薔薇密室 の商品レビュー
- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
ずいぶん前に読んだものの再読。 前半部分しか憶えていなかった。 それと、「物語を必要とするのは、不幸な人間である」という、ものすごく印象に残っている言葉を知ったのは、どうやらこの本だったらしい、ということがわかった。 ミルカとユーリクは、最後に薔薇の僧院で再会するように記憶していたんだけど、ぜんぜん違った!それこそ私の脳が勝手につくった物語だ。 前半をよく憶えているのは、私の好きな「物語」だからだろう。薔薇の咲き乱れる僧院という箱庭、アンネの日記のようなミルカの生活、いい人そうなホフマンさん。 最終的に、ミルカとユーリクは「現実」へ戻っていく。 ヨリンゲルたちは僧院に残るけれども、それは「物語」ではなく、続いていく「日常」だ。 ナタニエルだけが、「物語」を追い続ける。
Posted by
- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
視点が変わるごとに、ああ、そうなのかと。世界と世界が繋がった瞬間にああ!あなたはそうなのか、と思った。はじめのコンラートの話がありえないほどに非現実的だったのも腑に落ちました。 終わりはヨリンゲルの語りで締め括られるのだけど、敢えてミルカを止めなかったのは、どこかでその惨状を乗り越えられるだろうと思ってるのだろうか。ミルカとユーリクを再会させてあげたかったな。 そして新たな創造世界を求めて狂気の支配者は南米へ。誰かに悪夢の種を植える所業は続けられるわけだね。 身体は大人で心は子供のナタニエル、身体は子供で心は大人のユーリク。対照的な二人にそれぞれの形で愛されたミルカ。 どっぷりと皆川博子さんの世界を堪能しました!
Posted by
死の泉という作品を読んだあとに、こちらの作品にあたりました。 第二次世界大戦前後のドイツ、マッドサイエンティスト、政治や社会から隔絶された不気味な空間、登場人物たちそれぞれの運命の糸が絡み合うドラマチックな展開、などなど、死の泉と共通点がいくつもあるものの、ここでは全く異なる世界...
死の泉という作品を読んだあとに、こちらの作品にあたりました。 第二次世界大戦前後のドイツ、マッドサイエンティスト、政治や社会から隔絶された不気味な空間、登場人物たちそれぞれの運命の糸が絡み合うドラマチックな展開、などなど、死の泉と共通点がいくつもあるものの、ここでは全く異なる世界が繰り広げられ、新たな感動を得られました。こんな充実感に浸れる作品は中々出逢えません。 長年にわたりソ連やドイツはじめ周辺国に翻弄され続けているポーランドのことも詳しく知ることが出来ます。なぜドイツとポーランドを舞台にしたのかは、最後まで読めば理解できるようになっています。勘のよい方は、もしかしたら結末を予想できるやもしれません。 一番素敵なポイントは、主人公のうちの一人(この作品は見方によって主人公が変化します、そこも見所です)である、ミルカという薄幸の少女の内面描写です。 彼女の持つコンプレックス、恋への憧れ、健気さ、打算、家族への愛と本心、、様々な場面でミルカ自身が語ります。女性の方なら特に、ミルカの、ユーリクに対する自然な愛情と、一瞥しかしていない端正なヨアヒムに対する盲目的な恋慕が共存する複雑な乙女心に、グッと来るかもしれません。 大抵の人が直視したくないような自分の弱さや醜さを、よくもまぁこんな自らえぐり出してくれるな笑、とツッコミも入れたくなるのですが、これだけ描写してくれるからこそ、最初から最後まで彼女のことを自然と応援したくなり、結果どんどん皆川さんワールドにはまりこんでいくことになります。 皆川さんは、極限状態にいる人間のなかの美徳&悪徳をほんとうに違和感なく表現してくれるので、どのキャラクターも厚みがあります。なぜこのキャラクターがここでこんな行動をとるのか、ちゃんと筋が通っています。万が一わからなくても、読み進めれば必ずや理解できるよう仕掛けています。そのため、 [なんだこのキャラ、ウザいな。このキャラは嫌い] と感じることは基本的にないと思います。 読み進めるほどに、何が真実で何が夢想なのか、今どこの視点にたってる描写なのか、徐々に倒錯していく耽美な混沌に、溺れること間違いなしです。 是非手に取ってみてください。
Posted by
美しい悪夢の中を存分に彷徨った。これほどの没入感を読者に与えられる作家はそうそういないだろう。まさに小説を読む醍醐味。これは、耽美な妄想と厳しい現実が入り混じり溶け合う作品だ。物語を必要とする人々に、幸あらんことを。
