子どもの貧困(2) の商品レビュー
前著で子どもの貧困の実態を示した著者が、具体的にこの状況を解決していくにはどのような政策が考えられるか、調査や海外での実際の事例などを参考に挙げていっています。限られた財源の中で、数ある政策候補の中からどの政策を取っていけばよいのか、という視点も随所に現れています。 「第4章 対...
前著で子どもの貧困の実態を示した著者が、具体的にこの状況を解決していくにはどのような政策が考えられるか、調査や海外での実際の事例などを参考に挙げていっています。限られた財源の中で、数ある政策候補の中からどの政策を取っていけばよいのか、という視点も随所に現れています。 「第4章 対象者を選定する」では対象者を絞り込むことの利点・欠点や、対象者選定の考え方の様々が示されており、興味深かったです。ここにも書かれているとおり、日本においては対象者を選定しない給付型の社会政策は「バラマキ」と批判されることが多いと思いますが、安易に対象者を線引きすることで本来サポートが必要な層に給付が届かないのは本末転倒だなと思ってしまいます。社会政策の制度設計の難しさを感じられました。
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・母子世帯は124万世帯、父子世帯は22万世帯、子どものいる世帯数は1180万世帯。貧困の子どものうち、ひとり親世帯に属するのは2割程度と言われている ・貧困であることは、「生活に必要なお金が足りない」という物質的な困窮、「来月の家賃が払えるか?」というような生活の不安・不安定...
・母子世帯は124万世帯、父子世帯は22万世帯、子どものいる世帯数は1180万世帯。貧困の子どものうち、ひとり親世帯に属するのは2割程度と言われている ・貧困であることは、「生活に必要なお金が足りない」という物質的な困窮、「来月の家賃が払えるか?」というような生活の不安・不安定さのみではなく、負け組であることも加わった心理的ストレスがダブルパンチ ・先進諸国においては、自然に貧困層に「トリクルダウン」するわけではない。日本は、GDP比で見る品高層への社会支出は極めて小さいのである。そもそもが貧弱な貧困対策なので、GDPの増加と同じ比率で増加したとしても、急激にその貧困削減効果が大きくなるわけではない。 ・日本は、子どもの教育における私的な負担の割合が、OECD諸国の中で最高 ・習い事でチームプレーの経験や、アートや自然を吸収できる。一昔前であれば、お金がなくても近所の付き合いで身につけられていたが、現在に置いてはお金で買うものになってきている ・海外の研究によると、相対的貧困の子どもに対する一番大きな影響は、親や家庭内のストレスがもたらす、身体的・心理的影響だという。 慢性的になったとき、ゆとりを持った子育てなど、とうていできなくなってしまう。情緒的、非認知能力の成長を止める。 ・母親の帰宅時間が18時を超える母子家庭は5割、20時以降の母子家庭も1割ある。 ・どのような子どもを対象とする普遍的制度・普遍主義と、貧困の子どもに対象を絞る選別的制度・選別主義に分かれる。 ・川上対策と川下対策 ・乳幼児期に貧困を経験した子どもは、その後世帯の状況が改善して、貧困から抜け出せたとしても、乳幼児期の貧困が悪影響を及ぼす可能性が高い ・公的年金の給付を除いたら、子どもの貧困率の逆転現象は起こっているのである。 ・格差をどこまで解消すべきかという問いには答えがないが、貧困は撲滅すべき目標となる。
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「子どもの貧困対策法」は研究が行われることが前提になっている、ようなのだけど、制定されて数年経ち、今はどうなってるのか。現状を調べてみようかなと思った。 本書の中で提案されている政策や、アメリカで行われた各種政策の費用対効果まとめ表などは、とても参考になった。と言っても自分はそういう政策等の制定に関わるような立場でもなし、選択肢としてそういうものもあり得るのか、という程度の「参考」なのだけれども。 日本の現状を考えると、オーストラリア方式の選別主義の方がうまく働きそうな気はする。予算さえあれば。予算の問題は大きい。そして、将来の予算を確保するための現在の投資、という考え方がなかなか受け容れられないことも、問題なのだろうな、と改めて思う。
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教育現場の政策介入って、予算ないから敬遠されがちだけど、これはその問題箇所をかなりわかりやく書かれていてとても助かりました。
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就学支援金など基本的な制度の知識を欠いていたことを改めて再確認させられた。子どもの貧困に対して有りうる対策を網羅的に挙げた上で、有効な施策を真剣に検討している。ターゲッティングという発想を強調している点も本書の特徴である。
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前著に続き子どもの貧困について論じた。本書は、子どもの貧困に関する政策について論じている。現金給付と現物給付のどちらが良いのかなどの議論を行った上で、各種政策の個別論を浅く広く述べている。
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子どもの貧困をデータで示した一冊目から一歩踏み出して、具体的な対応策を模索している。難しい問題だけど読みやすい。
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前著から5年、的確に問題点は提示されたし、子どもの貧困に対し、社会の視線は着実に向けられた。 それなのに適切な対応策が十分に取られていないことに、問題の広範さを読み取れます。
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前作は子どもの貧困の現状がデータで語られることが中心だったが、今作は子どもの貧困の原因とその解決策を探ることが中心。 結論として、原因が複合的なので、解決策も多岐に渡り、それら全てを対策するのは時間と人手と、何より予算上難しい。だからこそ、優先度を見極めてやっていかなければならな...
