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北京のモリソン の商品レビュー

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2013/09/29

 日清戦争直後から義和団、日露戦争、辛亥革命、第一次世界大戦という一連の大事件を舞台としたノンフィクションとなると、大なり小なり日本の軍人や外交官が出てくると予想される人も多いかもしれないが、本書には日本人はほとんど出てこない。それは本書の主人公モリソンが「タイムズ」の北京駐在記...

 日清戦争直後から義和団、日露戦争、辛亥革命、第一次世界大戦という一連の大事件を舞台としたノンフィクションとなると、大なり小なり日本の軍人や外交官が出てくると予想される人も多いかもしれないが、本書には日本人はほとんど出てこない。それは本書の主人公モリソンが「タイムズ」の北京駐在記者であり、彼の目が断末魔を迎えた清朝宮廷、辛亥革命後の南北関係の動向に向けられているからである。  唯一の例外は戊戌の政変の前日に光緒帝に謁見した伊藤博文へのモリソンの長時間インタビューであり、それは近代的政治家としての伊藤の見識をよく伝えるものといえよう。その他の日本人は公使であれ、武官であれ、北京一の大酒のみだったり、態度の裏表が極端すぎるので、話を聞くまでもなしということだったらしい。  我が国の最近の歴史小説等ではこの時期の日本人の大陸での活動が大仰にもてはやされることが多いだけに、日本人がほとんど登場しない本書のアジア近代史はかえって新鮮に思えて、まことに興味深い。  たとえば、今日では想像もつかないほどの孫文に対する同時代人の酷評や、スパイが暗躍し山県有朋の約束手形が出回ったという旅順陥落の密約説など、なにかと話題の種になりそうなエピソードも豊富である。  それにしても19世紀末から20世紀初頭の清国、中華民国の役人や軍人たちの汚職や無法な懲罰などの腐敗ぶりは、今日でも巷間ひそかに伝えられる中国官吏の横暴ぶりを想い起こさせるものがある。社会の在り方というものは、結局は元にもどってしまうのかもしれない。

Posted byブクログ