蔦屋 の商品レビュー
歌麿の「画本虫えらみ」を、たまたま電子書籍で見つけたときは衝撃でした。虫だけでなく、草花や野菜が精緻にいきいきと描かれていて、歌麿の観察眼と写実性に驚きました。ツユクサのおしべまで描いてるし(しかも,これ版画なんだよね)。奥付けは彼の蔦重!という訳で、作中にこの本が出版(板)され...
歌麿の「画本虫えらみ」を、たまたま電子書籍で見つけたときは衝撃でした。虫だけでなく、草花や野菜が精緻にいきいきと描かれていて、歌麿の観察眼と写実性に驚きました。ツユクサのおしべまで描いてるし(しかも,これ版画なんだよね)。奥付けは彼の蔦重!という訳で、作中にこの本が出版(板)される経緯が出てきたときは、ゾクリとしました。虫好き少年のような歌麿,わっかるなあ。(狂歌はさっぱり読めなかったけど,その気で見直したら,作者名が四方赤良…とか読めるのがあった) 江戸の出版界に一代旋風を巻き起こした蔦屋重三郎の半生を、雇われ店主小兵衛(地本問屋豊仙堂の元店主)の目から描いた物語。 寛政の改革の影響は他の本でちょっと知っていたので、途中で先を読むのがつらくなりましたが、納得して読み終えました。 カバーイラストは,葛飾応為の「吉原格子先之図」を3Dにしたみたいな雰囲気
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日本橋の本屋主人、小兵衛と吉原の本屋主人、重三郎による「本屋改革」の話。 蔦重の読めない言動に翻弄されつつ、時には本屋としての情熱を真っ直ぐに表現する小兵衛のやり取りとそれを取り巻く歌麿、京伝をはじめとする江戸を席巻した絵師達のやり取りが面白かった。 ストーリーに引き込まれるうち...
日本橋の本屋主人、小兵衛と吉原の本屋主人、重三郎による「本屋改革」の話。 蔦重の読めない言動に翻弄されつつ、時には本屋としての情熱を真っ直ぐに表現する小兵衛のやり取りとそれを取り巻く歌麿、京伝をはじめとする江戸を席巻した絵師達のやり取りが面白かった。 ストーリーに引き込まれるうちに、松平定信の治世における社会状況、吉原の特別な立ち位置など自然と理解することができた。 これほどまで魅力的な人々が登場人物として出て来る話はなかなかない。
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人生を仕事にささげた人物の小説。 自分も切に仕事で実績を残したい・・という思いがあります。その意味で共感するものがありました。 ただ、それにしてはちょっと軽いようにも感じました。 司馬遼太郎のような重厚な感じの読み物ではありませんでした。 ただ、一方で仕事に賭ける熱い思いもありました。 人は(本文では男は)自分の人生は何のためにあるのかに悩む。自分の人生では何か残るものを残せたのか?死んだ後も残る職人やアーティストをうらやむ。 ビジネスマン、サラリーマンとして何を残せるのか?それも一つのテーマになっているように感じました。 結論としては、ビジネスマン、サラリーマンであっても自分の思いや上司の思い、組織の思いを下に、関係者に伝えること。世の中を変えようとしたこと、これが自分がやってきたことと自慢できること。それが、人生だ‥と言われているように感じました。 共感。
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言論統制は江戸時代の創作でなくても、つねに身近に存在する問題。その時代をいかに“したたかに”生き抜くか、そういう巷の物語。人間の「知」と「楽」を求める欲求は押さえられない。それに、それを人々へ届けたいという思いと使命も消せないもの。
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江戸時代のプロデューサーとして知られる蔦屋重三郎のお話。 勤務先企業の展開する店舗の屋号としてもゆかりのある人物。 本を売ると言うこと、商いとして沢山売る事が目的でありそうだが、その本質にあるものをうまくストーリーとして仕立てられています。 登場人物も最初は誰?と思ってた人たちが...
江戸時代のプロデューサーとして知られる蔦屋重三郎のお話。 勤務先企業の展開する店舗の屋号としてもゆかりのある人物。 本を売ると言うこと、商いとして沢山売る事が目的でありそうだが、その本質にあるものをうまくストーリーとして仕立てられています。 登場人物も最初は誰?と思ってた人たちが当時の著名な作家だったりして、まんまと乗せられて一気に読んでしまう。 吉原と江戸の関係などあまり普通の日本史では知り得ない情報もありましたが、その間にある埒を外すという概念を、不埒と表現していると頃なども、先程の登場人物の明かされ方などと合わせ、江戸という町に存在した粋という概念を表現しているのでは?といろんな側面から楽しめます。 高尚な想いを持ち、それを実現するために精一杯努力する。素晴らしいこと。 高尚な想いを持てるかはわからないが、色々と思い悩みながらも、想いを実現するため精一杯努力することなら出来そう。 良いタイミングで出会えた良本です。
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ブクログでの評価は思ったより低いけど、私は感動しちゃいました!しかもワクワクした! 表紙もとっても綺麗で、ケチな私が単行本で購入。桜が咲き誇る吉原から、ちらしを巻きながら、大門の外へ向かう重三郎。 蔦屋重三郎は、吉原で生まれ、吉原で、吉原ならではの書籍を販売し、成功を収めた。そ...
