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幸福の遺伝子 の商品レビュー

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18件のお客様レビュー

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2024/04/01

泣かされたなあ。予想以上によかった。 とある事件があってから、さっぱり物語が書けなくなったストーン。 ストーンの非常勤先のゼミに現れた、ものすごい不幸な過去を背負いながらも「感情高揚性気質(ハイパーサイミア)」という病的なまでのポジティブさで周りを輝かせるタッサ。 タッサのあま...

泣かされたなあ。予想以上によかった。 とある事件があってから、さっぱり物語が書けなくなったストーン。 ストーンの非常勤先のゼミに現れた、ものすごい不幸な過去を背負いながらも「感情高揚性気質(ハイパーサイミア)」という病的なまでのポジティブさで周りを輝かせるタッサ。 タッサのあまりのポジティブさに心配になり、相談を持ちかけたことで二人と深い関わりをもつようになっていく、カウンセラーのキャンダス。 彼女のハイパーサイミアは遺伝的なものであり、彼女の遺伝構造から世界の人々を幸せにできると考える科学者カートン。 科学番組をリードするジャーナリストで、カートンの研究を深く追うことになるシフ。 とりわけタッサとタッサの「幸せの根源」を中心に、この5人を巻き込んだ世界的な大騒動がおこっていく。 幸せというものの定義を、哲学的、心理学的、そして遺伝学的な側面からその形を削り出していく。 パワーズの文章は、密度が濃い。 とてもわかりやすいプロットなのに、ひとつの文を読むのにすごく時間がかかる。 ほかの人の50文字に比べて、パワーズの50文字は重金属でできているかと思うくらいに重い。 短いセンテンスのなかに、いかにもパワーズといった感じのアナロジーや比喩、そしてレトリックが詰まっており、2次元の文章は3次元にも4次元にも広がりをみせる。 その広がりを拾いながら読まなくてはいけないから、400ページ強という比較的少なめのボリュームにもかかわらずものすごく時間がかかる。 でも今回のパワーズは、辛くない。 異次元のセンテンスの大部分がわたしたち素人にも解釈可能であり、意味の広がりを心地よいと思わせてくれる。 全然進まなくても、苦痛ではない。 メタ的な視点で物語が語られているので最初少し戸惑うかもしれないけど、それもこの視点に気がついてしまえばなんてことはない。 パワーズのレトリックの上で奔放に踊る、タッサの姿を心ゆくまで楽しむことができる。 本当に素敵な物語。本当に本当に素敵な物語。

Posted byブクログ

2023/08/20
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

いつも幸せが溢れている女性の秘密は幸福の遺伝子だった? 作家を志していたこともあるおとなしい男、その男の元彼女に似ている大人の女性カウンセラー、テレビの科学番組を担当する自由な女性、たくさんの会社を持ち遺伝子を研究している学者。 幸福が横溢する女子学生の周りで繰り広げられるストーリー、作者が介入しながら進んでいく。 幸せと何なのか。 虚構、相関と因果関係。 語りは難しくないが、理解するのは難しい感じ。 アメリカ人はカウンセラーが大好きだけれど、すぐに不安になるし自信がなくなるのだろうか。幸せを探して、幸せを考えて、メディアを巻き込んだ大騒動になるほど、幸せに飢えているのだろうか。 私は単純なので、幸せとは「愛と感謝」。それだけだと思う。価値観が違いすぎてついていけない所があったけれど、お話はすごく面白かったし、好きな終わり方だった。

Posted byブクログ

2021/09/25

環境か遺伝か、古くて新しいテーマ。ゲノム研究が進んではいるが、当たり前だが、相互作用、インターアクションの結果であり、単純に言えないところがある。幸福度の指標自体が基準難しい。この物語は、状況にかかわらず、楽しく過ごせる人はどんな人なのかという問い。気分の浮き沈みは誰にでもあるし...

環境か遺伝か、古くて新しいテーマ。ゲノム研究が進んではいるが、当たり前だが、相互作用、インターアクションの結果であり、単純に言えないところがある。幸福度の指標自体が基準難しい。この物語は、状況にかかわらず、楽しく過ごせる人はどんな人なのかという問い。気分の浮き沈みは誰にでもあるし、その幅の問題?。オーバーストーリーに続くパワーズ二作目でした。

Posted byブクログ

2021/02/18

科学と哲学のあいだ。『オーバーストーリー』でファンになったので読んでみた。オーバー〜ほど深淵ではないものの、遺伝子と幸福の関係性を知りたくてどんどんページを進めてしまう。最初と最後のシーンが好み。神の視点の「私」を探りながら読むのも楽しい。

Posted byブクログ

2019/07/08

パワーズは淡々と状況を描写しているように見せかけながら、読者の脳に秘密の詩を流し込む。 〈彼は目を覚ました途端、猛烈な空腹を感じる。朝食がこれほど輝かしい出来事だと最後に感じたのはいつのことだったか、彼は思い出せない。壁のひびから染み入る冬の空気が彼を元気づけ、テーブルが素敵に...

