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パンダの死体はよみがえる の商品レビュー

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5件のお客様レビュー

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2018/07/07
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インパクトのある題名から、一瞬ホラーを連想するが、そうではない。 著者は解剖の現場に携わる気鋭の学者。動物の死体は知の宝庫、未来に引き継がれるべき財産だと説き、それらを生ごみとして扱う近年の社会や学会に警鐘を鳴らす。その主張は動物の死体を「遺体」と呼ぶ姿勢にも表れる。そして遺体に秘められた謎、その謎が解明されるまでのプロセスが、主にパンダの手の解剖を通してスリリングに語られる。元はクマ科の肉食動物だったパンダ。その手は親指が他の四本の指に平行して伸びている。本来、竹のような丸く細いものを握りこむには向かない。では一体どんな仕組みで竹を掌中に保持できているのか。 著者はジャイアントパンダ・フェイフェイの解剖の現場を文章で再現しながら、読者に「遺体科学」の追体験をさせてくれる。説明に専門用語が並び、堅苦しくなりそうな箇所では、「私が短母指外転筋・母指対立筋なら、嬉々として(中略)収縮を試みるだろう」とユーモアを交えつつ、観察対象に入り込む視点の重要さを示す。 動物学的な記述ばかりではない。第三章の「語り部の遺体たち」では、保存された遺体が担う時代や文化史的背景にも話題が広がる。スミソニアン博物館の毛皮標本からはルーズベルトとテディ・ベアにまつわる逸話が呼び起こされ、東大農学部の保管する「忠犬」ハチ公の臓器からは生前のハチの意外な暮らしぶりが推定される。 ハチを忠犬と呼ぶに至った当時の日本の時代背景も物語られて興味深い。 遺体を見つめ、遺体の持つ履歴の行間を読めば、確かに「死体はよみがえる」のだということが信じられてくる。 第四章の最後で、東京上野の国立科学博物館の展示室「大地を駆ける生命」が紹介されている。著者が手がけた遺体の展示室だ。理念の一端が現実化している場所を見てみたくて足を運んだ。剥製の遺体たちはガラス張りの展示スペースの中だが、床に高低差が設けられているので、さまざまな角度から眺められる。この本の立役者・フェイフェイも、娘トントンと共にここに並ぶ。もの言わぬ遺体たちを拝観しながら、彼らの毛並みの下に内包されている数多の歴史と謎に思いを馳せた。

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2017/06/14

 珍しい死後動物の解剖の専門家の本。初に近い著作なのか、若干の気負いが見られるも、内容が特殊で興味が湧いた。各動物の解剖所見の話がやはり一番詳細で面白い。パンダの手の構造説明などは工学的に見ても価値がある。少々思い入れが強すぎ、何がどう世の貢献につながるのかが見えにくいかも。表現...

 珍しい死後動物の解剖の専門家の本。初に近い著作なのか、若干の気負いが見られるも、内容が特殊で興味が湧いた。各動物の解剖所見の話がやはり一番詳細で面白い。パンダの手の構造説明などは工学的に見ても価値がある。少々思い入れが強すぎ、何がどう世の貢献につながるのかが見えにくいかも。表現も変な小説風になってたりする場合も見られるので、もう少しリラックス?体がうれしかったりして・・・。  もっと他の動物の専門的解剖所見を知りたい。別書、論文等を見てみたい。

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2015/12/21

グールド「パンダの親指」を読んだものとしては、タイトルに惹かれる。で、本文でもちゃんとこの本に言及していて、この本に書かれていた事項を、自らの観察により修正し、新たな知見をもたらしている。 なんか「おー、科学が進んでる!巨人の肩に乗ってる!」感があって、興奮しちゃうね。 著者の...

グールド「パンダの親指」を読んだものとしては、タイトルに惹かれる。で、本文でもちゃんとこの本に言及していて、この本に書かれていた事項を、自らの観察により修正し、新たな知見をもたらしている。 なんか「おー、科学が進んでる!巨人の肩に乗ってる!」感があって、興奮しちゃうね。 著者の筆は相変わらず冴えわたっていて、全編飽きさせない。

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2014/11/09

自分にとって必要なくなったものは早く捨てるという考え方は、自分の身の回りをすっきりさせ、仕事を円滑に進めるためにも大切なことだと今の時代は教えられます。 しかしそれは自分という人間を中心に考えた生き方であって、自分の持ち物や自分の生活空間の中でのごみに対してはそれでもいいけれども...

自分にとって必要なくなったものは早く捨てるという考え方は、自分の身の回りをすっきりさせ、仕事を円滑に進めるためにも大切なことだと今の時代は教えられます。 しかしそれは自分という人間を中心に考えた生き方であって、自分の持ち物や自分の生活空間の中でのごみに対してはそれでもいいけれども、こと動物の遺体に関しては死んだから焼いて捨てればいいという考え方は正しくないのだということを知った。 息は途絶え生物としての役割は果たせなくとも、学術研究として後世に貢献していくという第2の偉大な役目が始まっていることを知り、遺体科学の人類の未来に果たす役割の大きさを感じることができた。 死んでしまったパンダが生き返ることはないけれど、パンダの手の作りを知ることで、その動物が生き抜くために柔軟に進化しており、決して神が作ったものではないことを知ることによって、我々が正しい知識を享受することができたと思う。

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2013/07/17
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※このレビューにはネタバレを含みます

「遺体科学」という、聞きなれない科学について書かれた本。 ゾウ、パンダ、モグラ、コウモリ… ありとあらゆる動物の遺体を調べてきたことに関するエッセイ。たまに専門的な話が入るが、基本的に難しい話ではないので読みやすい。 何より、ゾウが息絶えた後に解剖を始め、目的の心臓まで達するのが数時間後になるとか、パンダはクマの仲間なのに笹をどうやってあの手で持っているのかとか、他のどこでも聞けないような話がてんこもりで面白かった。 遺体を切り開いたり腐臭と格闘したりと、真似はできないとは思ってしまったが。

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