「尖閣問題」とは何か の商品レビュー
25年程前、助教授として「比較占領史」を講じておられた頃、豊下氏の講義を聞かせて頂いた。ベルリンの壁が崩壊し、昭和とともに冷戦が終わりを告げようとしていた。まさに歴史の転換点であった。高坂教授など保守派の先生方の著作に親しんでいた当時大学三年生の評者には、氏の主張に共感できないと...
25年程前、助教授として「比較占領史」を講じておられた頃、豊下氏の講義を聞かせて頂いた。ベルリンの壁が崩壊し、昭和とともに冷戦が終わりを告げようとしていた。まさに歴史の転換点であった。高坂教授など保守派の先生方の著作に親しんでいた当時大学三年生の評者には、氏の主張に共感できないところも多かったが、立場の違いを越えて、説得力のあるその論理展開に毎回新鮮な知的刺激を与えられた。氏はその後教授昇進を待たずして保守派の政治学者が主流を占める母校を去った。四半世紀を経た今、本書を読んで、ようやく時代が氏に追い付いたという感慨を禁じ得ない。 尖閣問題を扱ってはいるが、本書を貫くのは戦後日本外交の基軸であり続けた対米追従路線に対する根底的批判である。それは、日中間に領土問題の火種を残し、米軍のプレゼンスを正当化するという、米国の「オフショアバランシング」戦略を直視することを回避してきた親米保守派の急所を鋭く射抜くものだ。最大の同盟国米国にとって日本はコマの一つに過ぎないという、日本外交の危うさは冷戦期とポスト冷戦期を通じた圧倒的な米国の「力」の前にそれほど表面化してこなかったが、米国の衰えが誰の目にも明らかとなりつつある今、急速にその矛盾を露呈し始めた。 もちろん本書においても著者の主張には到底同意し難い点はいくつもある。竹島の放棄は論外であるし、中国のミサイル攻撃から沖縄を守ることが難しいからと言って、沖縄が「生き残る」ために、余りに身勝手かつ近視眼的なその「自治体外交」を持ち上げるにとどまらず、軍事的な防衛努力を事実上放棄し、「国境をこえて多くの関係者が・・・議論を交わし、交流を深め」ることによる「信頼醸成」に期待するなど、著者自身でさえ「荒唐無稽」と自覚するような、かつての非武装中立論さながらの展望を平然と語るのは理解に苦しむ。従軍慰安婦や靖国などの歴史認識問題についても、政権への瑣末な揚げ足取りに終始し、ことの本質に踏み込もうとしないのはいただけない。 しかし本書の最大のテーマである対米関係について言えば、現状認識としては著者の主張にほぼ全面的に同意する。二島返還論を切札とした対露協調路線も然りであり、それは安倍政権の本音とも大きな隔たりはないはずだ。にもかかわらず「自己目的」ではない「手段」としての対米基軸外交はなおその有効性を失っていないのではなかろうか。豊下氏もそれを否定はしてないように見える。外交というのは二枚腰が肝要である。互いに相手の腹の底を見透かしながら、時には釘を刺しつつも、そこは「敢えて」見て見ぬ振りをして、適度な距離を保って利用し合う、それが健全な「友好」の姿というものだ。「戦後レジームからの脱却」とは本来そのことであろう。
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珍しく赤線いれながら読んだ。世界にはいろんな矛盾があるなー、って漠然と思ったけど、今となっては記憶もおぼろげ。とりあえずどの国も、自分の国が一番なんだ。当たり前か。日本はもう少し我を通してほしい。
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尖閣を中心に懸案の領土問題を、双方の言い分を的確にまとめ、歴史的経緯や地図も載せて読みやすい。いずれの領土問題にも米国が影を落とし、解決させないことで米軍のプレゼンスを高めています。大国政治の非情さはネオリアリズムの言う通りですね。領土問題は安全保障問題でもあります。オフショアコ...
尖閣を中心に懸案の領土問題を、双方の言い分を的確にまとめ、歴史的経緯や地図も載せて読みやすい。いずれの領土問題にも米国が影を落とし、解決させないことで米軍のプレゼンスを高めています。大国政治の非情さはネオリアリズムの言う通りですね。領土問題は安全保障問題でもあります。オフショアコントロール戦略をとる米国、G2を目指す中国の狭間で、生き抜かなければならない日本人なら必修の書籍でしょう。第6章を書くなら別の機会でしょう。
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領土問題の今後の戦略についての好著。目から鱗の事実、提案がいくつもあった。前著の集団自衛権よりも切れ味が増している。本の体裁、構成も大変に読みやすい。石原の発言意図に驚愕した。単なる馬鹿だと思ってたらいかんな。 ・米国が2014年のリムパック(環太平洋合同演習)に中国海軍を招待...
