虫とけものと家族たち の商品レビュー
保坂和志の「プレーンソング」のように小説全体に幸福感がまとわれている。 誰かが指摘するように、登場する誰もが不労所得者のようにマトモな仕事をしていない、あるいはその描写は綺麗に避けられているため、「幸福なシーンだけ集めました」という印象もあるし、家族を中心に据えた、ユーモア溢れ...
保坂和志の「プレーンソング」のように小説全体に幸福感がまとわれている。 誰かが指摘するように、登場する誰もが不労所得者のようにマトモな仕事をしていない、あるいはその描写は綺麗に避けられているため、「幸福なシーンだけ集めました」という印象もあるし、家族を中心に据えた、ユーモア溢れるエピソードが集められたものなので、現実感を感じない面もあろう。しかし、それはそうとして、コルフ島の素敵さ、可笑しい兄弟たちと母、島の生き物たち、ヘンテコな島民たちの話がずっと続けば良いと思わせる。
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夏が来る前に読みたい素晴らしい小説。 変わり者ぞろいのダレル一家がイギリスから転居したギリシアのコルフ島での賑やかな生活模様が描かれます。 虫や動物や島の人たちや家族たちとの生活はドタバタしつつも多幸感に溢れている。それはきっと動物も含めた他者への愛と信頼に根差した関わりが根...
夏が来る前に読みたい素晴らしい小説。 変わり者ぞろいのダレル一家がイギリスから転居したギリシアのコルフ島での賑やかな生活模様が描かれます。 虫や動物や島の人たちや家族たちとの生活はドタバタしつつも多幸感に溢れている。それはきっと動物も含めた他者への愛と信頼に根差した関わりが根っこにあるからなんだろう。そして目線が末っ子で子どものジュリーだからか、こんな生活はしたことないしジュリーは好みも性格もまったく自分とは違うはずなのに子ども時代の感覚を思い出すような瞬間も多かった。 読み進めるのが幸福な読書でした。
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ダレル『積みすぎた箱舟』の次に読んだ。(『積みすぎた箱舟』はカメルーンにおける動物採集の記録である。現地の愉快な仲間たちとの冒険が生き生きと描かれ、端的に言って名著である。) 本書は『積みすぎた箱舟』の著者ダレルが8歳(著者紹介より)からの5年間を過ごしたコルフ島での思い出を綴っ...
ダレル『積みすぎた箱舟』の次に読んだ。(『積みすぎた箱舟』はカメルーンにおける動物採集の記録である。現地の愉快な仲間たちとの冒険が生き生きと描かれ、端的に言って名著である。) 本書は『積みすぎた箱舟』の著者ダレルが8歳(著者紹介より)からの5年間を過ごしたコルフ島での思い出を綴ったものである。虫とけものと同列に、珍獣のように家族が描かれている。おっとりした母、皮肉屋で傍若無人な長兄(ローレンス・ダレル)、気ままな狩人たる次兄、美容に余念のない気のいい姉、そして忠実なパートナーである犬たちは善悪や好悪の判定を受けることなく、自由にのびのびと騒動を巻き起こしている。 ダレル家では互いに「うちは変人ばかりだ」と思っている節がある。ほかに圧倒されて目立たないが、母親も相当に変わっている。サソリや蛇を連れ帰ってくる息子をそのまま受け入れるのだ。個人の嗜好と自由を最大限重んじる家風は彼女の作り上げたものだ。そこでは思いやりは求められても、自分を抑え、他人に譲るような真似は不要である。この母親のもとで子どもたちは個性を爆発させ、他人は他人、自分は自分という感性を身に付けていったのだろう。 訳者の池澤夏樹は本書を「幸福の典型例」と評した。たわわに実る果実、あたたかな波、さわやかな風、鷹揚なご近所さんと奇妙な友人たち、ぶらぶらできる時間に自分だけの船…そのようなものが揃っていれば、そこは確かに楽園であり、豊かで瑞々しい感性も育つように思う。自分も多感な日々をこのような場所で過ごせたら、人生が変わっていたに違いないと思わないではいられない。島で生まれ育ったら牧歌的な生活に退屈したかもしれないし、近所付き合いに嫌気がさすこともあるかもしれない。だが、異邦人として移り住めばそのような心配もない。 一方で、東京に生きる読者として、気になってしまう点がある。本書では日々の生業に不思議なほど言及がなく、誰も労賃を得るような仕事をしている様子がないのだ。家庭教師代や気軽になされる引っ越しの費用、使用人への支払い、そのほか生活費はどのようにしていたのか、一切不明である。前書きには「赤字と浪費の暗礁を危うく縫いながら」母親が家庭を切り盛りしていたような記述があるので、浮世離れしたダレル一家も経済活動からは逃れられなかったと思われる。 この本のヒットにより、コルフ島は観光地化が進んでしまったそうだ。ダレルの望むところではなかったと思うが、本書を読んで生きものを好きになり、彼らの住処を守りたいとより思うようになった。読者にそのような影響を及ぼしたのであれば、ダレルも報われるだろう。ダレルの財団に寄付をして、いつか観光客としてギリシャに行ってしまうであろう罪滅ぼしをしたい。
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ギリシャと動物が好きになる本。 虫はどちらかというと苦手だけど、動物好きの作者の書いた描写のお陰で色々な虫や鳥のことを検索しながら読んだ。 訳者あとがきに「幸福の典型的な例を書いた本」とあるけど、その通りだった。 10歳のときにこんな環境で育った作者がとても羨ましい。セメントで庭に池を作って亀を飼ったり、囚人からカモメをもらったり…家族や友人たちとのやり取りも最高だった。特にセオドアと出会ってから毎週木曜のお茶会までの流れは素敵だった。 続編も読みたいし、またギリシャに行きたいなー。
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「アレキサンドリア四重奏」(https://booklog.jp/item/1/4309623018)の作者ロレンス・ダレルの弟が動物保護者で本も出しているよ、と、本の知人に教えていただいたので読んでみました。 ダレル一家は、気候の悪いイギリスからギリシアのコルフ島に移り住むこ...
