独裁体制から民主主義へ の商品レビュー
私がこの本を知ったのは、昨年12月11日の東京新聞、斎藤美奈子の「本音のコラム」によってである。そこで彼女は一年前にこの本を読んだ時には「日本では、こんなことはムリ」と思ったそうだ。しかし、今はなんと胸にストンと落ちる。言うまでもなく、安倍の強権政治が目の前に展開されたからである...
私がこの本を知ったのは、昨年12月11日の東京新聞、斎藤美奈子の「本音のコラム」によってである。そこで彼女は一年前にこの本を読んだ時には「日本では、こんなことはムリ」と思ったそうだ。しかし、今はなんと胸にストンと落ちる。言うまでもなく、安倍の強権政治が目の前に展開されたからである。なるほど!私もさっそく取り寄せて読んでみた。 1980年以来、エストニア、ラトビア、リトアニア、ポーランド、東ドイツ、チェコスロバキア、スロベニア、マダガスカル、マリ、ボリビア、そしてフィリピンといった国々で、民衆による非暴力を中心とした抵抗によって独裁体制が崩壊してきた。非暴力的な抵抗はまた、ネパール、ザンビア、韓国、チリ、アルゼンチン、ハイチ、ブラジル、ウルグアイ、マラウイ、タイ、ブルガリア、ハンガリー、ナイジェリア、そして旧ソビエト連邦のさまざまな地域(1991年8月に起こった守旧派によるクーデターの敗北では、顕著な役割を果たした)での民主化運動を推し進めてきた。 さらに近年になって、大衆による政治的抵抗は中国、ビルマ、チベットでも起こっている。こうした闘争は現在の独裁体制や占領を終焉させるにはいたっていないものの、抑圧的な政権の非人道性を世界コミュニティーに向かって示し、このかたちをとって闘争するという貴重な体験を国民に与えたのである。(16p) この本はこれらの国の具体的な「非暴力行動」を論述した本ではない。しかし、それらの貴重な体験を踏まえて書かれていることが明らかだからこそ、一定の説得力を持つだろう。 ここでは殆ど触れられてはいないが、著者がガンジーやキング牧師の運動に影響を受けているのは、明らかだと思う。解説によると、最初ガンジー研究者から出発した著者は、朝鮮戦争兵役不服従で拘束を受け、やがてビルマの運動に潜入、本書を発行したという。最近観た「大統領の執事の涙」では、戦後の黒人公民権運動の歴史を慨観し、最初は非暴力行動で始まり、次第とエスカレートして行く様が描かれていた。アメリカで著者みたいな研究者が生まれたのは、偶然ではない。 独裁政権に対して、軍事的反乱かゲリラ戦が必要だ、という意見に対して著者は明確に反論する。 あらゆる軍事的抵抗は、いっとき成功しても、必ずそこに大きな疵と将来への禍根を残す。では、どうするのか。最も効果的に、しかも最小の代償で倒すことを望むならば、以下の四点が必要だという。 ・抑圧された民衆自身の意思や自信、抵抗技能を強化すること。 ・抑圧された民衆が関わる独立した社会グループや機関を強化すること。 ・国内で強力な抵抗組織を築くこと。 ・解放のための全体戦略計画を練り、それをうまく実行すること。 (25p) 独裁体制の「政治的な力の源」は何なのか。著者は実にシンプルだという。「独裁者は、統治する民衆の支えを必要とする」(43p)ならば、この源を断つことが必要だ。反対に言えば、この源さえ断つことができれば、暴力手段に訴えることなく、簡単に独裁体制は倒すことができるのである。非暴力行動は、そのための人類が生んだ「知恵」なのだ。 「過去におけるその場しのぎの政治的闘争に共通する間違いは、ストライキや大衆デモなど、一、二の手段しか訴えなかったことである」(61p)つまり巻末に掲げられた「非暴力行動198の行動」はそのことを助ける有力な武器になるのである。 以上、原理は非常に簡単なものだ。しかし、それからメンバーを集め、戦略計画を練り、実行するとなると、アフリカのジャスミン革命の後退でも明らかなように、あらゆる「実状」が関わるだろう。著者も戦略計画については、多くの頁を費やす。 私がこの本を読んだ動機は、果たしてそうでもなお、またここで想定している現状と日本が大きく違っているにもかかわらず、現代日本の我々にはここから学ぶべきものがある、ということである。もちろんまだ自民党政権は「独裁体制」ではない。けれども、「そうならないために」何かをやるべき現状だし、やるべきことはあるのだ、と思うのである。 2014年2月26日読了
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本書は,1993年に書かれ,2011年の「アラブの春」や若者によるウォールストリート占拠など多くの抗議運動の中で教科書のように読まれました。民主主義や自由は,けっしてカリスマ的なリーダーが与えてくれるものではなく,普通の人々が選挙の時だけでなく普段から政治や社会に対する関心を表明...
本書は,1993年に書かれ,2011年の「アラブの春」や若者によるウォールストリート占拠など多くの抗議運動の中で教科書のように読まれました。民主主義や自由は,けっしてカリスマ的なリーダーが与えてくれるものではなく,普通の人々が選挙の時だけでなく普段から政治や社会に対する関心を表明,行使することにより機能します。権力や組織にただ従順であるのではなく,時には非暴力による抵抗・不服従を展開することの重要性を教えてくれる本です。 *推薦者 (国教)T.I. *所蔵情報 http://opac.lib.utsunomiya-u.ac.jp/webopac/catdbl.do?pkey=BB00327029&initFlg=_RESULT_SET_NOTBIB
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平和な場所で読んでるからかな。感覚としてよくわからない部分や、イメージしきれない部分が結構あった。 けど実際、闘争の渦中では切羽詰まってて、考える時間も少ないし、とても冷静でいられないだろうから、現場においては凄く理論のありがたみを感じるんだろうな、って思う。
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日本でも原発デモなどが繰り広げられているが、一向に原発は稼働を続けているのはなぜだろうと思った。戦略が足りてないのではないかと思う。
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米国アインシュタイン研究所の著者による戦略的非暴力運動の手引き書。原書はパブリックドメインでウェブ上でも公開されているという。中東や北アフリカなどの民主化運動に大きな役割を果たしたとのことである。ただ、良くも悪くも、こういった啓蒙手段自体が、アメリカの戦略手段の一つとして使われて...
米国アインシュタイン研究所の著者による戦略的非暴力運動の手引き書。原書はパブリックドメインでウェブ上でも公開されているという。中東や北アフリカなどの民主化運動に大きな役割を果たしたとのことである。ただ、良くも悪くも、こういった啓蒙手段自体が、アメリカの戦略手段の一つとして使われている可能性もある。 日本でも反原発デモなどでこの手法が使われている可能性が高いが、本書がガイドするような長期的・戦略的な展望にはまだ達していないかもしれない。もちろん本書で説かれるような「象徴的な抵抗」にも意味があるわけだが・・・ さらに日本の場合は「間接統治」であり本書で説かれるような独裁体制の打倒とはまた構図が違ってくるように思われる。この著者にとっては日本は「民主化された」国であり啓蒙の対象外になるのかもしれないが、可能なら伺ってみたいところである。
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