領土問題の今後の戦略についての好著。目から鱗の事実、提案がいくつもあった。前著の集団自衛権よりも切れ味が増している。本の体裁、構成も大変に読みやすい。石原の発言意図に驚愕した。単なる馬鹿だと思ってたらいかんな。 ・米国が2014年のリムパック(環太平洋合同演習)に中国海軍を招待する。かつては中国は仮想敵国だったのに。 ・従軍慰安婦の安部発言は拉致問題と絡めて米国から二重基準だと糾弾された。 ・決定的期日(critical date):その日までの事実は国際司法裁判所によって証拠として採用される。 ・アメリカの「オフショアー・バランシング」戦略。尖閣を巡る日本と中国。沖縄駐留の正当化。かつてのイランとイラクも。 ・横田基地の管制権から見ると首都圏の空域は植民地状態。そこに触れない石原の矛盾。 ・北方領土で日ソ間の緊張状態を作り出し、米軍のプレゼンスの正当化を図った。オフショアー・バランシング。 ・ドイツの場合、過去の克服は西欧諸国の信頼獲得に向けられ、ヨーロッパの地域統合の進展に結実した。日本の場合、アジアでの和解と信頼に格闘せず、米国の安全保障戦略の枠組みにのる形で戦後社会に復帰した。サンフランシスコ講和条約会議には中国と韓国の代表は招かれていない。 ・固有の領土は国際法上の概念ではなく、日本の政府と外務省が考え出したもの。その後、各国が乱発している。 ・ジャパンハンドラーの本質。ジャパン・「パ」ッシングであらわに。北朝鮮の危機を煽りつつ、北朝鮮へのテロ国家の指定の解除など。 ・中国にとっての脅威は中国そのもの ・今日直面している課題は、戦後世界を主導してきた米国の影響力が低下する一方で、中国が「超大国」にむけて「前進」を続けているという状況において、日本がどうするかという問題。 ・「非武装中立」と「重武装論」ではなく、最小限の軍備の必要性と有効性。高坂による陸海空軍の具体的提言。 ・PAC3配備の下手ぶり。北朝鮮から原発を守っていない。米国の納税者の負担減のため売り込まれた。 ・日中の安全保障のジレンマで難しいのが歴史問題であるが、解決の鍵を沖縄が握っている。沖縄は独自の外交力も持っている。 ・日米基軸は目的ではなく、手段のはず。 ・海上保安庁の巡視船の拒否力であっても、ネット社会では国際的に大きな影響を及ぼすことが出来る。専守防衛としての拒否力の重要性。 ・2010年、沖縄を巡る言説変更、武器輸出3原則の緩和。2012年、JAXAの宇宙開発の目的を「平和目的に限定する」を外す、原子力基本法に「我が国の安全保障に資する」が盛り込まれた。 ・国際海洋法条約をめぐって、アメリカと中国に加盟を促す。
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野田政権による国有化以後中国との関係を決定的にこじらせてしまった尖閣列島ですが、実際のところなんでここまで中国との間で意見の対立があるのか、きちんと知っておきたくて読んでみました。 読んでみて、納得がいきました。たしかに国際法上の所有権が日本にあることは確かなのでしょうが、台湾を...
野田政権による国有化以後中国との関係を決定的にこじらせてしまった尖閣列島ですが、実際のところなんでここまで中国との間で意見の対立があるのか、きちんと知っておきたくて読んでみました。 読んでみて、納得がいきました。たしかに国際法上の所有権が日本にあることは確かなのでしょうが、台湾を植民地化したのとほぼ同じタイミングで日本への編入手続きが行われているため、台湾にとってはその日本への帰属は「植民地化の象徴」とみられていることで、それは韓国にとっての竹島も同じだとのこと。これではたしかに、国際法上日本の所有であることは間違いないと言っても、感情的に納得してもらうのは非常に難しそうです。しかも、アメリカが沖縄返還前には尖閣列島も自ら管理しておきながら、沖縄返還時に尖閣列島帰属についてはアメリカは関知しないと言い、以後その立場を継続しているというのも、たしかに中国と台湾については「領土問題が存在する」と主張するには十分過ぎる状況だとよくわかりました。 北方領土や竹島問題の歴史的経緯にも触れられていて、問題の全体をとても明確に知ることができたのは収穫でした。 ただ、後半で筆者の提案する解決策については、さすがにちょっとアメリカを感情的に敵視しすぎている感じで、ややついて行けない部分がありました。が、それなりに納得度は高いです。少なくとも、今の国の外交政策よりは建設的な提案のように思えました。
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安倍首相や石原都知事は、どうしてわざわざ隣国の感情を逆撫でするようなことをするのだろうか。尖閣問題は一時、中国側から棚上げの意思があったのだから、そのときその意思を受け入れて、台湾も含めて周辺海域を共同で開発したほうがよほど賢い選択だったと思うのですが。領土問題に関心があるのは、...
