霧のむこうに住みたい の商品レビュー
須賀さんの本は、三冊目。 本書はエッセイ集。 芦屋で暮らした少女時代から、フランス留学時代、イタリアに移ってから、そして東京に戻ってから、さまざまな時期の思い出が、各編でさらりと描かれていく。 たとえば、アスパラガスひとつとっても、アスパラガス農家の娘として育ったアドリアーナと...
須賀さんの本は、三冊目。 本書はエッセイ集。 芦屋で暮らした少女時代から、フランス留学時代、イタリアに移ってから、そして東京に戻ってから、さまざまな時期の思い出が、各編でさらりと描かれていく。 たとえば、アスパラガスひとつとっても、アスパラガス農家の娘として育ったアドリアーナという女性の来歴から、小学生時代に叔父が庭に植えたアスパラガス、そしてパリの学生寮で出るアスパラガスの料理と、自由に思い出が綴られる。 二十年以上もたって、アドリアーナがアスパラ栽培でどんな苦労をしていたかやっと思い至るようになった、という苦い思いとともに。 ミラノ、ジェノワ、フィレンツェなどの街を歩いた印象を書き留めた文章も素敵だ。 ローマを歩く文章が特に印象に残っている。 ゲットという地区がある。 いわゆるゲットー、ユダヤ人が集められた地区のことで、はじまりはローマだそうだ。 そうした歴史が刻まれた町の中で、仕事に打ち込み、ふと温かい表情を浮かべる人々の暮らしを垣間見て惹かれていくことが描かれている。 観光客と、難民と、出稼ぎの人々でごった返す当時のローマのエネルギーを、いろいろと想像させられた。 大洗濯の日という風習をめぐる話も面白い。 一年に一度、何もかも洗えるものを大鍋に入れて煮沸する春の行事だそうだ。 須賀さんは、この話を姑さんから聞いたそうだ。 彼女の滞在時に、すでに廃れつつあったようだ。 ユルスナールの自伝の中で、同じ風習が書かれていることを知り、古くはオデッセウスにも似たようなことがある…と気づいていく。 それだけの話といえばそうなのだけれど、背後に共通する風習があるのかと想像を掻き立てられるところが面白い文章だった。
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イタリアやフランスでの日々を追憶するエッセイ。 日本語で書かれているのに、読んでいるうちに「こんなことばがあったんだ」と感じていました。 するする入ってくるけれど、洋画の字幕を目で追っているような。そんな不思議な感覚です。 しかし、須賀さんの感性と視点を通して描かれる人々は、とて...
イタリアやフランスでの日々を追憶するエッセイ。 日本語で書かれているのに、読んでいるうちに「こんなことばがあったんだ」と感じていました。 するする入ってくるけれど、洋画の字幕を目で追っているような。そんな不思議な感覚です。 しかし、須賀さんの感性と視点を通して描かれる人々は、とてもリアリティがあって、"暮らしている"姿がありありと目に浮かびました。
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霧の流れる向こうに石作りの家 ぽつんと残されて立っていると誰かが迎えにくるかもしれない ーこういう文章が書けるといいなぁ
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各作品の土地の風景、空気、登場する人たちの人柄を肌で感じることができ、読み終わった後は、充実した旅だったなあという感覚になった。
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わりと読む本が偏っている私がいつ、どうやって須賀敦子という作家を知ったのか記憶にないけれど、なんだかとても惹かれて、全集もほぼ買い集めた。何度も読んだわけではないので、これも記憶があやふやだけれど、確か、だんだんと宗教色が強くなってきて、というと聞こえが良くないけれど、信仰という...
