あと少し、もう少し の商品レビュー
6区間の駅伝が舞台。 区間ごとに主人公が変わるって、まま見られる手法だよな、と思いながら読んでいると、5区間の俊介まで来て、なぜか急に登場人物がみなビビッドになる。みな内面に色々なものを抱えて、この駅伝に臨んでいる。相手にタスキを渡した瞬間に何かが弾けている。 とにかく瀬尾さん...
6区間の駅伝が舞台。 区間ごとに主人公が変わるって、まま見られる手法だよな、と思いながら読んでいると、5区間の俊介まで来て、なぜか急に登場人物がみなビビッドになる。みな内面に色々なものを抱えて、この駅伝に臨んでいる。相手にタスキを渡した瞬間に何かが弾けている。 とにかく瀬尾さんの中学生の描写がうまくて、うなる。それも今回は全員男子だ。同性愛も。
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「モノがあるから、心の豊さが失われていく」 ということを、僕は信じない。 それは、日々進化していくモノについていけない大人が、 「あのころは、モノがなくても、楽しかった」と言いたいだけの、 ノスタルジーだと思うからだ。 それと同じように、たとえば、中学生の心の問題などを、 昔...
「モノがあるから、心の豊さが失われていく」 ということを、僕は信じない。 それは、日々進化していくモノについていけない大人が、 「あのころは、モノがなくても、楽しかった」と言いたいだけの、 ノスタルジーだと思うからだ。 それと同じように、たとえば、中学生の心の問題などを、 昔と対比して、深刻になったように思わせる姿勢は、違うと思う。 豊かさを失うのは、大人の方だ。 それを大人が子どもに押しつけてるだけだ。 瀬尾さんの新刊「あと少し、もう少し」は、 中学駅伝が、舞台。 特別ではない、6人の男子中学生が、 襷をつないでいく、それだけのお話。 それだけの話なのに、 それぞれの想いを知るとき、 もはや「それだけ」ではなくなっていく。 相変わらず、瀬尾さんが描く中学生は、カッコイイ。 その「かっこよさ」は、決して、 さわやかとか、優しいとか、モテるとか、 そういうことではない。 この話に登場する中学生も、 いじめられっこ、ヤンキー、 お人よし、知的に見せたがり、 先輩に憧れる後輩、和ませキャラ、 と、単純にカッコイイわけではない。 しかも、それぞれの内面には、 様々な葛藤を抱えている。 けれど、それぞれがそれぞれと関わりあうことで、 それぞれは、自分や「世界」をわかっていく。 思春期は、みんなそうだったのだ。 瀬尾さんは、中学教師だったこともあり、 そのことを、たぶん、わかっている。 そして、本当に中学生を「カッコイイ」と思っていると思うのだ。 それが、失われていない「心の豊かさ」だ。 自分の心の中に違和感を抱えたり、 どういう立ち位置で生きていくのかを、 選べない中で毎日を過ごすことは、理不尽に思うはず。 その対処法すら覚えかけの中学生の毎日は、 思っている以上に、しんどい。 そんな中学生が、「豊かさがない」わけないのだ。 泣いたり、笑ったり、絶望したり、でも前を向いたり。 そんな中で生きることは、カッコイイ。 陸上部顧問に「なってしまった」上原先生が、 カッコ悪くも、少しずつ、誰かに影響を与えていると思うと、 やっぱり、それもカッコイイ。 人が人のことを「わかる」というのは、 錯覚なのかもしれない。 でも、その錯覚で心は動いていくし、 関わり合って絆は生まれる。 そんな当たり前のことを、 ぼくらは学んできたはずだ。 それを忘れるような「豊かさを失った大人」では、いたくない。 中学生のときの自分に、 それを耳打ちされたような、 そんな気持ちになったのだった。 ちなみに、1区から6区までをそれぞれの主人公を立てて書く感じが、 「風が強く吹いている」のようだなぁ、と思った。 これも映画化されないかな、と密かに期待している。
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