火山のふもとで の商品レビュー
こういう仕事がしたいと思った。 こういう人たちに囲まれて、教えてもらいたいと思った。 穏やかに優しく正しくまっすぐに紡ぐ言葉たちにハッとさせられた 最近読んだ小説の中でも、1番好きだった。 また読み返す本
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ジャーナリストの佐々木俊尚さんが「ずっと読んでいたくなる小説」とお勧めしていたので手に取った。 東京の設計事務所が夏の間だけ軽井沢の別荘に拠点を移し生活する。その事務所の若者が主人公。 設計事務所の仕事や所員の感情、軽井沢の生活と空気感のひとつひとつが繊細に綴られている。美しい...
ジャーナリストの佐々木俊尚さんが「ずっと読んでいたくなる小説」とお勧めしていたので手に取った。 東京の設計事務所が夏の間だけ軽井沢の別荘に拠点を移し生活する。その事務所の若者が主人公。 設計事務所の仕事や所員の感情、軽井沢の生活と空気感のひとつひとつが繊細に綴られている。美しい文章ってこういうものを指すのだなと思った。とにかく丁寧。確かにずっと読んでいたい気持ちになる。 スコーンが食べたくなるし熱い紅茶を飲みたくなるしクラッシックも聴きたくなるし久し振りに軽井沢へも行きたくなった。 ステッドラー、タリアセン、フランクロイドライト、ウェグナー…などのワードが懐かしく、かつて建築の道を志しインテリぶっていた頃を懐かしく思い出したりもした(恥)あの建築系のインテリ感ね… 物語にドラマチックな展開はないが私はハマりました。図書館で借りたけど家に置いておきたくて買いそう。再読したくなるはず。
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さわさわとした夏の空気と涼やかさ、軽井沢の静かさを感じる本。 個人的に著者の方を知っていてファン?でもあるので、どんな文章を書かれるのか気になっていたこともあり、図書館で借りて読んだ。 多分着目すべきはそこじゃないんだけども、尊敬できる人のもとで働けること、誇りを持って仕事にあたれることがうらやましく感じた。仕事が充実していたら、こんな感想は持たないんだろうな...。 特に大きな事件が起こるわけではなく、ある意味期待通りの結末。 手元に置いて、ゆっくりじっくり夏の15時ころ読み返したくなる本。
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なんというか、綺麗な小説。ある意味、予定通り、期待通りに話しは進む。目立たないけど味わい深い建物を設計する建築士の事務所が、対照的に派手で大規模なデザインをする事務所と図書館のデザインを競う事になる。数年ぶりに採用された若手の僕(主人公)が、事務所の人々や、夏の間だけ使用する浅間...
なんというか、綺麗な小説。ある意味、予定通り、期待通りに話しは進む。目立たないけど味わい深い建物を設計する建築士の事務所が、対照的に派手で大規模なデザインをする事務所と図書館のデザインを競う事になる。数年ぶりに採用された若手の僕(主人公)が、事務所の人々や、夏の間だけ使用する浅間山近郊の山荘で知り合う人々と交流しながら物語は進む。図書館のデザインは事務所内での対立(これはよくあること)を経て完成し、内外からも採択間違いなしを思われる。鳥や花々、高原の様子、美味しいコーヒーや紅茶、クラシック音楽など、自然や美味しいもの、良いものの描写が優れていて、全体的に美しい。このように、円滑に、順調に進んでいく物語なのだが、ちょっとした不安感や異変への予兆があることで引き込まれ続ける。小説の舞台となっている浅間山近郊の避暑地が、花や動物たちの楽園となっているのと同時に、いつ噴火して悲惨なことになるかわからないという不安を抱えていることが、これを想起させるのだろう。最終章では儚いけど残るものをあるということを感じさせてくれる。
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何年も前に何かで紹介されていてずっと読みたいと思いながら日々がすぎていた。 設計という自分と全く知らない分野。こんなふうに仕事をするんだという新しい世界を知りました。そういう知識があったら建築物を見る目も変わってくるのでしょう。村井先生の設計した図書館に行ってみたかったです。 静...
