昨日までの世界(上) の商品レビュー
『銃・病原菌・鉄』、『文明崩壊』のジャレット・ダイヤモンドの新作。 著者が文化人類学者として実地でのフィールドワークをしていたことを初めて知った。特に鳥類学者でもあったとは。本書は、クロード・レヴィ・ストロースにとっての『悲しき南回帰線』と同じような位置付けなのだろうか。前二著...
『銃・病原菌・鉄』、『文明崩壊』のジャレット・ダイヤモンドの新作。 著者が文化人類学者として実地でのフィールドワークをしていたことを初めて知った。特に鳥類学者でもあったとは。本書は、クロード・レヴィ・ストロースにとっての『悲しき南回帰線』と同じような位置付けなのだろうか。前二著とは趣がやや違い、特徴であった壮大な論理的な推定はやや影をひそめ、その代わりに著者の実体験のエピソードが出てくる。もちろん「昨日までの世界」についての文献を広く確認し、単なるエッセイではない。『銃・病原菌・鉄』の重要な結論 ― 文明の発展は地理的な条件がたまたまそのように恵まれていたから ― の元になる経験はここにあったのかと知ることができた。 タイトルにもなっている「昨日までの世界」とは、いわゆる伝統的社会 ― 人口が疎密で、数十人から数千人の小集団で構成される ー のことである。紀元前9000年ごろになって始まった食料生産以前には国家は成立しえなかった。初めて国家らしきものが成立したのは紀元前3400年前後で、それまで少なくとも人類は「昨日までの世界」を生きていた。どちらかといえばそちらの方が本来的なものである。WEIRD = Western, Educated, Industrial, Rich, Democraticな社会は人類の歴史の中では奇妙(weird)なものなのである。「昨日までの世界」のことを知ることで、現代の世界でも役に立つことが出てくるのではないのか、というのが著者も目的のひとつでもある。 社会は、その規模により、「小規模血縁集団(Band)」、「部族社会(Tribe)」、「首長制社会(Chiefdom)」、「国家(State)」に分けられる。この分類は学術的にも一般的らしい。この社会構造の中で、他人は、「友人」、「敵」、「見知らぬ他人」に分類されるが、この中で見知らぬ他人に対する態度が伝統的社会と現代社会の大きな違いだという。また、もちろん食料調達と分業にも違いが生じる。"Size does matter"なのだ。これにより、紛争解決の方法、戦争、子供、高齢者、危険(リスク)、宗教、言語、健康、などが異なってくる。現代の司法制度と刑罰というものが特殊なものであることもわかる。本書では、それらの違い、「優劣」ではない、を丁寧に解説している。 --- 昨日までの世界が一世代も経たないうちに現代化され、ほぼ世界中からなくなっていこうとしている。このことは、近代化の時期が早かった地域は、その土地形状と生息生物にたまたま恵まれていただけである、という著者の『銃・病原菌・鉄』での主張につながっているように思う。また、現代化が非可逆的な過程であることも結果的に示されてもいる。 上巻は、紛争解決、戦争、子供、高齢者、まで。どれも現代社会でも重要な問題である。もちろん、昔はよかったなんてことにはならないので、安心を。
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鉄病原体銃はクソだけど、これはすごく面白かった。 昨日までの世界 •平均寿命短い –そもそも平均寿命が短く、現代の定義での高齢者に達する人はほとんどいなかったし、当時の定義での高齢者になる人も少なかった。 •高齢者殺し –資源が限られ、頻繁な移動を伴う生活において、食べるだけ...
鉄病原体銃はクソだけど、これはすごく面白かった。 昨日までの世界 •平均寿命短い –そもそも平均寿命が短く、現代の定義での高齢者に達する人はほとんどいなかったし、当時の定義での高齢者になる人も少なかった。 •高齢者殺し –資源が限られ、頻繁な移動を伴う生活において、食べるだけの人間を養う余裕があるとは限らない。放置して死に追いやる、自殺の手伝いをする、積極的に殺す、など部族により差があるが、高齢者殺しは広く行われていた。 •高齢者尊重 –一方で高齢者を尊ぶ部族もある。食料に禁忌をもうけ、高齢者しか食べられないということにしたり、中には食べ物を噛み砕いてあげてから食べさせるような部族もある。
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伝統的社会と近代国家社会という二つの軸に照らして育児、家族、教育、戦争などについて論じてる本。 戦争ってそもそもなんなのかとか、社会ごと子育ての差異とかすごく詳しく書いてあって非常に興味深い。 高齢者の扱いが近代→伝統へ回帰してく想定とかもかなり頷ける。 下巻も楽しみ。
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ダイアモンド先生はおもしろいなあ。 しかし「なのである」「食する」とかが多くてなんか違和感。 倉骨先生ってこんな訳文つくる人だっけか。 短期間で翻訳するために下請け変えたのかな。
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西洋型の現代社会と、国家成立前の「昨日までの」社会を比較して、その得失を考察する。 『銃・病原菌・鉄』のような目を瞠るほどの驚きはなかったが、それでも著者のニューギニアでの実体験も含めた豊富な事例で、一つ一つ確かめていくように論を進めていくのが面白い。 とくに多言語文化の利...
西洋型の現代社会と、国家成立前の「昨日までの」社会を比較して、その得失を考察する。 『銃・病原菌・鉄』のような目を瞠るほどの驚きはなかったが、それでも著者のニューギニアでの実体験も含めた豊富な事例で、一つ一つ確かめていくように論を進めていくのが面白い。 とくに多言語文化の利点と失われつつある言語の保存を訴えた第10章。この部分だけやけに熱がこもっているように感じたのだが。
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