八月のフルート奏者 の商品レビュー
- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
私にとって『えーえんとくちから』に続いて2冊目の笹井さんの歌集。 15歳の頃から難病を伴う生活。 だからこそ、毎日を愛おしく見つめる眼差しを持ちえたのだろうか。 そこに卑屈さはなく、喜びも悲しみも真っ直ぐで透明感がある。 シャープでありながら、一つ一つの季節や、日々の一瞬一瞬を、大切に捉えていた。 確かに生きていた、そこに暮らしていたのだと、読んだ者が生身の笹井さんを感じることが出来る。 家族をとりあげた歌も多い。 生と死を敏感に捉えながらも、爽やかささえ感じる歌が色とりどりに並んでいる。 「香りしは白木蓮とミルクティーあなたの目蓋おろしつつ春」 「桃色の花弁一枚拾い来て母の少女はふふと笑えり」 「一枚であること一人であることの水泡 此岸桜は流れ」 「日本語が熟れてゆきます うすあかりする古書店の春の詩集に」 「木の間より漏れてくる光 祖父はそう、このやうに笑ふひとであった」 「なんといふしづかな呼吸なのだらう 蛍の群れにおほわれる川」 「八月のフルート奏者きらきらと独り真昼の野を歩みをり」 「廃品のなかでひときはたくましく空を見上げてゐる扇風機」 「雨といふごくやはらかき弾丸がわが心象を貫きにけり」 「ひろゆき、と平仮名めきて呼ぶときの祖母の瞳のいつくしき黒」 「流星の尾を掴まむとする刹那むしろゆたけき闇をよろこぶ」
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笹井宏之さんの第三歌集。 最後の歌集、そう思うと切ない。しかし、佐賀新聞に掲載された短歌や、パソコンに眠っていた短歌を一冊にまとめてくださったことはありがたいし、読めて幸せだなぁ。 笹井さんの優しく透き通るような短歌を読むと、生まれてきてよかったなぁと思う。 幸せは身近な日常に寄...
笹井宏之さんの第三歌集。 最後の歌集、そう思うと切ない。しかし、佐賀新聞に掲載された短歌や、パソコンに眠っていた短歌を一冊にまとめてくださったことはありがたいし、読めて幸せだなぁ。 笹井さんの優しく透き通るような短歌を読むと、生まれてきてよかったなぁと思う。 幸せは身近な日常に寄り添うようにあるんだね。 以下、特に心に響いた歌を。 ○押し花のキーホルダーをはじきつつあなたは風のやうに笑つた ○ひろゆき、と平仮名めきて呼ぶときの祖母の瞳のいつくしき黒 ○泣いてゐるものは青かり この星もきつとおほきな涙であらう ○八月のフルート奏者きらきらと独り真昼の野を歩みをり ○この雨をのみほせば逢へるでせうか 川の向こうで機織るきみに ○涙にも温度があるといふことを頬のあたりに記憶してゐる ○たっぷりと春を含んだ日溜まりであなたの夢と少し繋がる ○桃色の花弁一枚拾い来て母の少女はふふと笑えり ○てくてくてくぐるぐるにゃあんびょーんぴょん「こら神棚に上がっちゃ駄目よ!」 ○幸せでいいですかと問う君の横ほら幸せが頷いている
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笹井宏之の作品をこれで全部読んだことになる。なんかもったいない気分だ。読んでいる最中はいつのまにか夢うつつになったり、歌が浮かんできて短歌を詠んだりしてたので、最後まで読むのはなかなか時間がかかった。
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この歌集は笹井宏之さんが、2004年から2009年に佐賀新聞に投稿された歌を編んだものだそうです。 佐賀新聞に掲載された全251首と、掲載されなかった歌も何首か載っています。 ○八月のフルート奏者きらきらと独り真昼の野を歩みをり の歌は実は佐賀新聞には選ばれず、笹井さんのパソ...
