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逃げる幻 の商品レビュー

3.4

20件のお客様レビュー

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2022/04/26

如何にも英国の香りの担税なテイスト。駒月さんの訳を読んだのは初めてながら、彼女の力量によるところも多いのだろう・・特にダンバーの人格描写が彷彿とするような場面多出はそういったことの効果が出ている。 物語半ばまではどちらかといえば幻想文学的世界。場所、登場人物共に狭い空間での事、...

如何にも英国の香りの担税なテイスト。駒月さんの訳を読んだのは初めてながら、彼女の力量によるところも多いのだろう・・特にダンバーの人格描写が彷彿とするような場面多出はそういったことの効果が出ている。 物語半ばまではどちらかといえば幻想文学的世界。場所、登場人物共に狭い空間での事、起こった殺人事件もおのずと絞られての探索となった。逃亡兵、ヒトラーユーゲントに連ねて行く伏線回収の手際が素晴らしい。 精神科医ウィリングとしてシリーズ化されているようだ。アメリカナイズした思考、精神病理的解明の語りはちょっと受け入れ難いニュアンスを覚えた(少年兵への糾弾的思考) 2014年初版の文庫版だから近年の作品化と思えば1945年刊行との事で、そう言えばすとんと来る。20世紀初頭にブームとなったクラシカルな怪奇的演出が随処に在り、私には結構それが面白かったけど。 ハイランドという地域が持つ処々の民族、人種が作り上げて来た歴史とそれによりもたらされた影(建物や遺跡に描写に感じられる)を借景として楽しめた。

Posted byブクログ

2022/04/03
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

1945年。米海軍大尉のダンバーは、とある使命によってスコットランドのハイランド地方へ向かう途中、飛行機で隣席だったネス卿と親しくなる。ダンバーの前職が精神科医であると知ったネス卿は、ある裕福な家の少年のことを話しだす。傍目から見れば何不自由ない暮らしをしているはずのその少年はひと月のあいだに何度も家出を繰り返し、数日前突然ひらけた荒地から姿を消してしまった……。家出少年ジョニーは何に怯えているのか。家庭に、あるいはこの土地に呪われた秘密が隠されているのか。スコットランドの田舎に舞台を移した〈精神科医ベイジル・ウィリング〉シリーズの一作。 生き残った少年のトラウマと田舎の閉塞感とナチの残党、この三つが織りなす緊張感だけで200ページを読ませる。やっと殺人事件が起こるのはそのあと。マクロイの筆力が高いからこそ成立している(カバー裏のあらすじはかなりのネタバレ)。 中盤になってこの物語が『バスカヴィル家の犬』にオマージュを捧げているとわかり、マクロイのホームズ・オマージュ!と嬉しくなってしまった。黒犬の伝承やインヴァー・トーの古城、谷間に突如姿を現わす湖などの幻想的な描写が冴えに冴えており、蘊蓄も楽しい。都会的なイメージが強いマクロイだけど、クラシカルな探偵小説らしい怪奇演出もイケるんだなぁと感心。この人は建築の構造を説明したり部屋のインテリアに性格を持たせたりするのが巧いので、このまま館ミステリを書いても絶対面白かったと思う。 本作のキモはやはりダンバーの一人称語りだろう。ミスリードの狙いが目につきすぎるところはありつつ、結末は予想外だった。ガタイが良く、精神科医として他人を分析することに慣れ、主観に絶対的な自信を持つ男性から見た偏見だらけの世界を冷徹にトレースしているのがヘレン・マクロイという女性作家であることをどうしても考えずにいられない。ダンバーのマージョリー・ブリス評を、どんな気持ちで書いたのだろう。 物語はウィリングたちアメリカ人が、ローティーンの少年を残忍な狂信者に仕立てあげてしまうナチとファシズムを断罪して終わる。ウィリングが逃亡捕虜を間接的に殺し、それが是とされているところは今の感覚ではやっぱり飲み込みづらい。だが、進歩的な顔をした彼らの前にハイランドは何層にも重なった争いの歴史を見せ、踏み躙られてきた者たちが地霊となって悲しみの声を響かせ続けている。

Posted byブクログ

2021/12/15

ツイストの効いたフーダニットとも言えるが、少年は何に怯えているのかという謎かけの方がお話を引っ張る感じ。ものすごく端正な本格で、どのくらいの読者が騙されるかは知らないが(迂生は引っかかりましたよ)、とても楽しい。ただ不可能趣味の方はてんでなってない。

Posted byブクログ

2021/04/15

ヒトラーユーゲント(青年武装親衛隊)への一貫した教育「一つの民族、一つの総統、一つの国家」と厳しく過酷な訓練と教育だ。そこで学んだことが戦後でも生かされるような生活を余儀なくされるとは・・・若い人にとって真実である歴史を学び、教えることだろう。

