血の探求 の商品レビュー
中年男性の大学教授がオフィスを借りる。 隣室から聞こえる若い女性のカウンセリングを盗み聞きするうちにどんどんのめり込み、精神が不安定になっていく。 最初は、「おっさんのストーカー気持ち悪い」という感想しかなかったが、我慢して読み進めるうちに、次第に私も女性の次回のセッションが待ち...
中年男性の大学教授がオフィスを借りる。 隣室から聞こえる若い女性のカウンセリングを盗み聞きするうちにどんどんのめり込み、精神が不安定になっていく。 最初は、「おっさんのストーカー気持ち悪い」という感想しかなかったが、我慢して読み進めるうちに、次第に私も女性の次回のセッションが待ち遠しくなった。女性の出生の謎に迫っていく展開は非常に面白かった。 精神の不安定を象徴する烏たちが、her her herと鳴き始めるところが一番印象に残った。彼の強迫観念を我が身に迫って感じられた。
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ミステリにくくられているようなのでいちおうそういうジャンル分けで。 で、途中で挫折した。 途中でやめたらこの作品のもってる良さはまーったくわからずじまいだろうが、 ただ延々と盗み聞きを読むのは退屈すぎる。 本作を苦労して読み続けるより、エンタメミステリでも読んでたほうが楽しい...
ミステリにくくられているようなのでいちおうそういうジャンル分けで。 で、途中で挫折した。 途中でやめたらこの作品のもってる良さはまーったくわからずじまいだろうが、 ただ延々と盗み聞きを読むのは退屈すぎる。 本作を苦労して読み続けるより、エンタメミステリでも読んでたほうが楽しい。 またしてもすんまへん。
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文字通り、睡眠時間を削って読んだ。 「彼女が自身をまったく新しく作られた人間として見てくれたらいいのに-先祖からの解放へと私を導いてくれる自己創造の人間として見てくれたらいいのに、と願わずにはいられなかった。」(p.166) 主人公は勝手だ。隣室で行ったり来たりしながらも自身に...
文字通り、睡眠時間を削って読んだ。 「彼女が自身をまったく新しく作られた人間として見てくれたらいいのに-先祖からの解放へと私を導いてくれる自己創造の人間として見てくれたらいいのに、と願わずにはいられなかった。」(p.166) 主人公は勝手だ。隣室で行ったり来たりしながらも自身に向き合い闘う患者とその精神科医の会話を盗み聞きして、自分の精神不安定と強迫観念を改善した気になる勝手な、まるで読者みたいに勝手な主人公に、視点が自然と重なる。 頭の具合と合わせて行き来したりぐるぐると円を描いて抜け出せなくなったり突破したりする不安定な思考が、自分と重なる。 そしてラストは衝撃的。 患者の産みの母親の物語で安心しようと甘えが出た途端に放り出された。 完全に主人公の大学教授の視点で、自分自身の恐怖に縛られた思考を解きほぐすために、患者とセラピストの会話を「盗み聞き」してしまっていた。 ラストは主人公と一緒に放り出されて、動悸がして呼吸が浅くなった。 でも、1ページ目に戻ったらちゃんと「あれが終わりを迎えたときには、私は別人になっていた。彼女のおかげだ。私を変えてくれたのは、最後まで名前も知らぬままになった彼女だった。」と書いてあったのだった。 変わるんだ、私も。 ドイツ・ベルゲン=ベルゼン強制収容所から第四次中東戦争後のイスラエルを知るための、歴史小説としても抜群だった。 本当に。 【完全に自分用メモ】 自分の出自は、自分自身で考えてもいない影響を及ぼすのではないか。 自分は、何からも親からも望まれていない存在ではないのか。 自分が存在することそのものへの恐怖。 そして、ひどいことを言える血を持った自分は、自然とひどいことが言えてしまうのではないかという恐怖。 全ては恐怖から生まれていて、「つまり、彼女に悲しい思いをさせたくない、わたしが存在することで喚起される悲しい気持ちから守ってやりたいと思ったんです。」(p.233)いつもここに逃げてしまう。 自分に自信を持ちましょう、とかって話ではなくて、ただの恐怖だ。不満の声を漏らされ、不機嫌な顔をされた、それだけで恐怖に縛られる。 ただの恐怖です。 恐怖には打ち勝たなくてはならない。 恐怖に縛られているのは私自身の問題だから、私がカタをつけなきゃいけない。 祖父母や両親が言えて、でも私が言ってもいない「ひどいこと」については、私には関係ない。それはまだ反省する必要のない、幻影だ。 恐怖に震えて理性を失う、自己創造できないのが、私の罪だ。 「あなたはけっしてお母さまを満足させることはできないのですよ。それはおわかりでしょう。」(p.357) わかっている。わかっている…。
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盗み聞き大学教授、セラピスト、患者。 評価が高かったので、手に取った。 盗み聞き教授の常軌を逸したのめり込みっぷりにげんなり。 ストーリーも厳しくて苦しくて、意地悪もあって。 楽しめなかった。 そんな自分が嫌になるのも嫌。 こんな読後感珍しい。
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ひっさびさに、小説を読んで「おおお!」と漲った。 読み応えのある厚さだけれど、さすが小説、である。実にすばらしい。 一人の男が、隣の部屋のセラピーで行われている出来事に耳を澄ませるところから物語は始まる。 簡単に言えば盗聴だ。 けれど、誰もが想像しない方向へ物語は進み...
