写真講義 の商品レビュー
イタリアの写真家、ルイジ・ギッリが学生たちに語った講義の記録。自身の作品をフルカラーで多数収録。 講義のテーマとして学校から〈透明性〉を指定されていたらしく、ギッリはカメラという機械の透明性を定義づける。曰く、写真はカメラという複雑なフィルターを通じたイメージを提供するものな...
イタリアの写真家、ルイジ・ギッリが学生たちに語った講義の記録。自身の作品をフルカラーで多数収録。 講義のテーマとして学校から〈透明性〉を指定されていたらしく、ギッリはカメラという機械の透明性を定義づける。曰く、写真はカメラという複雑なフィルターを通じたイメージを提供するものなのに、できあがったイメージは"リアル"なものとして受け取られている。それがカメラの透明性であり、ギッリはその欺瞞を暴くようにガラス越しの世界、鏡に映る鏡像、すでに作られたイメージの集積であるポスターなどをモチーフに選んでいる。 写真芸術は「真実を映す鏡」と「世界に開かれた窓」という二つの側面を持っており、自分はいつも〈窓〉でいたいという話や、敷居(境界)のある場所を〈自然のフレーミング〉と見なす独特のモチーフ選びの話も興味深かった。私はこの本で初めてギッリという写真家を知ったが、静止画を撮ることの意味を探り続けた人なのかなという気がした。 最終章はそれまでの講義とは打って変わり、写真が使われたレコードジャケットについて語りだす。ギッリはパンクバンドからクラシックまで幅広いジャンルのジャケットを手がけた経験を持ち、音楽メディアがCDに移行する時代の変化(講義は88-89年)に戸惑っていたようだ。物質としてのレコードに真の愛着を抱いていた世代にとって、音楽が〈精神〉ならばそのパッケージは〈肉体〉であり、分かち難いものだったのだということが伝わってくる。ミュージシャンのポートレートを使ったジャケットへの拒否反応は、先日Coccoちゃんがテレビでの顔だしをやめると発表した件を思いだしたり。 80年代は特に「スター」の定義が大きく変わり、大規模化していくなかで、ディランを信奉しているらしいギッリは違和感を募らせていたのだろう。ビートルズがアルバムとジャケットと映画などのメディアミックスを始めた先見の明を讃えながらも、マドンナやプリンスを軽薄だと切り捨てる。たぶんMTVが嫌いだったんだろうな。 現在は音楽がフィジカルから解き放たれ、ある意味では純粋なイメージとの結びつきに回帰しているともいえると思うが、ギッリならどう見たのだろう。
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全てを噛み砕いて読む事が出来なかったので今回は理解がしやすい所だけ抜粋して、また期間を空けて読もうと思う。 いわゆる写真というよりもっと外郭から理解が深まるとても良い本
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機材説明などもあり、思った以上に写真初心者に優しい本。なにより載っている写真がいい。 最後の音楽に関しての章は著者本人の人柄が伝わってくるが、若干の蛇足感があるように感じた。
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
ルイジギッリの講義録。 彼にとって写真とは二つの要素から成り立つ。 フレーム:イメージに何を収めるか 絞り/被写体深度:フレームに切り取られた外部世界との関係性 撮影者によるフレーミングは撮影者の意図が色濃く出る。 固定されたイメージである写真は鑑賞者に考える時間を与える。問題定義が可能になる。 ギッリのとっての課題は、人間を取り巻く環境=自然との関係性である。 彼の作品の多くはポートレートは含まれず、景観や無機物などが多い。彼は意図的に顔を排除することで、その顔が生きている文化的背景などとの関係性を暗示することを試みる。 ガラスウィンドをとるだけでなく、背景の写り込みをありのままにフレームに収め、日常の中にある自然を表現する。 SNS全盛期の現在では、写真すらも消費される時代となった。じっくり向き合わせる能力を持つ写真も刹那的なものとなり、華やさだけが際立つ写真(考えさせる余地のないもの)となりつつある。
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写真というものの持つ意味が時代の流れとともに変化していく中で、その早い流れの中にも不変の意味があるのだということを垣間見たような気がします。写真を撮るのが、さらに楽しくなりそうです。
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イタリアの写真家の講義をまとめた本だが、やや古いので現在のデジカメ時代を考慮していないものの、写真に対する基本的な考え方を縷々述べているのが良い.報道写真と芸術写真、絵画と写真の違いを詳しく解説している.各ページに出てくる写真は歴史的なもの以外は初見のものがほとんどだったが、印象...