わりと読む本が偏っている私がいつ、どうやって須賀敦子という作家を知ったのか記憶にないけれど、なんだかとても惹かれて、全集もほぼ買い集めた。何度も読んだわけではないので、これも記憶があやふやだけれど、確か、だんだんと宗教色が強くなってきて、というと聞こえが良くないけれど、信仰という精神、信条にかかる記述が増えてきて、好き嫌いの問題でなく、到底私の理解が及ばずに、全集を完読できなった。 そこから数年。本書をたまたま見つけて、すぐに読みたくなって購入。 やはり須賀敦子の文章はいいな~、と思いながら読んだ。私はヨーロッパがなぜか好きで、ヨーロッパというと主語が大きいけれど、イギリスもスペインもイタリアも好きだから、やっぱり「ヨーロッパが好き」と言うしかないんだけど、須賀敦子が語るヨーロッパは私がイメージする華やかなものとは違い、どこか暗く、貧しく、それこそ、灰色の石畳に常に霧がたちこめているような、そんなヨーロッパ、イタリアなのだけれど、それでもやっぱり「ヨーロッパが好きだ」と思いながら文章を追ってしまう。物質的には貧しくても、精神的には豊かで、人間味にあふれた友人・家族とのエピソードがリアリティをもって静かに語られ、そこにひっそりと織り込まれる須賀敦子の思考が、とても魅力的なんだと思う。だから、霧のたちこめる町も暗いだけで終わらない。 全集を再読したくなった。
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(一万円選書)多分、選書していただかなかったら出会わなかった作家さんだと思います。 静寂感が漂い、どこか厳かで儚げな雰囲気を感じました。著者はイタリアで29歳から13年間過ごしたそうです。私にとっては全く馴染みのない国なのですが、空気の流れや香り、音、肌への感覚などが不思議と伝わ...
(一万円選書)多分、選書していただかなかったら出会わなかった作家さんだと思います。 静寂感が漂い、どこか厳かで儚げな雰囲気を感じました。著者はイタリアで29歳から13年間過ごしたそうです。私にとっては全く馴染みのない国なのですが、空気の流れや香り、音、肌への感覚などが不思議と伝わっていきます。
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ある土曜日、娘に"朝活しよう"と、出かけたカフェで読んだのが、『霧のむこうに住みたい』。 エッセイが苦手なわたしですが、出だしから心地よい! ちょっと何⁈ 面白い! と、感動。 実は、わたしの朝活の目的は、ピスタチオジェラートをサンドしたクロワッサンと温か...
ある土曜日、娘に"朝活しよう"と、出かけたカフェで読んだのが、『霧のむこうに住みたい』。 エッセイが苦手なわたしですが、出だしから心地よい! ちょっと何⁈ 面白い! と、感動。 実は、わたしの朝活の目的は、ピスタチオジェラートをサンドしたクロワッサンと温かいカフェラテ‼︎ 歳のせいか、食い気のせいか、肝心の本を忘れてしまったわたしに、呆れた娘が『霧のむこうに住みたい』を貸してくれたのです。なので、殊勝な心で読みました。 心地よい温もり、また、押し付けがましくないさっぱりとしたところもあり、行間のノスタルジックな香り、街や人や物などの描写に愛情を感じられ、読んでいると、心が落ち着きます。 古民家カフェの懐かしいストーブに温められたわたしは、ぬくぬくと心地よい読書ができました。 須賀敦子さんの夫の従弟・ジュゼッペの妻・アドリアーナの「アスパラガスの記憶」 ミラノを引き上げるとき、なによりも置いてくるのがつらかった「白い本棚」 亡夫のはじめての贈り物・三十年後ガザグサになっても捨てられない「パラッツィ・イタリア語辞典」 そして、「芦屋のころ」など、 印象深かった。 イタリアを知らない、イタリア文学も知らない、わたしですが、須賀敦子さんの『霧のむこうに住みたい』のわたしの知らない世界に惹かれました。
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一万円選書の中の一冊。 ずーっとなんとなく敬遠していて、時間のある今、やっと読んでみた。 静かなエッセイ。 私がこの方のことを全く知らない、ということもあるのだろうけど、いまの気分には合わなかったなと思った。 時期的、精神的に今の自分には合わない本てあるので、もうちょっと時間が...
一万円選書の中の一冊。 ずーっとなんとなく敬遠していて、時間のある今、やっと読んでみた。 静かなエッセイ。 私がこの方のことを全く知らない、ということもあるのだろうけど、いまの気分には合わなかったなと思った。 時期的、精神的に今の自分には合わない本てあるので、もうちょっと時間が経ったらまた読み直そうかな。
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202101/タイトルと表紙に惹かれて初めて読んだ須賀敦子さんの暮らしや旅等が綴られたエッセイ。余韻が残る落ち着いた文章、風景が浮かぶ描写で、ゆったりと味わう一冊。
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少女のような心の瑞々しさと骨太な知性。 美しく編まれた文章に心が洗われる。 合理性は知性のほんの一面でしかない、ということを知っている人の豊かさ。 折に触れて読みたくなる一冊。
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