼りない感覚が、どういうわけか刺激的だ。弁護士が登場する中盤、やけにわかりやすくなり、やはり最後はすべてが収束するのかと思えば、全然そうではないのだった。 アーティストのインスタレーションが苦手、というより、よくわからない。それって何を表してるの?何のため?などと言うのは野暮なのだろう。芸術家がみな主人公のゼバスティアンのようだとは思わないが、造型に妙な説得力がある。
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いるいる。こういうアーティスト。 一見しただけでは本質が見えず、けど惹きつけられて止まない。 テーマを二重三重に覆い隠し、なのにそれをとんでもない手段で世に送り出す。 シーラッハもまた。 こちらは好きか嫌いかだけでいいのだ。
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
普通の推理小説と思って読むと肩すかしを食らうと思う。 森博嗣の小説のように、文章が研ぎ澄まされてる感じ。 読み方が浅いのか、タイトルの意味は分からなかったけど、一連のことがエッシュブルグが表現したいことだったという理解で良いのかな。 「悪とはなにか」という問いは、刑事事件弁護士という著者の立場ならではの、骨身に応えるものだと思った。
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2015.4.29.この作家さんの作品は三作目で長編。すごく期待して読んだのだが、難しくてさっぱりわからなかった。
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「犯罪」、「罪悪」の著者による長編、というか実際のボリュームは長めの中編といったところか。 著者特有の無駄を排し、抑えた文体は独特の雰囲気を生む。 主人公が主題となる行為を行うに至る背景を知ることは読者の読解力に任されており、私も推測することしかできないのだが、その部分を除い...
「犯罪」、「罪悪」の著者による長編、というか実際のボリュームは長めの中編といったところか。 著者特有の無駄を排し、抑えた文体は独特の雰囲気を生む。 主人公が主題となる行為を行うに至る背景を知ることは読者の読解力に任されており、私も推測することしかできないのだが、その部分を除いても(というかその部分もすべて込みで)本書は読書人としては必読だろう。
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さらさらさらりと読了。 前に読んだ『謝罪代行社』と似た雰囲気。何かいろいろ寄せ集められた感じ。色で世界を見ていた子供時代、の伏線がどこにも活きてこない。ラストに向かって収束しない。異質なゼバスティアンの人生に纏わる静かなる緊張感がメインテーマなのかと思いきや、最終章で突然迫力の...
さらさらさらりと読了。 前に読んだ『謝罪代行社』と似た雰囲気。何かいろいろ寄せ集められた感じ。色で世界を見ていた子供時代、の伏線がどこにも活きてこない。ラストに向かって収束しない。異質なゼバスティアンの人生に纏わる静かなる緊張感がメインテーマなのかと思いきや、最終章で突然迫力のない法廷劇になってやや肩透かしな雰囲気で終わる。普通にさらっと読めるミステリー。
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文章は好きだが、内容はあまり好きではない。 けっしてつまらないわけではない。 主人公が理解できなかった。
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前半はまるでミルハウザーの「アウグスト・エッシェンブルク」のような物語で、後半はツヴァイクの「チェスの話」を彷彿とさせる。そしてやっぱりシーラッハらしい法廷劇で幕を閉じる。芸術?心的外傷?それとも愉快犯?いかようにも考えられる彼の動機が人の心の奥深さを感じさせる。共感覚という彼の...
前半はまるでミルハウザーの「アウグスト・エッシェンブルク」のような物語で、後半はツヴァイクの「チェスの話」を彷彿とさせる。そしてやっぱりシーラッハらしい法廷劇で幕を閉じる。芸術?心的外傷?それとも愉快犯?いかようにも考えられる彼の動機が人の心の奥深さを感じさせる。共感覚という彼の特殊な知覚能力が、インスタレーションによって刺激され、心の内にある何かを呼び覚ましたのだろうなぁ。やはりシーラッハの作品は独特で面白いな。
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