安倍首相や石原都知事は、どうしてわざわざ隣国の感情を逆撫でするようなことをするのだろうか。尖閣問題は一時、中国側から棚上げの意思があったのだから、そのときその意思を受け入れて、台湾も含めて周辺海域を共同で開発したほうがよほど賢い選択だったと思うのですが。領土問題に関心があるのは、政治家と右寄りの人たちであって、市井の人々の日常生活にはなんら影響はしないのでは。漁業に関しても三国で協定を結べば良いのだし。海上保安庁の哨戒には多額の税金が使われているのだし。それにしてもマスコミは悪感情を煽っている。
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豊下氏によれば、尖閣諸島というのは、テレビで放映される三つの島だけではなく、さらに久場島、大正島、がある。なのに、石原氏がこの2島に触れないのはなぜかというところから問題を提起する。それは、この2島が沖縄返還後アメリカ軍の演習場になっており、演習が行われなくなった後も、日本は返...
豊下氏によれば、尖閣諸島というのは、テレビで放映される三つの島だけではなく、さらに久場島、大正島、がある。なのに、石原氏がこの2島に触れないのはなぜかというところから問題を提起する。それは、この2島が沖縄返還後アメリカ軍の演習場になっており、演習が行われなくなった後も、日本は返還を迫っていない。したがって、石原氏はアメリカで、都民の税金を使って尖閣は日本領という前に、尖閣を日本に返せとアメリカに要求すべきであるし、日中の間にあって中立を決め込むアメリカの無責任さを追求すべきだと主張するのである。豊下氏は石原問題を出発点に、日本にとって安全保障のあり方を問いかける。尖閣問題を考えるにあたって真っ先に読むべき本である。
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文庫本として出されたことは大いに意味のあることでしょう。 可能な限り多くの日本人が読むべき本だと思います。 もちろん、何もかもアメリカの政策だとしてしまうのは、気持ちもいいですし、溜飲が下がる思いですが、何もかもオフショア・バランシング戦略として理解する必要はないのかも。 日本の...
文庫本として出されたことは大いに意味のあることでしょう。 可能な限り多くの日本人が読むべき本だと思います。 もちろん、何もかもアメリカの政策だとしてしまうのは、気持ちもいいですし、溜飲が下がる思いですが、何もかもオフショア・バランシング戦略として理解する必要はないのかも。 日本の領土問題は解決しないほうが、ありがたいのだ・・・と考えるどこかの国の意図をしっかりつかんで、本当に一流国になる努力を日本はするべきなのでしょうね。
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大変、勉強になりました。尖閣問題は何かという課題は畢竟、戦後日本外交の在り方を根本から見直す必要性を自覚することだと説く。もっと、外交を知るべきだと考え直しました。
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尖閣諸島問題で日中関係が悪化の一途をたどる中、豊下先生の冷静な言説は貴重である。 かつて、旧ソ連とは歯舞・色丹二島返還でまとまりかけたところを、米国の横槍で国後・択捉を含む「北方領土」返還が国是となり、解決不能となった経緯がある。米国が日ソ両国の接近を望まなかったためである。尖閣...
尖閣諸島問題で日中関係が悪化の一途をたどる中、豊下先生の冷静な言説は貴重である。 かつて、旧ソ連とは歯舞・色丹二島返還でまとまりかけたところを、米国の横槍で国後・択捉を含む「北方領土」返還が国是となり、解決不能となった経緯がある。米国が日ソ両国の接近を望まなかったためである。尖閣諸島を巡っても、米国は一部を訓練区域として日本から提供を受けながら、その帰属については「あいまい戦略」をとってきた。日中間の楔として両国の接近を阻止するためにほかならない。 こう見てくると、領土問題は即ち対米問題であるということが分かる。従って、先ずは同盟国たる米国に尖閣諸島が日本領土であると明確に認めさせることが肝要だ。次に米国の思惑を排し、北方領土問題は二島返還で早急に解決を図る。そうなれば、少なくとも領土問題をめぐり中韓露の連携を阻止するという戦略的課題は達成できよう。ここで初めて、日米露が一体となって中国を国際的ルールの枠内に取り込み、その「単独行動主義」を抑止することが可能となるのだ。 なお、本書の内容は『現代思想』12月号所収の先生の論稿に要約されているので参照されたい。
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