「アレキサンドリア四重奏」(https://booklog.jp/item/1/4309623018)の作者ロレンス・ダレルの弟が動物保護者で本も出しているよ、と、本の知人に教えていただいたので読んでみました。 ダレル一家は、気候の悪いイギリスからギリシアのコルフ島に移り住むことになった。 未亡人の母、割とメンドクサイ性格で文士の長男ラリー(彼がロレンス・ダレル)、銃器マニアの次男、おシャレとダイエットに余念のない娘マーゴ、そして末っ子はジェラルド・ダレル自身である動物好きのジェリー少年。 少年時代の自伝でもあり、動物記録でもあります。 作者が少年時代を振り返ったり、少年成長物というジャンルの話にはだいたいどこかしらの寂しさを感じることがあります。それはその少年時代がもう遠く離れたり失ってしまったからでしょうか。しかしこの本ではそのような寂しさを感じません。思いっきり楽しんだ日々はジェラルド・ダレルにとって過去ではなく現在につながっているかのようです。 家の裏の丘はリクガメたちの生息地で、庭にはサソリが巣を作り、ベッドの上ではヤモリとカマキリとが死闘を繰り広げている、動物好きなジェリー少年にとってはまさに理想的な環境だったのでしょう。そんな土地で自分の目で蜘蛛が糸で作る家や罠を調べ、動物たちの狩りや戦いの様子を見て、自分の手で死んだ動物を剥製にした(家中かなりの悪臭となったが^^;)、まさに生活がフィールドワークそのもので、成長してから動物愛好家として動物の研究や保護活動を行うことにつながっていると感じました。 さらにジェリー少年の家庭教師や友人たちも彼の動物好きを後押ししています。 家族は、末っ子が次々次々とんでもない動物を家に持ち込んでも結局は認めています。部屋中にサソリのあかちゃんが散らばり、お風呂にはミズヘビ、酔っ払ったカカサギが食卓を荒らす、という環境を受諾している家族もすごい。(もっともその家族たちもそれぞれ大騒動を家に持ち込んでいるからお互い様?^^;) そして家庭教師たちも、通常の勉強方法では集中できないため、地理も歴史も動物に置き換えての授業にするなど、”中途半端な教育”が結果としてジュリー少年の成長には功を奏しています 文章描写も素晴らしいです。 動物同士の決闘の臨場感、兄姉たちが巻き起こす大騒動をユーモラスに書き、コルフ島の自然の素晴らしさ、特に新月の晩に海辺でホタルの群れと夜光虫との光が交じる様相などは神秘的です。 まず最初の家に入った時の描写がこちら。 <丘の斜面をなかば登ったところに、高いほっそりした何本かの糸杉に守られて、温室で見る異国の果実のように小さな、苺のようなピンクの家があった。糸杉は僕たちを歓迎するために空をもっと明るい青に彩ろうと忙しく動く筆のように、微風に優しく揺れていた。>(P38) コルフ島の始まりをこんな風に紹介されたら、読者もコルフ島に魅力を感じざるを得ません。 翻訳者の池澤夏樹さんは、この本の影響でギリシアに渡り、自分自身を紹介するときに「ジェラルド・ダレルを翻訳しました」といいます。まさに本と翻訳者の幸福な出会いというのでしょう。 なおコルフ島は現在では高級リゾート地となっているようです。 https://rtrp.jp/articles/1734/
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お母さんがすごい。虫も動物も爬虫類も全部受け入れてくれる。自分にはできないなぁ。個性的な家族は傍から見れば変な親子。でも幸せに満ち溢れてる。文句を言いつつも個性を型にはめようとしない家族とギリシャの人々の笑えるエピソード。傍に置いておきたいから買うことにした。
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読むと、とてものんびりして楽しい気持ちになる本だった。 主人公とその家族、そして虫たちや動物たち、島民など…たくさんの登場人物の描写もさることながら、色彩の描写もとても綺麗で、目を閉じると風景が浮かんでくるかのようだった。 苺のようなピンクの家と言うのが、ギリシャの透き通るような青い空とギラギラの太陽、白い雲に映えるのが目に見えるようで、とても良かった。(ギリシャのイメージは、あくまで私の個人的イメージですが…) 私の好きな絵本に、ちいさいおうちと言うものがあるが、その絵本を思い出して、懐かしい気持ちになった。 犬が群がってくるシーンなど、クスリとくるシーンもあるし…亀が行方不明になり、そのまま死んでしまっているのを見つけたシーンは、私も悲しかった… この時、私は完全にジェリーの家族の一員だった(気持ちの面で!) 僕は中途半端な勉強が好きなんだ、その方が新しい知識を学んだ時に、楽しくなると言うようなことを言っていた。 ギリシャの小さい島だから、学校がないので…周りの大人が先生の代わり、教科書は本と自然。 座学も大事だけど、体感して学んでいくと言うのは、何事においても大事だよね。 とてものびのびとしていて、ゆったりとした気持ちになることが出来た。 登場人物では、私はスピロが好きだな…
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家族とともにギリシャのコルフ島で暮らした子ども時代の懐かしい想い出を、「ぼく(ジェリー・ダレル)」が語る。 自然の描写がとても美しい ── コルフ島に向かう船の上から見る海の夜明け、レモンの葉にへばりついて催眠術をかけられたように鳴き続けるアマガエルとその下の地面をこっそり...
