上京する文學 の商品レビュー
確かに、「上京」を軸においてみると一人の書き手の欲求やコンプレックスが浮かび上がってくるように見えて面白かった。 しかし、東京から中途半端な距離を置いた「ベッドタウン」で育った自分のような人間は、「憧れの東京」も「帰るべきふるさと」も持つことがなく、どうにも居心地が悪い。どこかに...
確かに、「上京」を軸においてみると一人の書き手の欲求やコンプレックスが浮かび上がってくるように見えて面白かった。 しかし、東京から中途半端な距離を置いた「ベッドタウン」で育った自分のような人間は、「憧れの東京」も「帰るべきふるさと」も持つことがなく、どうにも居心地が悪い。どこかに郊外文学論もあるだろうから、いつか読んでみたい。
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ジャカルタにて2013年2月読了。田舎者の私にとっては傑作。 「そして誰もが上京していく——『上京する文學』序説」で始まる本書、芯から痺れた。 きっと誰もが上京した頃、若かった頃を思い出しながら、ページをめくってしまうんだと思う。 P3 明治維新で江戸が東京と名を改め、無...
ジャカルタにて2013年2月読了。田舎者の私にとっては傑作。 「そして誰もが上京していく——『上京する文學』序説」で始まる本書、芯から痺れた。 きっと誰もが上京した頃、若かった頃を思い出しながら、ページをめくってしまうんだと思う。 P3 明治維新で江戸が東京と名を改め、無数の上京者が熱い興奮をこの大都市へ運んできた。東京はこの地方出身者のエネルギーによって、膨張し成長してきたとも言えるのである。日本の近現代文学の少なからぬ部分も、そうした「上京者」によって形成されてきた。 また、生まれ育った町ではないからこそ、新鮮な思いで風景や人々を眺めることができた。そこには、「憧れ」の眼差しがあった。「上京者」としての発見もあったのだ。 2013年、春を間近にして。最近のテーマって「憧れ」だったりする。文学への憧れ、東京への憧れ。決してたどり着かない「憧れる」ことの切なさ。 リリー・フランキーの文章が引用されている。 「弱い人間は東京に集まります。/なので 僕も行きます/街灯に集る蚋のように/なんの志もなく行ってきます」 私は弱い人間だけども、志だけはあって上京してきたと思う。でも今、あの時の志とか忘れてるような気がして怖い。
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五木寛之の章での喫茶店「クラシック」を思い出す。 入口の受付らしきところで、メニューの札付きのひもが3本ほど つり下がっていたことを思い出す。
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──東京へはもう何度も行きましたね。君が住む花の都。 言わずと知れた1970年代フォークソングの名曲、マイペースの「東京」の歌詞だ。 この曲の詩と同様に、高校時代のぼくは東京に夢を抱いていた。 絶対に東京の大学に行くんだ、という信念を持って。 ぼくをそこまで駆り出した欲求はどこ...
──東京へはもう何度も行きましたね。君が住む花の都。 言わずと知れた1970年代フォークソングの名曲、マイペースの「東京」の歌詞だ。 この曲の詩と同様に、高校時代のぼくは東京に夢を抱いていた。 絶対に東京の大学に行くんだ、という信念を持って。 ぼくをそこまで駆り出した欲求はどこにあったのだろうか。 そこに行けばキラキラと輝く生活が手に入ると思わせる大都会への漠然とした憧れ。 あるいは、一人で生きていくことで、親からの煩わしい束縛から逃れられることができると思ったからか。 とにかくぼくは首尾よく大学に合格し、上京した。 寮に行くために初めて降り立った地下鉄表参道の駅から地上にあがると、そこは別世界だった。 表参道と青山通りの交差点にある厳粛な佇まいの石燈篭を見た瞬間、思わず武者震いがした。 待っていたのは、思い描いていたとおりの華やかな生活であり、自由な毎日だった。 この書は、夏目漱石から江戸川乱歩、川端康成、五木寛之、そして村上春樹まで、様々な思いを抱いて上京した作家の状況や作品との関わりが解説されている。 誰もが、「東京へ行けば……」と思い、物書きを志した。東京へ行かなければ書けないと思ったのだ。 いわば、ぼくもまったく同じような思いだった。 五木寛之の「青春の門」に感化され、キャンディーズに憧れていた高校時代のぼくにとって、東京は夢を叶えられる唯一の街だった。 地方にいたのでは、情報にも、最先端の環境や情景にも触れることができない。 ──東京へ行けば、何かが変わるはずだ。 それは希望であり、欲望であり、確信だった。 明治時代から現在まで、上京を志した文豪、作家と称される人々もぼくと同様の気持ちだったのだろう。 彼らは東京という街のどんな魅力に魅き込まれ、上京したのか。 一人ひとり、それぞれの思いは、時代背景などで微妙に異なれども、その後の作品にどんな影響を与えたのかを知る意味では非常に興味深い一冊だ。 夢の街、憧れの大都会東京は上京してきた地方出身の作家たちをどのように迎えたか。 彼らの作品に寄り添いながら綴られた文学史として読める。
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