ひっさびさに、小説を読んで「おおお!」と漲った。 読み応えのある厚さだけれど、さすが小説、である。実にすばらしい。 一人の男が、隣の部屋のセラピーで行われている出来事に耳を澄ませるところから物語は始まる。 簡単に言えば盗聴だ。 けれど、誰もが想像しない方向へ物語は進み、世界の豊かさを味わえる。 これは小説でしか描けないし、読み取れない。 というか、一度読んだけれど……今すぐ再読したい。そんな小説でした。 面白かった!
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壁一枚隔てた貸事務所。 隣の女性のカウンセリングを聞くは精神的な問題を抱えた大学教授。 やがて彼は女性の人生に大きく関わることになっていく。 なんとも不思議な舞台設定で。 メインの登場人物3人のうち二人に名前がなく、ほぼ舞台は大学教授の借りている事務所からうごかない。 隣の声を...
壁一枚隔てた貸事務所。 隣の女性のカウンセリングを聞くは精神的な問題を抱えた大学教授。 やがて彼は女性の人生に大きく関わることになっていく。 なんとも不思議な舞台設定で。 メインの登場人物3人のうち二人に名前がなく、ほぼ舞台は大学教授の借りている事務所からうごかない。 隣の声を盗み聞きするという状態で進む物語。 会話分も括弧がつけられておらず地文に紛れているのでまるで騙し絵の様。 そもそも語り手も、その彼が盗み聞きしている話も信用できないし。 それでも最初のうちは苦痛だった独特の世界に気がついたら引きずり込まれ、いつの間にか患者の話をもっと聞きたくなり、ラストシーンが残念で仕方がなかった。 これをミステリかと言われるとちょっと首を捻ってしまうけれど、自分が患者の立場だったら十分に『人生の謎』であろう。
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ハード面とソフト面で楽しめる異質な作品。長めのアプローチと濃い描写で序盤は悶絶したが、気付けばだだハマり。 まずハード。ほぼ会話のみで進行するが、かぎ括弧はなく、地の分に埋め込まれた形になっている。主要キャラは三人で、うち二人は名無し。舞台はビルの隣り合った二室のみで移動はなし...
ハード面とソフト面で楽しめる異質な作品。長めのアプローチと濃い描写で序盤は悶絶したが、気付けばだだハマり。 まずハード。ほぼ会話のみで進行するが、かぎ括弧はなく、地の分に埋め込まれた形になっている。主要キャラは三人で、うち二人は名無し。舞台はビルの隣り合った二室のみで移動はなし。語りは一人称だが、言い回しの妙で三人称であるかのような錯覚を起こす。 この盗み聞きの中に作中作のような物語が登場するのだが、それも含めて、謎めいたドラマ、謎めいた登場人物が織り成すソフト面が、インパクトのある作品へと昇華させていく。出自にまつわるストーリーが重い。このネタは昨年から何度か経験してるが、それでも読むたびに違う重みがあって気持ちがしんどくなる。掘ってみたら根っこは想像以上に巨大で、しかもまだ奥にも伸びていて真実はとんでなかった。…という患者の血の物語がメインになるのかもしれないが、盗み聞きというフレームに立ち返ると、大学教授の「私」の異様さに改めて気付かされるという作りに感心してしまう。 殺人などのお約束要素は一切ないのだが、広義のミステリと言っても差し支えないだろう。謎という観点から見れば、謎だらけの人物によって語られる謎だらけのお話ではある。このラストも好きです。“探求”はほどほどに、と作者が読者をたしなめているような感覚。評価は、型破り作品の希少価値(?)を鑑みて甘めの星よっつ。
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本編の大半が『盗み聞き』で構成されている、ユニークなミステリ。 凶悪犯罪が起きるわけでもなく、登場人物の誰も死なないが、サスペンスフルでページをめくる手が止まらない。 メインの謎らしい謎は『母親探し』ということになるのだろうが、こちらは割とあっさり解きあかされてしまい、登場人物の...
本編の大半が『盗み聞き』で構成されている、ユニークなミステリ。 凶悪犯罪が起きるわけでもなく、登場人物の誰も死なないが、サスペンスフルでページをめくる手が止まらない。 メインの謎らしい謎は『母親探し』ということになるのだろうが、こちらは割とあっさり解きあかされてしまい、登場人物の内面に焦点が当たっているところも面白い。 『訳者あとがき』によると、どうやら寡作なタイプらしく、他の長編をすぐに読めなさそうなのが残念だ……他のも読んでみたかったのだが。
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