イギリス 繁栄のあとさき の商品レビュー
ダイヤモンド社(1995)の文庫化 https://calil.jp/book/4478200351
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二十年前に書かれた、川北史学の基本線を記した本。 英国社会の実相はジェントルマン支配であり、これまでの世界史教育では産業革命が過大評価されている、と筆者は言う。これを敷延すると、工業は必ずしも国民経済の豊かの指標ではなく、金融資本や文化の蓄積も重要な要素だから、先進国の産業空洞化...
二十年前に書かれた、川北史学の基本線を記した本。 英国社会の実相はジェントルマン支配であり、これまでの世界史教育では産業革命が過大評価されている、と筆者は言う。これを敷延すると、工業は必ずしも国民経済の豊かの指標ではなく、金融資本や文化の蓄積も重要な要素だから、先進国の産業空洞化も恐るに足りず、ということになる。 20年後の観点でこの主張を検証すると、日本の産業空洞化は更に進み、経常収支も脅かされるようになったが、日本のカルチャーは世界に評価され、日本経済はポスト工業化時代をそれなりの温度で歩んでいる。米国ではアメリカファーストを掲げるトランプ政権が成立し、イギリス国民はブレグジットを選択した。いずれも工業の空洞化に業を煮やした選挙民の反乱であったが、ニューヨークと中部工業地帯、ロンドンとイングランド北部の格差は無視することができないという点では、彼の警告は二十年経って火の目を見たというべきだろう。 もう一つ、世界システムの中核国が周縁部に低開発国を作り出す、という論点がある。イギリスは砂糖はカリブ海に、綿花と茶葉はインドに、ゴムはマレーシアに、生産を強要して付加価値を自らが独占しつつ、現地の産業や人材の育成には配慮しなかった。現代でも先進国企業の工場が発展途上国に展開するが、工場は次第に付加価値を高め、国自体の経済成長にも繋がり、最早発展途上国という言葉は聞かれなくなった。 低開発地域は低開発のまま放置されるという命題は、18世紀のカリブ海には当てはまるが、同時期のアメリカ南部には当てはまらない。そして21世紀に東・東南アジアに形成された分業ネットワークは、植民地時代のモデルで説明できるほど単純ではない、ということなのだろう。
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かつてのイギリスの繁栄は、ほんとうに植民地経営により成り立っていたのか。 クルーグマンによって国家経済における貿易の影響力の小ささが指摘されているなかで、貿易こそが世界各国の地位を規定したとする世界システム論は、自分のなかでやや説得力を失っている。 もちろんそれで奴隷貿易や砂...
かつてのイギリスの繁栄は、ほんとうに植民地経営により成り立っていたのか。 クルーグマンによって国家経済における貿易の影響力の小ささが指摘されているなかで、貿易こそが世界各国の地位を規定したとする世界システム論は、自分のなかでやや説得力を失っている。 もちろんそれで奴隷貿易や砂糖プランテーションの事実が消えるわけではないし、周辺国が輸出のための産業に依存していないと言い切れるわけでもない。 だが、本書にはその影響を測る数値が出てこない。 確かにインドの低開発化とイギリスの工業化は同時に進行したし、アメリカの衰退と東南アジアの台頭は相関があるように見えるが、その因果は本書内では証明されない。 とすると、本書は歴史社会学の域を出ず、事象を学ぶことは出来るが、経済を学べるとは言い難い。納得感のある論ではあるが、その真価をどこまで斟酌できるのか。読み手の力量が試される。
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イギリス近代史の大家である川北稔氏の著書。 著者の関心は近年日本の経済的衰退が問題となっているが、これを歴史的に見た場合にはどのように考えられるのか、という点である。 そこで、かつて大英帝国として世界中にコモンウェルスを築き繁栄したヘゲモニー国家イギリスの衰退期を紹介した。 従...
イギリス近代史の大家である川北稔氏の著書。 著者の関心は近年日本の経済的衰退が問題となっているが、これを歴史的に見た場合にはどのように考えられるのか、という点である。 そこで、かつて大英帝国として世界中にコモンウェルスを築き繁栄したヘゲモニー国家イギリスの衰退期を紹介した。 従来イギリスの衰退は産業革命以後の工業の衰退が指標となって論じられてきたが、川北氏は近年イギリス史で盛んとなっている「ジェントルマン資本主義論」を以て批判する。 というのも、ウィリアム・ペティの法則「第一次産業→第二次産業→第三次産業」も踏まえて産業革命と呼ばれる程の大きな変革は存在しなかったとしている。 また、これまた近年歴史学では盛んに活用されている「近代世界システム論」による国際社会の分析も行っている。いわゆる搾取する側とされる側という役割分担によって世界の秩序は構成されている。 これは現代の国際社会における経済発展においても、搾取する側・される側の役割は存在しているらしい。 この「近代世界システム論」において、ヘゲモニー国家として存在したオランダ、イギリス、アメリカはどれもが衰退への途を経験している。 その中で、イギリスの衰退は「粘り腰」のあるものであり、なぜ「緩やか」な衰退が可能なのか。ここに日本が今後衰退を「緩やか」にしていく秘訣が隠されているとした。 それは、海外に輸出できるような「文化遺産」(生活文化)があるかどうかである。日本の確固たる文化を、世界に発信できる時、日本は衰退した後も影響を保ち続けれるのである。 以上が簡単な要約であるが、著者が指摘したように日本にきちんとした生活文化を発信できるだけの文化的感受性があるのか否か。私は、まず国内のちょっとした文化を見つめ味わい、各々の文化的感受性を高めていかなければ、上辺だけのグローバリズムに阿る薄っぺらい文化となってしまうだろうと思う。 イギリス史からの日本人へ警鐘を鳴らした一冊と受けりたい。
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[ 内容 ] 今日、イギリスから学ぶべきは、勃興の理由ではなく、成熟期以後の経済のあり方と、衰退の中身である―。 産業革命を支えたカリブ海の砂糖プランテーション。 資本主義を狙ったジェントルマンの非合理性。 英語、生活様式という文化遺産…。 世界システム論を日本に紹介した碩学が、...