前作は子どもの貧困の現状がデータで語られることが中心だったが、今作は子どもの貧困の原因とその解決策を探ることが中心。 結論として、原因が複合的なので、解決策も多岐に渡り、それら全てを対策するのは時間と人手と、何より予算上難しい。だからこそ、優先度を見極めてやっていかなければならない。 対策として、政策なのか、対象者の選定方法なのか、現金給与・現物給付なのか、教育なのか就労支援なのか。それぞれにメリットもあれば、不透明な要素もある。またたとえば就労支援といっても色々な方法がある。 子どもの貧困は、就労の困難さにつながるので、国の税収としてロストが大きく、貧困対策は税収増加に対してコストパフォーマンスが大きいというのが、データとしても実証されており、対策していくことの有効性を語る上でとても分かりやすい。
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私たちが問うべきなのは、この「機械の不平等」を是正するために、どれくらいの費用を社会が負担するべきかという問いである。その相場観を得るためには、逆に、貧困を放置すれば、どれくらいの社会の損失になるかを知ることが有益である。(p.25) 肝心なのは、この「できることをやる」姿勢である。まず、本章で紹介したさまざまな経路の中でも政策的に介入できるものと、介入できないものがある。たとえば、「職業」を介する影響に政策的に介入することは難しい。自営業の親の店舗や会社、政治家の親の地盤などを子どもに渡すなとは規制できない。一方で、教育投資や医療サービスなど、すでに政府が大きく関与している部分もあり、そこには、より貧困の子どもを支援する仕組みを組み込めるであろう。(p.71) 子どもを「将来の人的資本」と見なし、貧困の不利を解消する政策を、「人的資本政策(Human Capital Policies)」として論じている経済学者も少なくない。貧困に対する政策をただ単に「かわいそうだから」という論理ではなく、「社会に対する投資」という論理で考えるという点では、この領域の学問にも説得性はある。(p.90) 数ある政策の選択肢の中から実施する政策を選ぶために、長期的な収益性の観点が欠かせないことである。子どもの貧困に対する政策は、短期的には社会への見返りはないかもしれない。しかし、長期的にみれば、これらの政策は、その恩恵を受けた子どもの所得が上がり、税金や社会保障を支払い、GDPに貢献するようになるので、ペイするのである。すなわち、子どもの貧困対策は投資なのである。(p.96) 貧困に対する対策には、「川上対策」と「川下対策」がある。「川上対策」とは、貧困が発生する前に手を打つ策である。すなわち貧困をつくりださない社会の仕組みや制度を構築する政策を指す。たとえば、義務教育の徹底や、最低賃金などの労働規制や、誰でも受診できる医療サービスなどがこれにあたる。一方で、「川下対策」とは、貧困に陥ってしまった人々が最低限の生活を保てるようにする策である。生活保護制度や就学援助費のような現金給付や、低所得者のための無料低額医療サービスの提供などがわかりやすい例である。二つの政策の決定的な違いは、「貧困者」や「弱者」を選別するかどうかである。(p.102-103) ある地方議員の話でショックだったのが、「市民にとって、生活保護受給者はもはや憎しみの対象になっている」という言葉である。市民の「最後のセーフティネット(安全網)」であるはずの生活保護制度がこのような言葉で語られるのは、日本の社会政策の歴史の中でも最も大きな失敗である。ターゲティングの執行の際は、このような失敗が起こらないように細心の注意と工夫が必要なのである。(p.129)
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