この歌集は笹井宏之さんが、2004年から2009年に佐賀新聞に投稿された歌を編んだものだそうです。 佐賀新聞に掲載された全251首と、掲載されなかった歌も何首か載っています。 ○八月のフルート奏者きらきらと独り真昼の野を歩みをり の歌は実は佐賀新聞には選ばれず、笹井さんのパソコンの中に眠っていた歌だそうです。 この歌集の特徴としては旧仮名づかいを使用していること、家族を喜ばすという動機で詠まれたものが多いということがあるそうです。 八月のフルート奏者とは8月1日生まれのまさに笹井さん自身を詠んでいるのかと思われます。 特に好きだった歌を以下に。 ○花束をかかえるように猫を抱くいくさではないものの喩えに ○焼芋を売るおるひと売られおるひと どちらも芋のごとしあたたかし ○日本語が熟れてゆきます うすあかりする古書店の春の詩集に ○告白のはじめの言葉はらはらと落ちるゆきやなぎの散歩道 ○わがうちに散る桜あり 君の名を呼ぶとき君はきらきらと風 ○涙にも温度があるといふことを頬のあたりに記憶してゐる ○昏迷の砂漠に声は響きつつ哀しからずや浜崎あゆみ ○どうしてもかなしくなつてしまひます あなたをつつむあめのかをりに ○午後きみはひかりのかごを編んでをり 居眠りをするわれの傍ら ○たましひの還る世界に似て遥か インターネットという混沌は ○ペットボトル半分ほどの優しさを生きとし生けるもの全てへ ○ゆつくりと私は道を踏みはづす金木犀のかをりの中で ○春の橋越えてわれへと降りそそぐひかりの子供たちの歓声
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やわらかく、どこか純真無垢な短歌。 君でなければならなかったのだろうか国道に横たわる子猫の背 携帯のカメラでは上手く撮れぬからメールに書いた「夜空を見なよ」 香りは白木蓮とミルクティーあなたの目蓋おろし つつ春
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My friend gave me a chance to read his book. I love to think what he thought when he chose the words that I read today. 前の世に出逢ひてゐたるあかしかと思ひ...
My friend gave me a chance to read his book. I love to think what he thought when he chose the words that I read today. 前の世に出逢ひてゐたるあかしかと思ひぬ なにか君が懐かし ひたすらに瞳の奥を確かめる あなたは炎かもしれぬから 君といふ空間にふと立ち入れば雲ひとつなき夕ぞらにあふ 涙にも温度があるといふことを頬のあたりに記憶してゐる 呼び合える名があることの嬉しさにコーラの缶の露光る夏 気兼ねなく好きだと言えるその人の手は僕よりも少し冷たく どうしてもかなしくなつてしまひます あなたをつつむあめのかをりに 「いだきあふ、ひとつになれぬゆゑ」といふ歌曲を思ひつつ服を着る 伝はらぬ思ひがひとつ胸中に絵画のやうに掛かりてをりぬ 町中の赤信号の点滅がかなしくて思はず「あ」と言へり 君が差すオレンジ色の傘を伝うたった一粒の雨になりたし
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旧仮名遣いの歌たち。 それでもまた、どこかコケットで透明。でもなんだかより儚げ。 好きな歌 どうしてもかなしくなってしまいます あなたをつつむあめのかおりに せつなさに心が洗われます。
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26歳で夭折した青年の残した歌たち。 短歌のことはよくわからないけれど、あふれる出る豊かな感受性を知性でコントロールし「言葉」で切り取りハラリと差し出しているようで。 「あすひらく花の名前を簡潔に未来と呼べばふくらむ蕾」 「ゆっくりと私は道を踏みはづす金木犀のかをりの中で」 「か...
26歳で夭折した青年の残した歌たち。 短歌のことはよくわからないけれど、あふれる出る豊かな感受性を知性でコントロールし「言葉」で切り取りハラリと差し出しているようで。 「あすひらく花の名前を簡潔に未来と呼べばふくらむ蕾」 「ゆっくりと私は道を踏みはづす金木犀のかをりの中で」 「かなぶんであそぶ子猫をみてゐたり破壊とはこんなにも純粋」
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