「アラブの春」の正体 の商品レビュー
パレスチナや中東問題を専門とするジャーナリスト、重信メイが著者。ときどき、TVでも見かける美人ジャーナリストだ。だが、重信メイがなにより注目されるのは、母親が日本赤軍のリーダーだった、あの重信房子だからだろう。その特異な生い立ちは興味を惹かれるが、この本自体は中東問題を丁寧に解説...
パレスチナや中東問題を専門とするジャーナリスト、重信メイが著者。ときどき、TVでも見かける美人ジャーナリストだ。だが、重信メイがなにより注目されるのは、母親が日本赤軍のリーダーだった、あの重信房子だからだろう。その特異な生い立ちは興味を惹かれるが、この本自体は中東問題を丁寧に解説していて、ボクのような中東シロウトの格好の入門書だと思う。 アラブの春は、中東の小さな国、チュニジアで始まった革命だ。実際、政権交代が起こっている。それがエジプト、リビア、イエメン、オマーン、サウジアラビアへと飛び火していく。このあたりの説明は、現地を知っている人ならではの臨場感を感じる。だが、日本人の中東感覚を理解している著者ならではの配慮だと思うが、説明はとても丁寧なものを感じる。たとえば、 リベラル派を中心として起こったチュニジアのアラブの春(ジャスミン革命)は、よりイスラム的な政治を求めるムスリム同胞団が勝利した。重信メイはこれを、「革命を起こした当事者が求めていたことが、”より自由な社会”であるとしたら、彼らの望みどおりにならない可能性が高いだろう」と冷静に分析する。このあたりは、とても冷静に判断していると思う。 また、スンニ派とシーア派をどうやって見分けるのか、また、その対立する理由はどこにあるのか? アルジャジーラの果たした役割は? そのアルジャジーラが抱えるタブーとは? など、まったくのシロートであったボクは興味深く読むことができた。 重信メイは、パレスチナ問題は宗教的な問題でも民族的な問題でもないという。それは、彼女にしてみれば「人間的な問題」であるのだと。人間として絶対に許してはいけないことがパレスチナで起こっている、そういう問題なんだと。ボク自身は、やはり宗教や民族の問題ではあると思うけど、重信メイの主張は、なるほど、その場所で生まれ育った人だからこその意見なのかもしれないとも思う。中東に住む人たちの肌感覚を教えてくれる本だと思った。 千夜千冊でも取り上げているので、URLをつけておく。 http://1000ya.isis.ne.jp/1488.html
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要約:現状把握によいが、メディア懐疑の主張は弱い アラブ生まれの著者に見た「アラブの春」についての本。何が原因で、何が起こったかについてはわかりやすく、現状把握には適している。 が、随所に表われる「メディアを疑え」という主張は弱い。まず、著者が言っている「メディア」が日本のメ...
要約:現状把握によいが、メディア懐疑の主張は弱い アラブ生まれの著者に見た「アラブの春」についての本。何が原因で、何が起こったかについてはわかりやすく、現状把握には適している。 が、随所に表われる「メディアを疑え」という主張は弱い。まず、著者が言っている「メディア」が日本のメディアなのか、欧米のメディア(CNNやBBC)なのか、アラブのメディア(主にアルジャジーラ)なのかがあまり明確でなく、話題によってころころ変わる。更に、「王室絡みのデモだからカタール王室が運営しているアルジャジーラは報じなかったのだ」といった陰謀論にも似た裏付けに乏しい批判もあり、首を傾げてしまう。その主張通りなら王室にしがらみの無い欧米系メディアは報じてるはずだと思うんだが、要するに小国カタールの数百人単位のデモにニュース価値が無かっただけの話なのではと思ってしまう。 私はアルジャジーラ英語版しか見ていないのだけども、シリアについてはかなり早い段階から"Syria:A War Within"(シリア内戦)として伝えていて「アラブの春」として扱いとは一線を画していたように思う。それに、アルジャジーラが「反体制」寄りなのは別に中東に限った話ではなく、日本絡みで反原発デモを頻繁に取り上げたり、共産党議員に取材をしたりしてるし、そういうスタンスの放送局なんだ、という見方をすればいい話なんじゃないか。超保守で知られる米FOX Newsを中立公平だと思ってる人なんていないのと同じで、放送局ごとに「カラー」があることは悪いことじゃないと思うんだが。 さらに残念なのが欧米系メディアやアルジャジーラが偏っててダメだと主張するのなら、何を見ればいいのか?というアドバイスが皆無な点だ。アラブ語は厳しくても、例えばサウジのAl-Arabiyaの英語版とかはどうなの?イギリスを拠点にするようなアラブ系メディアとかは?有用と思われる情報源への誘導をせずに、メディアは信用するな、というのは無責任というものだろう。 国内で得られる情報が少ない中東情勢だけに、信頼に足る情報源への誘導というにも中東専門家として立派な役割だと思う。 総括として、「アラブの春」以降の中東情勢の整理にはまあ有用だが、メディア批判については警戒しながら読むような本かと思いました。 追記: 今回のエジプト政変を巡って、今度はアルジャジーラが「政権寄りだ」と批判されてる模様。確かに政権派のデモと反政権側を両方映しててあれ?と思ったけど、報道のバランスって難しいですな。 http://mainichi.jp/select/news/20130703k0000e030223000c.html
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チュニジアで起きた焼身自殺から始まり、アラブ諸国へと拡がっていったデモ活動、アラブの春について紹介している作品。中東問題に疎いため読み進め難かった。本書を読むとアルジャジーラを作ったカタールに感心すると同時に、真実の報道を流さないマスコミに対し憤りを感じた。日本でも同様の規制が行...