家族とともにギリシャのコルフ島で暮らした子ども時代の懐かしい想い出を、「ぼく(ジェリー・ダレル)」が語る。 自然の描写がとても美しい ── コルフ島に向かう船の上から見る海の夜明け、レモンの葉にへばりついて催眠術をかけられたように鳴き続けるアマガエルとその下の地面をこっそり這いながら虫をむさぼるヒキガエル、あるいは夜の海辺でのホタルと夜光虫の競演…… 次に、個性豊かな登場人物(+α)たち ──「ぼく」を一人前のひととして認め紳士的に接してくれる博識の生物学者セオドア、ダレル家からの頼みなら何だって叶えようとするスピロ、言葉を喋れないけれど「ぼく」の心を引きつけてやまないバラコガネムシさん、生き物同士として「ぼく」とぴったり息の合った活躍を見せる犬のロジャー、その他大勢の島の人々や「ぼく」 の家にやって来る奇妙なお客さんたち、そして何より家族たち ── 彼らに囲まれながら「ぼく」は様々な冒険をし、生き物たちに触れ、いろんなことを発見し、驚き、感動する。家の中にサソリや蛇を持ち込んで、とんでもない騒動も巻き起こす。 とかく大人は子どもに何でも教えたがるが、子どもは自分で周りの世界からいろんなことを吸収し、自分なりに体系化し、身につけていく能力を持っている。無理矢理頭に詰め込まれたものではなく、自ら経験に基づいて得た知識は、生きたものになる。「学ぶ」とは本来、こういうことなんでしょう。そして好きなことを好きなだけ学べるということは、とても幸せなことだと思う。だからこの物語は、幸福感に溢れている。 登場する生き物たちのなかでは、第4章や第8章のカメたちがユーモラスで平和的なので特に好きだなあ。
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ある夏、変わり者ぞろいのダレル一家は明るい日の光を求めて英国を抜け出し、ギリシアのコルフ島にやってきた。末っ子のジェリーは豊かな自然、珍しい虫や動物たちに夢中になるが、数々の騒動と珍事件をまきおこす――訳者をして「ここに溢れる幸福感につられてギリシアに渡」らせしめた、おおらかでユ...
ある夏、変わり者ぞろいのダレル一家は明るい日の光を求めて英国を抜け出し、ギリシアのコルフ島にやってきた。末っ子のジェリーは豊かな自然、珍しい虫や動物たちに夢中になるが、数々の騒動と珍事件をまきおこす――訳者をして「ここに溢れる幸福感につられてギリシアに渡」らせしめた、おおらかでユーモアに富む楽園の物語。 虫や生き物全般に興味津々な小さい博士のジェリーを通して描かれる、コルフ島での家族の物語。詳しい生き物たちの描写は本当にいきいきとしていて、どちらかというと虫など苦手な私ですが自然にあふれた中で暮らすのも楽しそうと思ってしまうくらい。ジェリーの良き先輩かつ仲間であるセオドアも本当に素敵なキャラクターです。森見先生の帯コメントにもあるように、生物たち以上に面白いのがダレル一家。ラリー、レズリー、マーゴ、お母さんそれぞれが魅力的で滑稽で愛すべき人たち。読みながら思わず噴き出してしまう場面も多くて、まるで彼らと一緒にギリシアに旅したような読後感。ぜひ他の作品も復刊してほしい。
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美しい爽やかな情景。おかしいけど、飾り気のない家族。自然に囲まれた暮らし、いいなあ。優しい気持ちになれる本。
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