昭和のエートス の商品レビュー
「『雅文を草する』だって。」 この本を読み始めた彼からこの言葉を聞いたとき、雅文という漢字すら頭に思い浮かばなかった。優雅な文で「雅文」、原稿を書くことを「草する」、合わせて「雅文を草する」。なんて美しい日本語だろうとこの一文に惹かれて、本書を手に取った。 以前読んだ「下流志向」...
「『雅文を草する』だって。」 この本を読み始めた彼からこの言葉を聞いたとき、雅文という漢字すら頭に思い浮かばなかった。優雅な文で「雅文」、原稿を書くことを「草する」、合わせて「雅文を草する」。なんて美しい日本語だろうとこの一文に惹かれて、本書を手に取った。 以前読んだ「下流志向」に比べて難しい言葉や表現が多く、また私自身の知識が乏しいためいくつか理解できない内容もあった。数年後に再読したい。 私は昭和を知らない。 内田樹先生は「昭和人」とは「昭和生まれの人」のことではなく、「昭和という時代を作りだし、生きた人」と定義している。 74年前の今日、日本は敗戦した。それまで「国家主義」だったこの国が、その日を境に「民主主義」になるという大きな「断絶」を日本国民は受け入れざるを得なくなった。 そしてそのとき、「断絶以前」と「断絶以降」で自分の中の葛藤に苦しんだ人を「昭和人」と呼ぶ。それは明治人も同様で、明治維新以前と以降で葛藤した人々のことを「明治人」と呼ぶ。 私はここでいう「昭和人」に会ったことがない。多分内田樹先生前後の世代が「昭和人」を知っている最後の世代だろう。 本書では多角的に昭和的な雰囲気を感じることができる。 ・東京オリンピック以前の「戦前」的な風景、「どうせ敗戦国だから」という人々の卑屈さとそれゆえの風通しの良い空気感。 ・「貧困」は経済問題だが「貧乏」は心理問題である。敗戦後の日本はたいへん貧しかったが、皆が同程度に貧しかったため人々は総じて明るかった。(関川夏央のいう「共和的な貧しさ」貧者がいないのではなく、富者を名乗ることがはばかられた社会)現在日本は「貧困」を脱して豊かになったけれど、格差が生まれたため「貧乏」はむしろ増えた。 (資本主義市場経済はしかし多くの人が「自分は貧乏だ」と思うことで成り立っている) ・今、教育現場でも社会でも「どうやって勝つか」が重視されている。しかし人間はこの世に生を受けてから常に「死」という「負け」に向かっている、構造的敗者なのである。日本人は世界でも稀に見る敗戦経験の少ない国だ。(663年に唐・新羅軍に負けた白村江の戦いと先の大戦くらいだろう)たとえばフランスは数多くの敗戦から――それゆえに甚大な被害を受けてきたので――敗戦を無駄にせず、そこから得た教訓を次に繋げることに長けている。一方我が国は良くも悪くも敗戦“慣れ”していないため、適切な負け方を知らない。戦争を知らない世代が増えた。74年前の戦争を「無意味な敗北」にしないよう、「どうやって勝つか」ではなく、「意義のある負け方」を習得すべきである。 のっぺりとしたシンプルな時代に深みのあるものは生まれない。「断絶」を経験してみたい、と思ってしまうのは私にとって過去の「断絶」がもはや歴史上のことになっており現実味が湧いてこないからだろうか。
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内田樹のエッセイ集。著者のエッセイ集のなかでも、比較的硬い文章が収められている印象です。 「私的昭和人論」は、戦前と戦後の「断絶」を「断絶」として抱え込んだ思想家たちについての考察です。吉本隆明や江藤淳、養老孟司といった人びとの思想に、ひとつの観点からスポット・ライトをあてる試...