何年も前に何かで紹介されていてずっと読みたいと思いながら日々がすぎていた。 設計という自分と全く知らない分野。こんなふうに仕事をするんだという新しい世界を知りました。そういう知識があったら建築物を見る目も変わってくるのでしょう。村井先生の設計した図書館に行ってみたかったです。 静かで、落ち着いた、そしてなんとも言えない余韻も…。 そして人はいつ何が起こるかわからないということが強く心に残る。
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久しぶりにファンになりそうな作家さん。今までなんのアンテナにもひっかかってこなかったのが不思議なくらい。たまたま今年(2021年)、3年ぶりの新刊を出すとかで目にしていなかったら本書に出会うこともなかったかもしれない。 2012年9月上梓の、著者のデビュー作だとか(学生時代の処女作を除く)。それまで新潮社で編集者として鳴らした腕をいかんなく発揮してか、非常に端正で無駄のない筆致で、とある設計事務所のひと夏の情景を丁寧に綴っている。 お話は、1982年の春。とある有名建築家の設計事務所に就職した若者の目線で、事務所長の先生の建築、設計、あるいは人生に対する考え方に接し、また多くの諸先輩の薫陶も受けながら、秋に予定されている国立現代図書館のコンペに向けて事務所員総動員で取り組む様を、夏に過ごす浅間の山麓にある「夏の家」を舞台に描く。 著者が例にした建築家、あるいはその師匠、その他多くの建築家、デザイナーの考え方が、大いに反映され、時に物語の進行とは関係ない、建築、設計にまつわる蘊蓄も多く語られるが、それも上質のエスプリとして文章に独特の芳香をふりまいていて悪くない。 建築の知識もさることながら、文章表現も、「あ、いいな」と思うことが多かった。 「麻里子は自分の言葉をうしろに置き去りにするように、さっとキッチンへ入っていく。」 「プレーヤーのアームをゆっくりおろす。もく、と鼓膜を押すような音がして」 こうした独特の表現を拾っていくだけでも楽しい。 かと言って、とっぴょうしもない比喩、意味不明のメタファといったものも少なく、軽井沢の山郷の自然、空気感、鳥の囁きなどをBGMとして感じながら、肩の力を抜いてリラックスして文章に身を任せて読み進めばよい雰囲気が唯々心地良い。 飾らない文章、平凡、普通がなにより。これはモデルとなった建築家も大切にしている思想。建築家はそれを家で表現し、作家はそれを小説に・・・。いいコラボレーションだ。 大学を出た主人公が、徐々に事務所にも馴染んでいく様子も、建築に絡めて上手に語っている。 「夏の家で過ごすうち、建てつけの悪い雨戸のようだった自分のふるまいも、少しずつがたつきがおさまって、桟のうえをすべりだしたように感じていた。」 こうして、ひと夏を過ごし、秋のコンペを迎え、その後の事務所の変遷を足早やに語り、50代になった主人公が当時を懐かしむように「夏の家」に戻って来る、この緩急をつけた時間の進み方も、物語をより愛おしいものにしているようで見事。 「ぼくは台所仕事をしない建築家なんてまったく信用しない。台所仕事や洗濯、掃除をやらないような建築家に、少なくとも家の設計は頼めない」 「コンパクトでシンプルというのは相手を選ばないんだ。どういうつくりになっているかを説明しなくても、使いかたがおのずとわかるからね。建築でちょっとした仕掛けを考えるときも、住むひと、使うひとが、その仕掛けをおのずと発見できるようにしておくのが理想だよ。」 「建築の細部というのは胎児の指と同じで、主従関係の従ではないんだよ。」 先生が語ったり、所員の先輩デザイナーが語ったりする含蓄に富んだ言葉は、多くは、著者もよく知る建築家中村好文氏から聞いたものが多いのではないだろうか。 となると、これらの言葉を主人公に語って聞かせる指導係の先輩内田は中村氏がモデルだろうし、内田が師事ずる先生村上俊輔は吉村順三がモデルということになろうか。あるいは、中村氏が影響を受けた伊丹十三の考え方も含まれているのかもしれない。 そんな点でも、先人たちの智恵と意匠、人生訓などが多く含まれた非常に読み応えのある一冊だ。
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GINZAで紹介されていた本。 「ぼく」が働く建築事務所では、夏は先生の別荘で仕事をすることになっている。 建築事務所で出ることになった国立図書館のコンペと、「別荘」で生まれた「ぼく」の淡い恋の話。 自分も山の中の別荘にいるような、一緒に図書館コンペの準備をしているようなそんな...