Posted by
- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
とっっっっても良かった。 図書館で借りてるんだけど、読み終わって速攻楽天でポチりましたわ。 あらすじ通りの話かとおもったら…見事に騙された。 非常に濃密な読書体験。まだ、この世界から出たくない。 コンラートパートは、クセの強い主人公だな〜という感想で、フムフムと思って読んでた。 続いてガラっと変わって子供たちの話になると、はてなが飛びまくる。 ミルカパートから物語にぐんぐん吸い込まれて、途中「え!?私が今まで読んでいたのは何…?」となる。ミルカと一緒に疑心暗鬼になる。 後半のミルカは本当にかわいそうでかわいそうで辛かったけど、ヨリンゲルの幸福度は高まっていって見てるこっちがしあわせになる。 ヨリンゲルもミルカもユーリクも、とっても魅力的で大好きになる。 尻切れトンボとか噂を聞いてたけど、私的にはそんなことなかったな。ちょっと切なく、でもしあわせもあり、良い終わり方だった。
Posted by
3時間越えの重厚な映画を観たあとのような読了感。それなのに全く長さは感じず、先が知りたくて一気に読み進めてしまった。戦争のどさくさに1人の男が作ろうとした幻想世界に取り込まれてしまった人達の物語。
Posted by
とても面白かったです。仄暗い世界観にひきこまれ、くらくらしながら読みました。どこまでが幻覚なのか、正気の在り処を見つけられませんでした。戦時下の描写は胸に痛く、皆川さんにしか描けないだろうなと思ってしまいます。薔薇と若者や少年の融合も狂気的でしたが、綺麗だろうな。幻想的な物語でし...
とても面白かったです。仄暗い世界観にひきこまれ、くらくらしながら読みました。どこまでが幻覚なのか、正気の在り処を見つけられませんでした。戦時下の描写は胸に痛く、皆川さんにしか描けないだろうなと思ってしまいます。薔薇と若者や少年の融合も狂気的でしたが、綺麗だろうな。幻想的な物語でした。
Posted by
長編ゆえに一気には読めず、また所用もあったので読了まで1日かかったのだが、作品に触れていない間のおそろしさといったら……! 何が現実で何が嘘なのか、あるいは、用意された虚構なのか狂気なのか。混乱・混線し、作品世界から帰ってくることができず頭をぐるぐるさせていた記憶がある。しかしこ...
長編ゆえに一気には読めず、また所用もあったので読了まで1日かかったのだが、作品に触れていない間のおそろしさといったら……! 何が現実で何が嘘なのか、あるいは、用意された虚構なのか狂気なのか。混乱・混線し、作品世界から帰ってくることができず頭をぐるぐるさせていた記憶がある。しかしこのような混乱(人間が、知恵をめぐらして建てた秩序が壊れた状態)こそが逆にたしかなものなのかもしれないと思う。「なにもない状態が「ある」」というように。時代に、なんらかの理由で(環境や信条、性質など)置き去りにされることを考えたとき、以前読んだキーンの著作を思った。
Posted by
美しいバラの花と腐乱した死臭、 生きた精液がかおるような妖しい序盤の物語から一転、 謎の語り手の物語に。 そして、語り手は少女に移り。 物語は視点を変えながら、事実か創作か幻覚か夢想か あやふやになる記憶と現実が、ミステリーの騙しの ためではなく、この物語の世界として溶け合い 一...
美しいバラの花と腐乱した死臭、 生きた精液がかおるような妖しい序盤の物語から一転、 謎の語り手の物語に。 そして、語り手は少女に移り。 物語は視点を変えながら、事実か創作か幻覚か夢想か あやふやになる記憶と現実が、ミステリーの騙しの ためではなく、この物語の世界として溶け合い 一気にラストまで読み手を導いていく。 そして、それまでの世界を一気に転換してしまう ような最後の最後。人が現実の中で 爽やかな愛を胸に力強く立ち上がる姿よ。
Posted by
弟に借りた本。 最初は何がどうなっているのかさっぱりわからなかった。 一度挫折して、少し寝かしておいて、数カ月後に改めて読了。 幻想なのか、現実なのか。 繋がるとは思えなかった人間が繋がっていく。 今はいつなのか、これは誰なのか。 難解な小説だったが、最後にはすっきりと読み終...
弟に借りた本。 最初は何がどうなっているのかさっぱりわからなかった。 一度挫折して、少し寝かしておいて、数カ月後に改めて読了。 幻想なのか、現実なのか。 繋がるとは思えなかった人間が繋がっていく。 今はいつなのか、これは誰なのか。 難解な小説だったが、最後にはすっきりと読み終えられたのが不思議。
Posted by