ヘーゲル「精神現象学」入門 の商品レビュー
ヘーゲルの『精神現象学』の解説書です。編集を担当している加藤尚武は、序章、第1章、第8章を担当しており、『精神現象学』全体の見通しを示しています。 加藤は、『精神現象学』の特徴として、カントの『純粋理性批判』における形而上学的演繹と超越論的演繹を一石二鳥で解決するカテゴリー論で...
ヘーゲルの『精神現象学』の解説書です。編集を担当している加藤尚武は、序章、第1章、第8章を担当しており、『精神現象学』全体の見通しを示しています。 加藤は、『精神現象学』の特徴として、カントの『純粋理性批判』における形而上学的演繹と超越論的演繹を一石二鳥で解決するカテゴリー論であるという点をあげています。カントは、『純粋理性批判』の形而上学的演繹においてカテゴリーを判断表から導出し、超越論的演繹の議論においてカテゴリーがわれわれの経験の可能性の条件となっていることを明らかにしました。これに対してヘーゲルは、さまざまなカテゴリーが「存在」の自己限定として導出されると考えることで、カテゴリーの成立と具体的な知識との循環構造のなかで二つの演繹を同時に果たそうとしたと説明されています。 『精神現象学』では、こうした循環は「意識」が自覚を深めていくプロセスとみなされており、しかもこのプロセスを支える「アルキメデスの点」は存在していません。この点でヘーゲルの立場は、絶対的に確実であることが内省的に知られる自我を原点とみなしたカントやフィヒテの思想とは異なります。「意識はあるものから自分を区別するが、同時にそれに関係する」という考えかたにもとづいて、「あるものが意識に対して存在する」という側面と「あるもののそれ自身として存在する」という側面を区別するとともに、両者を比較・吟味することで、意識がみずからの制限をしだいに克服していくとされています。加藤は、「ヘーゲル哲学は、近代の自我中心主義の完成態ではない。知のなかに絶対的なものを樹立することがどれほど困難であるかということの貴重なドキュメントが、『精神現象学」なのである」と述べています。 『精神現象学』という著作の全体がもつ意義とともに、個々の議論のなかでもとくに大きな意義をもつと考えられるところがていねいに解説されており、読みごたえのある入門書だと感じました。
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自分とか、意識とか、他人とか、僕の中で漠然としつつも、読みながら色々考えるのはやっぱり楽しい。ひとつのところから、考えが広がっていく感覚もあるかも。「精神現象学」を好きな人たちが書いているテンションみたいなものも感じる。
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哲学における古典のなかでも、難解をもって知られる『精神現象学』のための入門書である。構成は『精神現象学』における叙述の順序の通りであるが、「意識の経験」の順序が各部で繰り返されているヘーゲルの論理をよく把握できるようになっている。また、『精神現象学』ないしヘーゲルの哲学そのものを...
哲学における古典のなかでも、難解をもって知られる『精神現象学』のための入門書である。構成は『精神現象学』における叙述の順序の通りであるが、「意識の経験」の順序が各部で繰り返されているヘーゲルの論理をよく把握できるようになっている。また、『精神現象学』ないしヘーゲルの哲学そのものを、完結した閉じた体系として把握しようとする従来の評価を批判し、未完の体系として、ヘーゲル自身の思想的苦闘の記録として、『精神現象学』を解説する。この見方によってこそ、ヘーゲルの意図を尊重しつつ、ヘーゲルの叙述を現代でもなお精彩ある「哲学書」として把握する道が開かれるだろう。
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