パワーズは淡々と状況を描写しているように見せかけながら、読者の脳に秘密の詩を流し込む。 〈彼は目を覚ました途端、猛烈な空腹を感じる。朝食がこれほど輝かしい出来事だと最後に感じたのはいつのことだったか、彼は思い出せない。壁のひびから染み入る冬の空気が彼を元気づけ、テーブルが素敵に見える。沸いたティーポットがボーイソプラノのように歌う。トースターで焼けるレーズンマフィンから白ワインのような芳香が漂う。彼は、まだ情報の波に洗われていない神話的な川に係留された屋形船に乗っている。そんな確かな感覚。ー(中略)ー彼は腰を下ろして食事をする。まるで祝日のようだ。自然治癒の日。目を閉じ、冬のイチゴを舌先に載せる。果実は海綿状で崇高だ。彼の当惑と同様に濃密なアラビカが喉の奥を刺激する。〉 何気ない朝食のシーンがこんなにも美しい。 全体を見渡すと物語なのに、焦点を絞っていくと詩になる。ベン・ラーナー『10:04』の印象に近いかも。 〈無意味な細部と真空から自らを作り上げていくタイプの物語〉と本文中でも書かれていたけど、この小説の歩みのテンポをよく表した文章だと思う。プロットをこなしていくことに躊躇があるような書きっぷり。コントロールされた流れの悪さ。書き手にあたる人物がストーンなのだとしたら、文章全体が彼の性格を投影しているようで面白い。 読み終わって本を閉じた時、改めて装丁の色味の美しさに目がいった。本を鞄から取り出すたびに、この装丁からほのかな幸福感を与えてもらっていたことに気づく。

Posted byブクログ

2018/08/19

誰もが望む幸福。 幸福な大学生を巡って、教師、カウンセラー、科学者、テレビ関係者、宗教家たちが騒動を繰り広げる。 幸福の遺伝子を同定し、最新の科学的技術を使って、幸福を得ようとする人間の欲望は、当然の権利なのか。 そもそも幸福とは、どういうものなのか。 考えさせられる。

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2015/08/15

幸福であることは遺伝子で決まるのだろうか? 幸福になれる遺伝子は存在するのだろうか? この問いを掲げながら、物語を書くこと、映像をとること、SNS世界の狭さが描かれていく。 人生を歩むことが、自分の物語を持つことならば、私たちひとりひとりはどれぐらい創造して行けるのだろう。そして...

幸福であることは遺伝子で決まるのだろうか? 幸福になれる遺伝子は存在するのだろうか? この問いを掲げながら、物語を書くこと、映像をとること、SNS世界の狭さが描かれていく。 人生を歩むことが、自分の物語を持つことならば、私たちひとりひとりはどれぐらい創造して行けるのだろう。そして、それをどこに書くのだろう?SNSでフォロワーの居ないパブリックにポスト?宙に指で?

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2014/11/24

初めてこの作家さんの作品を読んだ。 が、難しい。話は面白そうなのに、ページが進むごとにあたまがややこしくなっていく。人の多さと、物語の構造のためだとおもう。 返却期限に追われて読破したけれど、最後らへんはよく分からなかった。 時間があるときに、腰を据えてもう一度読みたい。

Posted byブクログ

2014/06/14

正直に言って、翻訳はあまりよくありません。文章の中で「彼」とか「彼女」とか書いてある時に誰を指しているのかがわかりにくいというとんでもなく基本的な部分の翻訳で悩んでは数ページ前から読み返さざるを得ません。すみません、木原善彦さん、ここ、今後よろしくお願いします。 とはいえ。リチャ...

正直に言って、翻訳はあまりよくありません。文章の中で「彼」とか「彼女」とか書いてある時に誰を指しているのかがわかりにくいというとんでもなく基本的な部分の翻訳で悩んでは数ページ前から読み返さざるを得ません。すみません、木原善彦さん、ここ、今後よろしくお願いします。 とはいえ。リチャード・パワーズを読み続けている人にはわかってもらえると思いますが、どこに話を持っていこうとしているのか、という疑問を持ったまま本の3分の2くらいまで進みます。そして、そこなの? そっちなの? と確信を持った辺りから物語の全貌を感じ、結果に向かって進みます。毎度、そうなんです。 あ、そもそも、出版社の本の紹介文が全然本の中身をわかってない感じ…。

Posted byブクログ

2014/04/12

いま読み終わったところ。 タッサと「私」と暗くなってゆくアトラス山脈をみている。わたしを置いて、物語がむこうへ行ってしまうそれまでの間。 全能で不可侵で短所は人間的魅力のひとつでしかなかった登場人物たちが窮地に追い込まれ、どうなるんだろうと胸が痛かったけど…最後のページで彼らはど...

いま読み終わったところ。 タッサと「私」と暗くなってゆくアトラス山脈をみている。わたしを置いて、物語がむこうへ行ってしまうそれまでの間。 全能で不可侵で短所は人間的魅力のひとつでしかなかった登場人物たちが窮地に追い込まれ、どうなるんだろうと胸が痛かったけど…最後のページで彼らはどんどん消えて行ってしまった。 この三人でみる夕日は、原始時代の人間がみていた夕日と同じもの。きっとタッサと話しているとたのしくなれるし、離れれば嫉妬に苦しむんだろうと思うけど、今はどうでもいいな。幸福を人と比べて悩ましくなるのはもういいな。苦しいのももういいな。ただ夕日を見ているだけ。理由はいらない。

Posted byブクログ