「アラブの春」の正体 の商品レビュー
著者の重信メイ氏は、日本赤軍の重信房子とパレスチナ人の父の間に生まれたレバノン出身のジャーナリストです。日本赤軍の強烈なイメージがありますが、本書は左に大きく傾いたようなスタンスはまったくとっておらず、中東の民主化を「アラブの春」と手放しで賞賛するムードの陰に潜む政治的プロパガ...
著者の重信メイ氏は、日本赤軍の重信房子とパレスチナ人の父の間に生まれたレバノン出身のジャーナリストです。日本赤軍の強烈なイメージがありますが、本書は左に大きく傾いたようなスタンスはまったくとっておらず、中東の民主化を「アラブの春」と手放しで賞賛するムードの陰に潜む政治的プロパガンダやメディアの姿などが批判的に描かれており、とても興味深い内容です。エジプト・リビア・チュニジア・イラン・イラクなどアラブ各国の動向も網羅されているので、知識をつける意味でも非常に参考になりました。 われわれは一般的にシリアのカダフィ大佐について、横暴な独裁者との報道に接し、その通り私自身も受け取っていましたが、カダフィは過去にパレスチナ解放運動に援助をしたり、インドネシア・フィリピンの民衆運動をサポートしたり、反核・反原発を推進していた人物でもあったというのは驚きでした。もっとも過去10年のカダフィは横暴な独裁者に落ちてしまいましたが、過去には27歳で1969年にクーデターに成功した革命の戦士ともてはやされた時代もあり、今でもカダフィに対する好意的な見方をもっている地域もあります。カダフィ政権下のリビアは、豊富な天然資源を背景に大学教育まで無料で行われ、医療・電気・水道料金もすべて無料というまれにみる福祉国家・社会主義国家でした。独裁者によって抑圧的な国家で苦しむ民衆が蜂起した民主化デモという側面よりも西部の有力な部族出身のカダフィに対する東部の部族が反旗をひるがえすという内戦といった側面が強かったと指摘しています。 カダフィは資本主義的経済成長に反対していたため、サウジアラビアやUAEなどの他の産油国に比べて物質的豊かさが遅れていたこと、国際社会から経済制裁を受けており、国際貿易から取り残されていたことや、カダフィを中心とした親族や官僚の腐敗といった問題などがありましたが、民主的な要素のまったくない独裁国家という一方的なレッテルはリビア政権打倒のためのプロパガンダとして、残忍で抑圧的な独裁者像が意図的に報道されていたのではないか、と疑問の声を投げかけています。 「アラブの春」の一翼をになったと賞賛されるアルジャジーラ放送局のもつタブーにも切り込んでおり、カタールが大きく設立と運営を支持しているため、当初は’’ opinion and the other opinion’’と政府・反政府軍の両方の主張を報道したり、両陣営を集めてディスカッションを報道するなどの中立的・両論併記的な姿勢が評価されましたが、支援団体であるカタール国内のデモの報道には消極的であったり、今も続くシリアの問題に関しては、アサド政権反対として、明らかな反政府サイドでの報道が目立つようになってきている、と指摘しています。アルジャジーラといった信用が高く、理性的なメディアと思っている報道機関であっても、クリティカルな姿勢で情報に接しなければいけない、ということを学びました。 この本を読んで面白く感じた部分は、官僚の汚職・腐敗、貧困、失業といったものが民衆運動のトリガーになること、です。もはや失うものがないというところまでいかなければ、民衆が動かないということです。差別や格差があっても、汚職の恩恵を間接的に受けていたり、経済的に安定した生活を過ごせている限りは自分の地位を危険にさらしてまで声をあげたり、体制の転換を求めたりすることはない。もはや失うものがないという追い込まれた状態になって初めて民衆運動が大きな力となるということでした。
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サッカー仲間のアシシ氏が推薦していたので読んでみた。 昨年秋にはじめて中東に行き、中東(アラブ)という文化に衝撃を受けた後に、この本を読んで更に中東(アラブ)の文化が知りたくなったし、また中東に行きたくなった。
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チュニジア、エジプト、リビアで起こった民主化革命について、それぞれの国がどのように独裁政権が崩壊していったか、黒幕がどこで、どうやって情報操作が行われていたのか、現在進行形のシリア情勢が、なぜ「革命」ではなく「内戦」と評されるのか、などを正確に知りたい人は必読。 この本には、マス...
