「帰郷」の物語/「移動」の語り の商品レビュー
場所から移動を捕まえるのではなく、移動から場所を思考するという編者の意図が、文学テクストを読み解く作業として展開していく。収録された論文の全てでそれが成功しているとは言えないまでも、非常に密度の高い論文集であることは確かだ。 敗戦後の日本における「引揚げ」「復員」「帰国」といった...
場所から移動を捕まえるのではなく、移動から場所を思考するという編者の意図が、文学テクストを読み解く作業として展開していく。収録された論文の全てでそれが成功しているとは言えないまでも、非常に密度の高い論文集であることは確かだ。 敗戦後の日本における「引揚げ」「復員」「帰国」といった人の移動は、どのように物語られてきたのか、そして、そこでは何が忘れ去られてしまっているのか。 本書中の複数の論文で言及される森崎和江の文章に象徴されるように、植民地や占領といった事態は、移動と場所との関係性に複雑な陰影をもたらすであろう。 自らの主体性を括弧に入れて発話することが不可能であるとき、つまりアリバイを拵えることが許されなくなるとき、作家や詩人の言葉には、歴史に肉薄する力が宿るのだ。
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