イタリアの写真家の講義をまとめた本だが、やや古いので現在のデジカメ時代を考慮していないものの、写真に対する基本的な考え方を縷々述べているのが良い.報道写真と芸術写真、絵画と写真の違いを詳しく解説している.各ページに出てくる写真は歴史的なもの以外は初見のものがほとんどだったが、印象に残るものが多かった.光に注目した作品が良かった.
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読了 たまには写真のことも 「見たこともないセンセーショナルな創作をするより、記憶やすでに書かれた歴史、そして人々のイメージ記憶に働きかけながら驚きを喚起しようとしたのです。人々の記憶、思考、関係性のなかに隠れているものを引き出す方が面白いと私は思うのです」 ってことですね...
読了 たまには写真のことも 「見たこともないセンセーショナルな創作をするより、記憶やすでに書かれた歴史、そして人々のイメージ記憶に働きかけながら驚きを喚起しようとしたのです。人々の記憶、思考、関係性のなかに隠れているものを引き出す方が面白いと私は思うのです」 ってことですねぇ 2019.9.6再読 最後の方に出てくるレコードジャケットがめちゃいいな、ギッリ 「写真は見るべきものと見られるべきでないものの、ちょうどいいバランスなのです」 素晴らしいね 「どのようにイメージを通して考えるか」っていうブルーノの引用もいい。
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写真についての講義録。 静かな言葉、穏やかな写真、美しい造本。 語り口はぶっきらぼうで、テクニカルな説明には退屈なところもあるけれど、彼の写真を見て、巻末の評伝を読むと、なぜそこをクドクドと説明しなくてはいられなかったのかが、わかるように思う。 レコードジャケットについて論じる...
写真についての講義録。 静かな言葉、穏やかな写真、美しい造本。 語り口はぶっきらぼうで、テクニカルな説明には退屈なところもあるけれど、彼の写真を見て、巻末の評伝を読むと、なぜそこをクドクドと説明しなくてはいられなかったのかが、わかるように思う。 レコードジャケットについて論じる、他の講義と比してバランスを欠いて長い「音楽とイメージ」の関係も興味深い。今はデジタル配信の時代になって、さらに全然違う関係になっているのを知ったら、彼はなんというだろうか。
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文字通りの写真講義。興味深く拝聴できる部分と、退屈に感じる部分があるところも講義らしい。これは写真を撮るときの心得として、留めおきたいと思う言葉が数か所あったのが本書を読んだ収穫となった。(★4はこれが理由) 著者の仕事としては、モランディのアトリエくらいしか知らなかったので、仕...
文字通りの写真講義。興味深く拝聴できる部分と、退屈に感じる部分があるところも講義らしい。これは写真を撮るときの心得として、留めおきたいと思う言葉が数か所あったのが本書を読んだ収穫となった。(★4はこれが理由) 著者の仕事としては、モランディのアトリエくらいしか知らなかったので、仕事の幅の広さにちょっと認識を新たにした。
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世界の写真が広告の周りで発展し、表現としても広告としての見せ方が主流、つまり掲載されたものとしての写真が一般的な現代において、イタリア写真が後進的に感じられるのは、その絵画性の故なのかと腑に落ちる。芸術絵画の延長としての写真があるとすれば、思考もまた絵画に近いのだという証左のよう...
世界の写真が広告の周りで発展し、表現としても広告としての見せ方が主流、つまり掲載されたものとしての写真が一般的な現代において、イタリア写真が後進的に感じられるのは、その絵画性の故なのかと腑に落ちる。芸術絵画の延長としての写真があるとすれば、思考もまた絵画に近いのだという証左のような本である。
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