チュニジアで起きた焼身自殺から始まり、アラブ諸国へと拡がっていったデモ活動、アラブの春について紹介している作品。中東問題に疎いため読み進め難かった。本書を読むとアルジャジーラを作ったカタールに感心すると同時に、真実の報道を流さないマスコミに対し憤りを感じた。日本でも同様の規制が行われていると感じられる。正直今回はあまり理解できなかったが、再読して中東問題について理解を深めたいと思う。
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
【砂漠をさすらう国籍のない人々】p155 「ビドゥーン」とは、アラビア語では「持っていない」「なし」という意味。 湾岸諸国の国に住んでいた人はもとは遊牧民だった。ヨーロッパによって国境に線が引かれるまで砂漠を自由に行き来していた。 【アルジャジーラのタブー】p212 カタール政府批判 【メディア戦争だったアラブの春】p222 チュニジアやエジプトでは主役が市民だったが、リビアやシリアではメディアが偏った報道をすることで、内戦をあおりたてた。 【SNSの裏の側面】p227 ソーシャルメディアは国家権力が個人情報を収集するツールになる危険性をはらんでいる。例えば、フェイスブックはプロフィールだけではなく、人間関係や現在地などの情報をアメリカのCIAに提供しているのではないかという疑惑が持たれている。
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「アラブの春」の陰には欧米メディアの陰謀が働いていたというのが概要。しかし,裏付けとなる理論が弱く,筆者の想像の範囲を超えない記述ばかり。情報源が明示されず,事実関係が不明確。特にシリアに関する項目は信頼性を欠く。
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自分の狭い視野を改めて認識させられました。 アラブの情勢やメディアについて新たな視点から覗くことができるという点では良書かと。 アルジャジーラの成り立ちや、メディアによる各国の内戦への影響など、 結構知らなかったことも多く、もちろん1ジャーナリストの私見ではあると思いますのでそれ...
自分の狭い視野を改めて認識させられました。 アラブの情勢やメディアについて新たな視点から覗くことができるという点では良書かと。 アルジャジーラの成り立ちや、メディアによる各国の内戦への影響など、 結構知らなかったことも多く、もちろん1ジャーナリストの私見ではあると思いますのでそれを鵜呑みにするわけではないけど、改めて日本のメディアからの情報にとらわれず、多角的な視点で事実を見ていこうと思えたことはよかった。 私のように無知な人間にとってはよい入門書となりました。
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マニアックなイスラームの歴史や伝統でもなく、一つの町の限定された個人的な悲劇の現在でもなく、中東の今を理解できる。アラブに住む人にとっては常識なのではないだろうか。そういう基本をまず、知りたい。包括的で勉強になった。 ・儲けたお金は毎年ある一定の割合(財産の2.5%)で、社会に...