GINZAで紹介されていた本。 「ぼく」が働く建築事務所では、夏は先生の別荘で仕事をすることになっている。 建築事務所で出ることになった国立図書館のコンペと、「別荘」で生まれた「ぼく」の淡い恋の話。 自分も山の中の別荘にいるような、一緒に図書館コンペの準備をしているようなそんな気分になってしまう。 終盤はけっこう驚きの展開。うーん、そういうことか…と。
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読み始め先日軽井沢に引っ越した、友人を思い出した(彼の父は家具屋)彼にプレゼントするのも良いかなと読み進める。 有名建築士の事務所で働けることととなった主人公、夏の間は軽井沢で仕事することとなっており、軽井沢での仕事を始めるところから話は進む。 設計事務所での仕事、職場の人間関係...
読み始め先日軽井沢に引っ越した、友人を思い出した(彼の父は家具屋)彼にプレゼントするのも良いかなと読み進める。 有名建築士の事務所で働けることととなった主人公、夏の間は軽井沢で仕事することとなっており、軽井沢での仕事を始めるところから話は進む。 設計事務所での仕事、職場の人間関係、軽井沢を舞台に話はゆるりと進む。贅沢な時の進み方だなと思う。物語の空気感は穏やかだが、物語としても抑揚が穏やかで、物足りなさを残して話が終わってしまった感。
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なにで知ったのか忘れてしまったけど、何かの書評だったか、ふと目に留まって、図書館で借りて読みました。 そういう出会いが楽しい。
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すごく良かった。 とても密度の高い小説で、建物や自然の細かなディテール、登場人物のさりげない台詞などを丹念に描写することでどっしりした物語のリアリティーを作り出している。舞台や小道具の高尚さ、所々に出てくる蘊蓄はともすれば鼻につきそうなところだけれど登場人物の存在感で受けきってそう感じさせないし、語られる哲学的なやり取りも説得力がある。古い話にしては食事がすごく現代的な趣味だなという気はするけど…。 私は建築のことも自然のことも全く知らないで読んでいたけれど、伝わってくるその魅力にわくわくしながら読み進めた。建築ってそこまで考えているのか……おもしろいんだなあ。 劇的なことは起こらず、ゆったりと語られる物語が、先生が倒れた辺りでするする巻き取られるように一気に収束していき、読後に余韻がたっぷり残る。建築が主題なだけに設計がうまいというか、繊細にコントロールされているなあ、と思う。ゆっくりとこの世界に深く沈んでいって、適切なスピードで浮上して、目覚めるようにできているというか。 本を読んでいるあいだは全てを離れて本の世界に迎えられる、孤独であって孤独ではなく、図書館はひとりで出かけて行って、そのまま受けいれられる場所だという話は胸にしみた。「子どもがそのことを自分で発見できたら、生きていくためのひとつのよりどころになるだろう」と言うけれど、まさに私はそうやって本の世界に逃げて救われてきた子どもだったので、とてもよく分かった。 そういう場所を作るということ、存在しない建物の息吹まで想像して、一つ一つの寸法をきっちり詰めて、という気の遠くなりそうな作業。すごい仕事だ。 終盤の先生の、縄文時代の竪穴住居の話も好き。 「人間の内面なんてあとからできたもので、まださほどしっかりとした建築物ではないという証なんだと思う。家のなかだけで暮らしつづけることができるほど、人間の内面は頑丈じゃない。こころを左右するものを自分の内側にではなく、外側に見いだしたい、預けたいと思うときがあるのは、そういうことなんじゃないかね」 自分を世界から分化することで、人間の精神は成長する。でも同時に世界を自分の延長としてとらえることができなくては、動物を超えることができない。 そういう振り子のようなゆらぎが、太古の昔から住居にもあらわれてくるということなのかな。考えてみれば当たり前のようにも思えるほどしっくりくる。無意識に、もしくは先生のように意識的に、そんな血の通う住居がつくられるのは面白いなあ。
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