チュニジア、エジプト、リビアで起こった民主化革命について、それぞれの国がどのように独裁政権が崩壊していったか、黒幕がどこで、どうやって情報操作が行われていたのか、現在進行形のシリア情勢が、なぜ「革命」ではなく「内戦」と評されるのか、などを正確に知りたい人は必読。 この本には、マスメディアでは絶対に語られない真実が記されています。 サウジやカタールという「金満諸国」がこの「アラブの春」にどのように関わっているのか、等についても説明されており、アラブ諸国の今を網羅的に知ることができます。 著者が中東生まれで、ここ数カ月取材で中東に滞在してたジャーナリストなので、かなり説得力ある本です。中東に行ったことある人、プロパガンダ系の情報操作の裏舞台に興味ある人にお勧めです。
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メディアとはなんなのだろうと考えさせられる一冊。結局信じられるのは自分で見聞きして納得したものなんだなと思える。
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著者については他のレビューでも書かれているだろうからとくには書かない。「アラブの春」の「その後」についてのルポルタージュ。地域の状況,チリ,いろいろな名前について基礎知識がないので,一度読んだだけではわからないところもあるのだけど,一読してもっとも印象に残っているのは,各地の状況...
著者については他のレビューでも書かれているだろうからとくには書かない。「アラブの春」の「その後」についてのルポルタージュ。地域の状況,チリ,いろいろな名前について基礎知識がないので,一度読んだだけではわからないところもあるのだけど,一読してもっとも印象に残っているのは,各地の状況の伝えられ方,つまり,マスメディアのバイアス,ということだ。何の気なしにテレビニュースや新聞で「そうかそうか」と納得してしまうのではなく,メディア・リテラシーを鍛えなくては,とつくづく思った。
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アラブの春でずいぶんSNSが活躍した、というようなことが伝わってきて、一方で実はそうでもないぜ、実際のところはアルジャジーラが影響大きいんだぜ、というところまでは見聞きしていた。が、アルジャジーラにはカタールの資金と思惑が入っていて、このアラブの春に関して言えば特定の視点からの報...
アラブの春でずいぶんSNSが活躍した、というようなことが伝わってきて、一方で実はそうでもないぜ、実際のところはアルジャジーラが影響大きいんだぜ、というところまでは見聞きしていた。が、アルジャジーラにはカタールの資金と思惑が入っていて、このアラブの春に関して言えば特定の視点からの報道や、意図的かと思えるような誤速報が見られたのだと。SNS上で報道機関の発表に一喜一憂してるんじゃ、釈迦の手の中だなあと改めて反省。 そして大事なことは、これらの「春」の原因が、宗教対立でも民族対立でもなく、多くは人の尊厳、権利の問題だったことだ。
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アラブの春。言葉だけ聞くと、そしてたまにメディアで読み聞きする浅い知識から考えると、「おお、良く分からんアラブにも民主化の波が来てるのか、ふんふん」と考えてしまう。 だがこの本は、そんな浅薄な知識を思いっきりぶち壊してくれる。 そうだ、そもそも我々は西側の、というよりアメリカの同...
アラブの春。言葉だけ聞くと、そしてたまにメディアで読み聞きする浅い知識から考えると、「おお、良く分からんアラブにも民主化の波が来てるのか、ふんふん」と考えてしまう。 だがこの本は、そんな浅薄な知識を思いっきりぶち壊してくれる。 そうだ、そもそも我々は西側の、というよりアメリカの同盟国である日本の、メディアからしか情報を得て無く、そしてそのことが如何に無知と偏見を助長しているかが良く分かる。 今内戦状態に陥っているシリアのことにも触れてあるが、より良く知りたい人には元シリア大使であった国枝氏の「シリア」という本を読むことをお勧めします。
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著者は日本赤軍の重信房子の娘だそうだ。 エジプト革命が話題になったが、「アラブの春」の中では、チュニジアやエジプトと、リビアでは「革命」の性質がまったく違うと。 リビアのカダフィには「アフリカ合衆国構想」があり、金本位の地域通貨(ディナール)をつくる動きがあった。それを阻止しようとした米国・欧州によるNATO軍はインフラを空爆し、政権崩壊後の外国資本参入の素地をつくったというのだ。(カダフィのリビアは、世界最大級の福祉国家だった) ここでもアメリカのご都合主義が見え隠れしている。
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ベイルート生まれのジャーナリスト重信メイによる中東革命の裏側。日本や欧米のマスコミは勿論、アルジャジーラですらかなり偏ったバイアスを掛けた報道をしているようです。「ジャスミン革命」に代表される、"FacebookやTwitterによって民衆が革命を起こした"という分かりやすいストーリーが様々な政治目的に利用されているのが現実。リビアやシリアのクーデターはジャスミン革命とは程遠く、内戦を煽る事でその地域での戦略的優位を確保したい欧米と露中の駆け引きにすぎないと。またバーレーン、カタール、イエメン、モロッコなどで起きた出来事はほぼ無視され続けている事も、私達がいかにアラブ世界から遠いのかを教えてくれます。報道の読み方というものはつくづく難しいですね。
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