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の商品レビュー

3.7

51件のお客様レビュー

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2020/09/29
  • ネタバレ

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 読み始めたときは,本物の大学生(直広)からの手紙やメールに対して姜さんが書いた返事を編集したノンフィクションかと思った。しかし本書は,直広青年と姜さんとの架空のメールのやりとりを借りて,姜さん自身の「生と死」への思いを語った本だと分かった。  しかも最後に明らかになるように(途中から伏線もあるが),このメールのやりとりは姜さんの息子との会話ともなっている。若くして自ら命を絶ってしまった息子に対し,自分にできることはなかったのか,そういう自問自答をも含んでいるのだと思う。というか,そういう自問自答のためにこそ,この小説を書かざるを得なかったとも言えるだろう。姜さんは,この小説を書くことを通して息子と話しあっている。そして息子を亡くしたいま,自分が生きる意味を考えているのだろう。  震災による多くの人間の死を取り上げた部分は,2020年のコロナウイルス感染症による死者の数の発表を思い出して,ゾクッとする。  わたしたちはテレビの画面で何度もいやというほど荒々しく牙をむく津波の映像を見せられながら,じつは一人ひとりの死の重さとは向きあっていませんでした。奇妙なことに,死者や行方不明者の数が増えるほどに,わたしたちの感性は逆に麻痺して,死のリアルから遠ざかっていったように思います。(p.164)  ○か×か,右か左か,生か死か,善か悪か,自然か否か,ではなく,その両方を兼ね備えて発展していくものが人間の〈生=死〉ではないのか。このような姜尚中さんの弁証法的な考え方が,全編を通して表れてくる。だからこそ,わたしたちは無い頭を絞って考え続けていくのだし,生きられるだけ生き続けていくのだろう。  愛が強ければ強いほど,また愛がピュアであって欲しいと思えば思うほど,かすかな濁りですらも許せなくなるでしょうが,しかし濁りがあればあるほど,愛が募り,ピュアなものへの憧れが強くなっていくように思えます。とすれば,愛と不信,純粋と汚辱とは,手に手をとって人の心に熱を与えつづけているともいえます。だからこそ,悩みも昂じ,生への欲動も強くなっていくのかもしれません。(p.274)

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2018/07/19

最初は姜さんノンフィクションだと思って読み始めたから、姜さんのナルシストな感じが引っかかったけど、 「先生」と「僕」のフィクション小説だと気づくと 世界に入り込めた。夏目漱石「こころ」に似てるけど、もっともっと噛み砕いて離乳食みたいにしてくれた、甘く優しい哲学

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2017/05/17
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

大震災を挟み、大学の「先生」と大学生の青年とのメールのやりとりを通して、「生きる」ことの意味を深く見つめた作品。  青年に早世した息子の面影を見ていた「先生」の眼差しが切ない。青年との問答はきまじめでやや説教臭いが、これは現代の『こころ』だ。

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2017/03/25
  • ネタバレ

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姜尚中を初めて知ったのは、日曜美術館のコメンテーターとして。 その姜尚中が小説を書いていると知ったのは、何の目的もなくふらっと訪れた書店で。 夏目漱石の「こころ」をフューチャーした筋書きになっている。 大学教授と学生の「メール」でのやり取りを通してストーリーが描かれている。 漱石の「こころ」が秀逸なのは、やはり手紙を通して「先生」の秘密を知る。というか、覗き見る。というカラクリがよく効果を発揮しているから。読み手は主人公とともに手紙を読むことで先生の心にフォーカスする。そして、読み終わるとばっさりストーリーが終わってしまい、解釈は主人公(あなた)に任せます、といった構成だ。 そのカラクリを取り入れたとは言っても、この書き手は少し正直すぎるというか。ストレートな表現が多すぎるなあと感じた。素直なのだろう。それは良いことだけれども。 「死」に直面し、それと対峙すること。がこの物語のテーマになっている。 学生・直宏君は、震災のボランティアを通して死を身近なものとし、それによって親友の死、という体験を消化し、そして演劇を通して「新しい自分」を演じるなかで、未来を見つけていく。 と、話をまとめて書いてみると、まとまりすぎている。と思う。 しかし、読み手に「読ませる」文章、まじめで真摯な気持ちは伝わってきた。 きっと私のようなひねくれ者には物足りないのだろうが、オーソドックスとして人に勧めることのできる作品である。

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2016/10/20

良かった。架空の話にしては、水死した人の描写がリアル過ぎるぐらいで、死と生が隣り合わせというより一体だという事が実感できた気がする。

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2016/04/29

大変によかったです。構造も美しい。 息子さんの死、震災、漱石の『こころ』、西山君のカタルシス、著者本人のカタルシス、ゲーテ『親和力』、「自然」と「人間」の対比、生と死、いや死と生……。萌子さんみたいな人って誰もが見ているんでしょうか。 2016.4.

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2016/01/26

西山くんは、姜さん自身と亡くなった息子さんを投影した人なんだな。大学生である西山くんのピュアさと真面目さに少し驚きながら読み進める。恋の悩み、親友の死、震災、死とはなんだ?自分のしていることって何の意味がある? そんな悩みに姜先生は答え続ける。 私だったら何て回答したかな。 親友...

西山くんは、姜さん自身と亡くなった息子さんを投影した人なんだな。大学生である西山くんのピュアさと真面目さに少し驚きながら読み進める。恋の悩み、親友の死、震災、死とはなんだ?自分のしていることって何の意味がある? そんな悩みに姜先生は答え続ける。 私だったら何て回答したかな。 親友の死に対して西山くんの周りの人間は、それはそれ、今は今、と言う。近しい人の死を乗り越えることの、部分的な答えがそこにあるとおもう。前に進むことを後押しするのは、何気ない他人の言葉だったりする。 姜さんは、こうして書かずには自分も前に進めかった。子供が先に死ぬことほどこの世で辛いことはないだろう。子供の死ぬ程の苦しみを何故親は分からなかったのかと、責めることは簡単だ。しかし自分を一番責めているのは自分であり、たとえ何かしらの答えを手にしたとしても、出口のない場所を自分の心は彷徨い続けていることに、ふと気付く時、とても切ないだろう。

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2016/01/06

ノンフィクションのようなフィクション。 文中に「カタルシスになる」とありが、著者自身のカタルシスになった本かもしれないです。 答えのないものに真摯に向き合って考えている姿勢は好きです。

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2016/01/03

青春に憧れを持つ(?)初老の男性が大学生の青年にアドヴァイスを送る話。 作品の根底には人間の死生感が見てとれるが、個人的にはありきたりな印象を受けてしまう。結局、言っていることは死は無駄ではないと言うことに尽きると思う。 ゲーテやトマスマンなどの古典を読もうかと言う気にはなる。

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2015/10/10

生きるとは何か、死とは何か。 筆者は息子さんを亡くしたことを、学生が友達を亡くしたことで気持ちの整理がつかず先生に相談するということで自分も頭を整理しているような気がする。 ゲーテの「親和力」は読んだことがないので、演技のくだりは感想は書けないが、 震災があったことで学生が遺体収...

生きるとは何か、死とは何か。 筆者は息子さんを亡くしたことを、学生が友達を亡くしたことで気持ちの整理がつかず先生に相談するということで自分も頭を整理しているような気がする。 ゲーテの「親和力」は読んだことがないので、演技のくだりは感想は書けないが、 震災があったことで学生が遺体収集ボランティアをすることでいろいろな「死」の意味を体験して考えかたも変わってきている

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