マニアックなイスラームの歴史や伝統でもなく、一つの町の限定された個人的な悲劇の現在でもなく、中東の今を理解できる。アラブに住む人にとっては常識なのではないだろうか。そういう基本をまず、知りたい。包括的で勉強になった。 ・儲けたお金は毎年ある一定の割合(財産の2.5%)で、社会に還元しなくてはならない。それが「ザカート(喜捨)」。「ラマダン(断食)」にもセルフコントロールを学び、貧しい人の気持ちを理解できるようにという意味がある。イスラム教では一生に一度はメッカに巡礼することが好まれているが、巡礼では真っ白いシーツのみを身体に巻く。神の前では皆同じ、という考えを元にしており、社会主義的な平等精神に通じる。共産主義と宗教であるイスラムは敵対的と思うと、意外と相性が良い。 ・アルジャジーラは中東のプロフェッショナルなジャーナリスト集団というイメージがあるが、そもそもはカタール国王が設立したもの。人口60万人程度のアラブでも存在感の薄い国で、隣のサウジアラビアに併呑されるのではないかとの危機感から、国際的な存在感を増すために設立されたのが始まり。 カタールも(カダフィの)リビアも天然ガス輸出国。最大輸出国はイランだが、その後を追うロシアとカタールは産出量や価格をコントロールしようと協力しており、エキセントリックなリビアを抑える利害関係があった。 ・リビアのカダフィは西部の大部族のリーダーの血筋。経済の中心は東にあり、デモや暴動がおこったのも東部のキレナイカ。 ・シーア派の語源は「アリー派(シーア・アリー)」。ムハンマドの娘婿アリーの血筋だけに指導者(イマーム)の地位を認めるという立場。 スンニ派の語源はムハンマドの時代の慣行(スンナ)を守る人、というもので共同体での話し合いで指導者を決めようとした人たち。
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アラブの春って、言葉しか知らないので、本買って読んでみた。 報道はコントロールされてること、 中東では貧しく苦しい状況があること アメリカの余計な介入 アルジャジーラの立ち位置 とか、書いてあった。 部分的に地理に弱いし、前提知識が乏しいので、よくわからない場所もあったが、た...
アラブの春って、言葉しか知らないので、本買って読んでみた。 報道はコントロールされてること、 中東では貧しく苦しい状況があること アメリカの余計な介入 アルジャジーラの立ち位置 とか、書いてあった。 部分的に地理に弱いし、前提知識が乏しいので、よくわからない場所もあったが、ためになった
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その混乱は独裁者のためではなく、まして宗教や、その宗派のためでもない。そこには自分たちとそう変わりない人たちの、いたってありふれた生活があり、ごく当たり前の怒りと悲しみがある。実は、その混乱は、どちらかといえば、外側の、つまり自分たちの無知、偏見によるところが大きいのではないか。...
その混乱は独裁者のためではなく、まして宗教や、その宗派のためでもない。そこには自分たちとそう変わりない人たちの、いたってありふれた生活があり、ごく当たり前の怒りと悲しみがある。実は、その混乱は、どちらかといえば、外側の、つまり自分たちの無知、偏見によるところが大きいのではないか。メディアの発達により、自分たちは遠く離れた多くのことを見ることが出来るようになったが、一方で、見ることによって、知らず知らず加担してしまっている。戦渦のいよいよ拡がる中、自分たちにまずできること、それがこの一冊を手に取ることである。
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著者は、重信メイ。赤軍リーダーの重信房子がパレスチナに亡命し、現地パレスチナ人との間に生まれた娘らしい。 頭のいい人の書いた文章は、分かりやすい。中東情勢の報道に、自分なりの考えをもって臨めるようになるのが楽しい。カダフィやアサドの実情が触れられる。カタール政府から援助を受ける...
著者は、重信メイ。赤軍リーダーの重信房子がパレスチナに亡命し、現地パレスチナ人との間に生まれた娘らしい。 頭のいい人の書いた文章は、分かりやすい。中東情勢の報道に、自分なりの考えをもって臨めるようになるのが楽しい。カダフィやアサドの実情が触れられる。カタール政府から援助を受けるアルジャジーラの報道の真偽、よく考えた方がいいようだ。アサド政権やカダフィ政権は悪、なぜ早く降伏しないのだろう、と思わされていた。中国やロシアが国連で異を唱えるのも、欧米主体のメディア戦争に、自国の立場、国益がそぐわないためだった。 大切なのは、アラブの人たちだって、人間らしく住みやすい社会で生きたい、という思いに変わりは無いこと。 彼女のような良質なジャーナリストは、決して新聞やテレビではメジャーにならないのだろう。 彼女が警鐘する、メディアリテラシーを個人個人が持たなくてはいけない時代になってきているということがよく理解できた。 しかし限られた時間と労力の中で、何が正しく、何が誤りであると見極めることができるのだろうか。 そんな問いを抱きつつ、丸善を散策していると、“ブラクマティズムの作法”という本に出会った。
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