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おわりの雪 の商品レビュー

4.3

5件のお客様レビュー

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2024/02/03
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

なんと言ったらいいのだろう。 静謐であるがゆえに主人公の生活の中に垣間見える”死”の圧倒的確かさと、生きることの困難さ。 作品の最初から”ぼく”の父親は病床にある。 暮らしを支えているのは父親の年金(年齢的に傷病年金的なやつ?)と、ぼくが老人ホームのお年寄りの散歩につき添うお駄賃の半分のみ。 さすがにそれでは生活は苦しかろう、と思う。 ぼくは古道具屋の店先に置かれた鳥籠の中のトビに心を奪われ、買いたいと思う。 しかしそれは、ぼくのお小遣いをどれだけ貯めても届かないくらいの高値を付けられていた。 老人たちにつき添って散歩に行くとき、自力で元気に歩いているお年寄りとすれ違う。 しかし彼らとて、いつかはぼくのお世話になるのだということを、互いにわかっている。 ぼくは家に帰ると父親の部屋へ行き、彼が眠りにつくまで枕元でおしゃべりをする。 そのとき、母が出かける音を聞くと、父の様子が少し変わることに僕は気づいているが、理由はよくわからない。 成り行きで僕は、老人ホームの管理人であるボルグマンの代わりに仔猫を殺すことになる。 二人は二度とこの件について話をしたことはなかったのに、うわさは広がっており…。 鳥籠の中のトビとぼくが重なるとともに、動物たちの死が父の病状にある予感を運んでくる。 母の、夜の外出の意味すら分からないぼくの年齢は、まだまだ少年のはずだけど、この冬の雪の日の出来事を最後に、少年は子ども時代に別れを告げるのだと思われる。 息をするのもためらわれるほど密やかな空気をまとった作品だが、ぼくの心の中はいつも、血の通ったあたたかいものが流れていた。 たとえそれが動物を殺さなくてはならない時でも。

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2022/02/26

雪のようにしんしんと文章が降ってくる小説だった。 劇的ともいえる展開もただ淡々と書かれているので、ドキドキハラハラといった感情を揺さぶられることは少なく、静かに現実がありありと描かれている。 小説のなかの景色が思い浮かびやすい文章だった。 全体的に冬のような薄暗い話のなかで、父...

雪のようにしんしんと文章が降ってくる小説だった。 劇的ともいえる展開もただ淡々と書かれているので、ドキドキハラハラといった感情を揺さぶられることは少なく、静かに現実がありありと描かれている。 小説のなかの景色が思い浮かびやすい文章だった。 全体的に冬のような薄暗い話のなかで、父子の語らいは優しく爛々としている。 『おわりの雪』のタイトルのとおり、冬に主人公のなかである一区切りがつくお話。

Posted byブクログ

2019/12/04

今までに味わったことのない小説。静かに時間が流れていくなか、やるせなさ、生と死、心と身体の寒さ、貧しさなどが繰り返される。父の死となる最後の冬の出来事を淡々としみいるように表現されていた。

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2018/07/01
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

私が読んだフランス現代(純)文学はなんだかモヤモヤしたものが多く、個人的に相性は良くないように思っていたのだが、これはやはりモヤモヤしているにもかかわらず、とても良かった。  このボンヤリした感じが、深い悲しみにふさわしいというか。 家庭の経済状態や、父の病気、母の行動の理由どころか、語り手の年齢も、時代も場所もはっきりしていない。 でも、それが少年(?)と父の心象風景のようで、具体的に書いてあるよりずっといいのだ。 鳶や犬が象徴する意味を考えると更にこの書き方が良かったと思う。  悲しみを抱えて生きていくのが当たり前過ぎて、悲しみがない状態なんて考えつくことすらできない環境に生きる人々のささやかな喜び(父と子が繰り返す物語や会話)が切なく心に響く。  猫や犬が好きな人には更に辛い話かもしれないが、もちろん猫も犬も少年の一部なのだ。それを自ら殺すことを選ばざるを得ない残酷はなぜ起こったのかも考えたい。  少年(?)と書いたのは、読んでいて少年のようで少年でない気がしたから。考え方は少年のようだけど、ロウティーンの子どもに、老人を支える仕事や、動物を殺す仕事を頼むだろうか、と思う。が、もっと大人に近い少年なら、家が貧しいのに(体は丈夫そうなのに)なぜちゃんと働かないのかと思う。 知的障害のある青年ならどうかとも考えたが、それなら父にあんなに生き生きと物語を語れるだろうか。やはりこれはかつて少年であった大人が語っているという気がする。記憶は修正される。だから実際にはなかったこともあったことになるし、逆もまた然り。記憶だからボンヤリしていてもおかしくない。 と思ったけど。  読みながら、ノルシュテインならこれをアニメにできるな、と思った。犬を捨てに行くシーンが、雪の中に綱が消えていく様子が、暗い部屋の様子が目に浮かぶ。音楽はもちろんバッハ。ああ、見たい。

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2013/09/09

語り手が回想するのはあの時の記憶。 病床の父、夜に出かける母、 家計を助けるための養老院での老人たちとの散歩、 買おうと決めたトビ、そのために犯した罪。 そして真っ白な、あまりに真っ白な雪原。 しんしんと降り積もる雪の中では、声はひそめて語らなければならないように、虚飾を排し...

語り手が回想するのはあの時の記憶。 病床の父、夜に出かける母、 家計を助けるための養老院での老人たちとの散歩、 買おうと決めたトビ、そのために犯した罪。 そして真っ白な、あまりに真っ白な雪原。 しんしんと降り積もる雪の中では、声はひそめて語らなければならないように、虚飾を排し、あまりに静かに語られる物語はたんたんと結末へと進んでいきます。 読み終え、静かに本を閉じたとき、わけもなく流れたのは静かな涙。

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