ブクログでの評価は思ったより低いけど、私は感動しちゃいました!しかもワクワクした! 表紙もとっても綺麗で、ケチな私が単行本で購入。桜が咲き誇る吉原から、ちらしを巻きながら、大門の外へ向かう重三郎。 蔦屋重三郎は、吉原で生まれ、吉原で、吉原ならではの書籍を販売し、成功を収めた。その重三郎が廓の外での成功を目指して、頑張る話。 簡単に「成功」なんて言ったけど、彼の成功はお金持ちになったり、有名になったり、そんなしみったれた事じゃない。すべての人に自由をもたらし、人生を楽しんでもらうこと。これに尽きると思う。 この本の中にも、ついこないだ読んだばかりの「さぶ」と同じ、世間の不条理が満ちている。例えば、吉原に売られてきて、吉原の中で寂しくなくなっていく遊女たち。彼女達のためには、吉原を江戸に広げる、つまり江戸中を自由に歩かせてやると豪語。そんな言葉だって、裏には重三郎の優しさが見え隠れする。心意気やお家存続にしばられる武士階級。その悲喜交々も、目撃する。 次々と新しいジャンルを開拓していく重三郎と小兵太。ついには、御公儀に目を付けられる。それでも、懸命に偽りのない本を出そうと奮闘する心意気がかっこいい。本とはなにか?そして、影響力の大きい本の存在を改めて実感するとともに、どれほどネットが発達しても本をなくしてはいけないと思った。
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大田南畝や山東京伝、歌麿に写楽といった面々の仕事をとりまとめたプロデューサー蔦屋重三郎を、相棒となった本屋商売の先輩・丸屋小兵衛から眺めた姿で描き出す。狙いが当たって賑やかな前半が、寛政の改革で鬱屈したものとなり、それとともに小兵衛は自らの来し方を振り返る。人が残すものは何なのか...
大田南畝や山東京伝、歌麿に写楽といった面々の仕事をとりまとめたプロデューサー蔦屋重三郎を、相棒となった本屋商売の先輩・丸屋小兵衛から眺めた姿で描き出す。狙いが当たって賑やかな前半が、寛政の改革で鬱屈したものとなり、それとともに小兵衛は自らの来し方を振り返る。人が残すものは何なのか。自分は何を残せるのか。重三郎は何を残そうとしているのか。 形に残るものはなくても、縁を残していくのだな、と感じ入る。
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江戸、吉原から派生した物語。 主人公の心遣いの描写がリアルで、あたかも息づかいを感じるかの様な内容。 やはり個人的に江戸舞台モノは面白い!
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蔦重の本、しかもストーリーものなんてあまり見かけない。日本のコンテンツビジネスの原点ともいうべき、面白い人物なのに。ということで、貴重な蔦重小説。 飄々と粋で大胆、アイデアあふれる編集者兼プロデューサーとしてのイメージは裏切られない描写で楽しく読めた。ただ今回は、蔦重よりも春町...
蔦重の本、しかもストーリーものなんてあまり見かけない。日本のコンテンツビジネスの原点ともいうべき、面白い人物なのに。ということで、貴重な蔦重小説。 飄々と粋で大胆、アイデアあふれる編集者兼プロデューサーとしてのイメージは裏切られない描写で楽しく読めた。ただ今回は、蔦重よりも春町自死で憤り、編集者としての矜持に震える豊仙堂丸屋小兵衛に共感してぐっときた。 吉原での立ち上がりプロセスや日本橋での展開など、事業での活躍とかがもうちょっと読みたかったが、全体に心理描写や情感に主眼があるから仕方なし。ただ、エピローグはやりすぎというか、私にはちょっと甘みが強すぎた。
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時間かかりましたが、やっと読み終えました。 谷津さんがいつも作中に込めている、既存を壊そうとする力が、はっきり感じ取れる、良作でした。 表現活動は怖いものです。 どんな人がどんな受け取り方をするのか。世に出すまで検討もつきません。 誰かを傷付けるのは確かに良くないことだと思います...
時間かかりましたが、やっと読み終えました。 谷津さんがいつも作中に込めている、既存を壊そうとする力が、はっきり感じ取れる、良作でした。 表現活動は怖いものです。 どんな人がどんな受け取り方をするのか。世に出すまで検討もつきません。 誰かを傷付けるのは確かに良くないことだと思いますが、どの方向に牙を向けているのかも、大事なことのように感じます。 自由と言いつつも、どこかに遠慮してしまうような世界なんて、来なければよいのですが。現代は情報に溢れていて、想定ターゲット以外の人が、場違いな情報を手にしてしまうこともあり、難しいものです。 お気に入りは小兵衛さんでした。 終わりかけた人生……なんて思っていたところに現れた重三郎や勇助、他の戯作者のみなさんも魅力的ではありましたが、正体不明で感情移入できぬところもあり、残念。 ラストには涙しました。 やっぱりね、小兵衛さん目線だったのと、それによる人物の厚みがものを言った感じです。 他の出版作品も積ん読中ですので、ぼちぼち読み進めようと思います。
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