[ 内容 ] 今日、イギリスから学ぶべきは、勃興の理由ではなく、成熟期以後の経済のあり方と、衰退の中身である―。 産業革命を支えたカリブ海の砂糖プランテーション。 資本主義を狙ったジェントルマンの非合理性。 英語、生活様式という文化遺産…。 世界システム論を日本に紹介した碩学が、大英帝国の内側を解き、歴史における「衰退」を考えるエッセイ。 [ 目次 ] 第1章 近代世界システムのなかのイギリス(オランダからイギリスへ;砂糖入り紅茶と産業革命 ほか) 第2章 「ジェントルマン資本主義」の内側(経済合理主義の落し穴;時短のゆくえ ほか) 第3章 文化の輸出と輸入(大英帝国の「日の名残り」;生活文化の輸出国へ ほか) 第4章 ヘゲモニーの衰退はどのようにして起こるか(オランダのヘゲモニーの衰退;「イギリスいまだ衰退せず」 ほか) [ 問題提起 ] [ 結論 ] [ コメント ] [ 読了した日 ]
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[模範としても、反面教師としても]日本においてはときに近代化のモデルとして、ときに「英国病」という言葉が示すように衰亡する国の例として捉えられてきたイギリス。その認識の変遷を確認しながら、イギリスから改めて学ぶべきことは何かについて思いを寄せた歴史エッセイです。著者は、大阪大学名...
[模範としても、反面教師としても]日本においてはときに近代化のモデルとして、ときに「英国病」という言葉が示すように衰亡する国の例として捉えられてきたイギリス。その認識の変遷を確認しながら、イギリスから改めて学ぶべきことは何かについて思いを寄せた歴史エッセイです。著者は、大阪大学名誉教授などを歴任され、I・ウォーラーステインの『近代世界システム』の邦訳も手がけられた川北稔。 執筆されたのが日本においてバブルが崩壊した直後ということもあり、「"衰退"と思われる状況にどう対処するか」という点に力点が置かれています。ただ、特効薬的な回答に走るのではなく、歴史研究者として長期的な、なんなら少し余裕を感じさせる考え方をしている点に、本書が長く読まれる理由の1つがあるのではないかと思います。 また、「近代世界システム論」と呼ばれる考え方を基に、当時の産業革命や近代に関する見方を紹介してくれているところも魅力の1つ。21世紀初頭の紆余曲折を経てそれらがどのように捉え直されているかも気になるところですが、20世紀末までの日本やヨーロッパにおけるイギリスへの視点を確認する際に有益な1冊になってくれるはずです。 〜こうした諸国のいわゆる「衰退」過程にあって、イギリスの特性と言えるものは何か。その最大の特質は、むしろその「衰退」過程が異常に長期に及んでいること、つまり、その「粘り強さ」にこそあるのではないか。〜 やっぱり注目しちゃいますよね☆5つ
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学生時代には感じなかったが、歴史を学ぶことって面白い。現代の国際経済はヨーロッバが生み出した「生産性」という「物差し」で測られている。その指標を用いて、「アジアの勃興」なんて言っていいのか。現代は、新たな「物差し」を必要としている。そして、それは日本的なものなのではないだろうか。
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「世界システム」論の中での近代イギリスををわかりやすく説明しています。近代史の場合、「世界システム」論をどのように位置づけるかが大切な課題なのですが、これを扱うと、それまで中高で学んで来たことを逆転させることになります。 例えば、「産業革命」の評価。この立場だと、とても低く評価さ...
「世界システム」論の中での近代イギリスををわかりやすく説明しています。近代史の場合、「世界システム」論をどのように位置づけるかが大切な課題なのですが、これを扱うと、それまで中高で学んで来たことを逆転させることになります。 例えば、「産業革命」の評価。この立場だと、とても低く評価されます。突き詰めると「革命」ではないことになります。ここのところも丁寧にわかりやすく説明しています。 また現代の日本がこのイギリスをどう評価するかも大きな論点となっています。私はむしろ日本の「生活文化」の再評価が重要なことと思います。
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