内田樹のエッセイ集。著者のエッセイ集のなかでも、比較的硬い文章が収められている印象です。 「私的昭和人論」は、戦前と戦後の「断絶」を「断絶」として抱え込んだ思想家たちについての考察です。吉本隆明や江藤淳、養老孟司といった人びとの思想に、ひとつの観点からスポット・ライトをあてる試みとして、おもしろく読みました。 著者の日本人論は『日本辺境論』(新潮新書)としてまとめられていますが、本書には著者の推薦する「日本人の社会と心理を知るための古典二十冊」という読書案内が収録されています。とくに、勝海舟、坂本龍馬から、中江兆民、幸徳秋水を経て、田中正造、堺利彦、荒畑寒村らに至る「荒々しく感情豊かな反骨の系譜」の指摘をおこなっているところに、興味をかき立てられました。 「アルジェリアの影」はアルベール・カミュ論です。レジスタンスの闘士として、自著の哲学史的重要性をみずからの行動で実証してしまった稀有な思想家として、カミュを再評価しています。
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雑文の寄せ集めであるが、読めば結構面白い。 徹底して、偏差値主義、単一指標での上昇成功圧力、グローバリスムの名の元での市場万能主義、メリトクラシー、アメリカによりかかる思考、を攻撃する。少なくとも教育者としての信念については、よくわかる。 白川静、カミュなどへの傾倒。
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内田先生が「最初と最後は立ち読みでもいいから読んでね」みたいなことをブログで書いていたのだが、その最初と最後がちゃんと読み切れていない状態。リベンジしよう。
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書かれたもの(テクスト)のみが正しい、という考え方にとらわれすぎると、それを書いた人が置かれた時代状況や、抱えていた葛藤などのことを考えることが疎かになってしまう。そのことを痛感した。吉本隆明とか江藤淳を読みたくなった。 内田先生のカミュ論は素晴らしい。
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ほかの文庫に収められているものとテーマがかぶるものもいくつかあるけど、今回は読書について書いてあったのが収穫。 漢文なんてしばらく読んでないなあ。
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先日読んだユダヤ文化論で内田さんに興味を持ったからなのでしょうか、バイト先の平台で、たった一冊しかないその背表紙のタイトルが目に飛び込んできました。確か九月のことです。この本は八月の新刊でしたので、もしかしたら、その前からそこにあって私を待っていたのかもしれませんね。でも読み始め...
先日読んだユダヤ文化論で内田さんに興味を持ったからなのでしょうか、バイト先の平台で、たった一冊しかないその背表紙のタイトルが目に飛び込んできました。確か九月のことです。この本は八月の新刊でしたので、もしかしたら、その前からそこにあって私を待っていたのかもしれませんね。でも読み始めたのは随分遅くなりました。 はやく読んでおけば良かった、と思います。 答えとは言い切れないけれど、そういう考え方を待っていた!というものがたっくさんつまってました。 紹介したいところですが、個人的に全部良かったので抜粋して……なんてことができません、悪しからず。 丁度一年ほど前に日本辺境論を読まなければならなくなったときに、読めなかったのが嘘みたいです。本書のあとがきを読んで知ったのですが、日本辺境論の前身も収録されていたようです。それも楽しく読めたので、再読しないと!
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
昭和という時代を単なる懐古趣味で振り返るのではなく、江戸〜明治〜昭和と、それぞれの時代に存在する「断絶」を我が身に体験した世代の残したものに言及する試み。振り返ってみて昭和から平成に至る時代を生きてきたわれわれは後世に残せるものを築く事が出来ただろうか?そんなことを深く考えさせられる書である。
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タイトルがおもしろそうやなあと思ったけど、本書は内田さんの文庫のなかでも特に、選ばれた論考に脈絡が感じられなかったように思います。決して悪い意味ではないです。 でも、やはりほかと比べてむずかしく感じました。それゆえ、わくわく感があまり感じられなかったのが残念。後半のほうが断然おも...
タイトルがおもしろそうやなあと思ったけど、本書は内田さんの文庫のなかでも特に、選ばれた論考に脈絡が感じられなかったように思います。決して悪い意味ではないです。 でも、やはりほかと比べてむずかしく感じました。それゆえ、わくわく感があまり感じられなかったのが残念。後半のほうが断然おもしろかったなあ。 「頭を冷やすことの大切さ」「お金と幸せ」が特に興味深いです。
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9/2-12 ,12 内田さんが2006~2008年に執筆された文章をまとめた本。 その寄稿先がさまざまだから、テーマも色々でとても興味深く読めた。 内容によってはその章を何回か読み直したりして、内田さんが本当に言いたいことを理解しようとした。 ので読み進めるのにけっこう時間...
9/2-12 ,12 内田さんが2006~2008年に執筆された文章をまとめた本。 その寄稿先がさまざまだから、テーマも色々でとても興味深く読めた。 内容によってはその章を何回か読み直したりして、内田さんが本当に言いたいことを理解しようとした。 ので読み進めるのにけっこう時間がかかったけど、いろいろと調べものをしていくうちに「なるほど~~。そういうことか!」ということも多くなって読んでいる時間がとても楽しかった。 少し時間を置いて、また読み直したい。 (『日本辺境論』も…。)
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