金を払うから素手で殴らせてくれないか? の商品レビュー
一時は読み始めたことを後悔しかけたが、収録された三篇を読み終えた時には「消費税増税前にこの本を読んで、本当によかった」と思い直していた。
Posted by
饒舌でめくるめく作品世界の毛布を纏える文体かと思えば、ジャン=リュック・ゴダールの編み出した「ジャンプカット」の手法を取り入れたかのような『Tシャツ』まで。読者は著者が描く物語の眩しすぎるほど荒々しく輝く断片を両の目に叩きつけられるように提示され、軽い盲状態に陥るかのよう。しかし...
饒舌でめくるめく作品世界の毛布を纏える文体かと思えば、ジャン=リュック・ゴダールの編み出した「ジャンプカット」の手法を取り入れたかのような『Tシャツ』まで。読者は著者が描く物語の眩しすぎるほど荒々しく輝く断片を両の目に叩きつけられるように提示され、軽い盲状態に陥るかのよう。しかし目が慣れてきた後に眼前に広がる作品世界に驚きと喜びを持って受け入れるのだ。 著者の持ち味である不条理な設定と現実の世界とは、もうあまり差異がないように思えてくる。木下古栗が作り出した世界の裂け目はすぐそこにあり、もはや我々読者は裂け目から向こう側へ移住している。救いようのない茫漠たる荒野が広がっていようとも、この本のこんな一文が乾いた希望を持たせてくれる。 「どう生きたって結局は苦しいことしか残らない世の中、たとえ束の間の夢であれ、こんなに気持ちのいいことがある。これがあればどうにか絶望をごまかしごまかし、余生を全うできそうだ。」 まだまだ木下古栗とは切っても切れそうにない生活が続きそうだ。
Posted by