Posted byブクログ

2021/04/24
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

精神科医ウィリング7作目。 休暇を利用してスコットランドに滞在しようとしていた「わたし」は、 飛行機の中で滞在先の隣人の息子が家出を繰り返しているのを知らされる。 1か月に三度も、しかも荒野の真ん中から突然姿を消す形で。 なぜ、少年は家出をするのか。 裕福な家で家庭教師もつけてもらっているのに。 舞台設定が見事。 ダブルネームの伯爵、 死をもたらす黒い犬がさまよう荒野、 売れない小説家とその妻の流行作家、 変わりやすい天気、 フランス人の家庭教師。 空爆とくれば有名なミステリーがあるので、 予想がついたところもあったし、 消失の謎も見当はついたが、 犯人とその正体にはかなり驚かされた。

Posted byブクログ

2019/06/14

時代背景は第二次世界大戦後ですがとても読みやすいです。読後1945年発行と知り驚きました。訳が今だからというのもあるかもしれません。題名の邦訳も上手いですね。読みながらまさしく逃げていく幻を追いかけていました。少年の消失と密室殺人。トリック自体は驚くほどのものではありませんが緻密...

時代背景は第二次世界大戦後ですがとても読みやすいです。読後1945年発行と知り驚きました。訳が今だからというのもあるかもしれません。題名の邦訳も上手いですね。読みながらまさしく逃げていく幻を追いかけていました。少年の消失と密室殺人。トリック自体は驚くほどのものではありませんが緻密に表現される背景と張り巡らされた完璧な伏線、さらにそれを綺麗に回収してしまうラストには驚かされました。普段あまり海外ミステリ自体を読まないのですが、さすが2015年海外ミステリ一位です。古き良き海外ミステリを堪能しました。

Posted byブクログ

2018/07/14

今まで読んだマクロイ作品の中でも1、2位を争う面白さだった。事態が動くまでが冗長だが、そこかしこに伏線が張られているので気が抜けない。真犯人は可能性としてはありだと疑ったけれど、まさかの真相にとても驚いた。

Posted byブクログ

2017/03/21

マクロイ2作目。 目を惹くのは作者の筆力。引き込まれる物語導入からはじまり、スコットランドの優雅な風景描写に戦争の爪痕。それに加え、みるからに怪しい登場人物。とにかく読ませる(ヒステリックな女性が登場すると、なぜこうも、物語が生き生きとするのだろう… 語り手であるダンバーの発...

マクロイ2作目。 目を惹くのは作者の筆力。引き込まれる物語導入からはじまり、スコットランドの優雅な風景描写に戦争の爪痕。それに加え、みるからに怪しい登場人物。とにかく読ませる(ヒステリックな女性が登場すると、なぜこうも、物語が生き生きとするのだろう… 語り手であるダンバーの発する、必要以上な疑問符。読者に投げかけ、謎解きの要素を色濃くしている(精神科医という役どころも大いに関係しているが 本格の要素は薄い。人間消失と密室殺人に関しては、脱力トリックすぎて、バカミスともいえない。ただし、重要なある点は、大いに驚いた。殴られた直後に、さらに倍の威力のパンチをもらったような衝撃。これだけで読んだ甲斐はあった(残念のことに、ひとつの事実には、早くから気づいてしまったのがもったいなかった…

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2016/10/09

ミステリ。スコットランド。戦争。 人間消失、殺人、意外な犯人と、ミステリの魅力は十分。 低評価を付けた理由は、単純に自分の好みの問題。 作品が描かれた時代柄か戦争が関係しており、語り手が精神科医、文学的な要素も見られる、と非常に重厚な作風。 自分には難しい作品だった。

Posted byブクログ

2015/10/26

第二次大戦の傷跡も生々しいスコットランド。空襲で一人生き残った少年が、親戚に引きとられた後も家出を繰り返す。その地方を訪れたダンバー大尉は少年を発見し、彼が何かを異様に恐れていることに気づくのだが… ストーリーはシンプルで、人間消失や密室殺人などはそれほどインパクトはないが、スコ...

第二次大戦の傷跡も生々しいスコットランド。空襲で一人生き残った少年が、親戚に引きとられた後も家出を繰り返す。その地方を訪れたダンバー大尉は少年を発見し、彼が何かを異様に恐れていることに気づくのだが… ストーリーはシンプルで、人間消失や密室殺人などはそれほどインパクトはないが、スコットランドの荒涼とした景色や地方の歴史、民間伝承などが雰囲気を盛り上げている。ナチスを擁護していた哲学者、逃亡したドイツ人捕虜などの問題が絡み合って、最後にウィリング博士が導きだした答えはなんとも苦い。前半はちょっと冗長な感じもするが、マクロイらしい巧さ。

Posted byブクログ