サルトルとその時代 の商品レビュー
『サルトル入門』(1966年、講談社現代新書)の増補版です。 サルトルの生い立ちから晩年にいたるまでの生涯をたどりつつ、そのときどきの思想について解説している、評伝形式の入門書です。 実存の偶然性にまつわるサルトルの哲学的な思想が文学的に表現されていると一般に解釈されている『...
『サルトル入門』(1966年、講談社現代新書)の増補版です。 サルトルの生い立ちから晩年にいたるまでの生涯をたどりつつ、そのときどきの思想について解説している、評伝形式の入門書です。 実存の偶然性にまつわるサルトルの哲学的な思想が文学的に表現されていると一般に解釈されている『嘔吐』について、著者はいちおうフッサール現象学の志向性にかんする理論をサルトルが受け継いでいることに触れつつも、「サルトルは、小説によって実存主義の絵解きをしているのではない」と述べて、著者自身の具体的体験に目を向け、「観念の祖述でなく、小説的厚みをもって描かれていること」を評価します。また後期の哲学的主著である『弁証法的理性批判』についても、竹内芳郎の『サルトルとマルクス主義』(紀伊国屋書店)を参照することを読者に求めて、その思想の解説には立ち入りません。 むしろ著者が重点を置いているのは、戯曲や評論などの仕事の紹介を通じて、二十世紀の文学者としてサルトルという思想家を理解することです。とりわけ、政治的状況のなかでの発言をもとに、マルクス主義に対する距離の変化をわかりやすく説明しています。 本書だけで、サルトルという多面的な思想家の全体像を知ることはできないように思われますが、時代状況に深くコミットし、つねに政治的な実践と発言をおこなってきた彼の軌跡をたどるうえで、ある程度有益な内容といえるように思います。
Posted by
- 1
