氷山の南 の商品レビュー
これを「中日新聞」で連載途中から読み出して、私は池澤夏樹の小説のファンになった。 今回、単行本を読んで、最初の部分がやっと読めて、ジンとジムの出会いもわかり納得。一年間続いたこれを毎日読んでいるときは、本当に毎日が楽しみだった。 さて、お話は、アイヌの血をひくジンがニュージーラ...
これを「中日新聞」で連載途中から読み出して、私は池澤夏樹の小説のファンになった。 今回、単行本を読んで、最初の部分がやっと読めて、ジンとジムの出会いもわかり納得。一年間続いたこれを毎日読んでいるときは、本当に毎日が楽しみだった。 さて、お話は、アイヌの血をひくジンがニュージーランドの高校を出て、生き方を模索する中で、「氷山アラビア協会」の「シンディバード」という南極へ出発する船に密航する。 生物学者のアイリーンに見つかってしまうが、仕事を2つ与えられ、いっしょに南極へ向かうことになる、という冒険小説。 ジンに与えられたのは、船内新聞の発行と、厨房の助手。 船には、氷山曳航計画を実行するスタッフ、船を動かすクルー、そして、研究者、という3種類の人間が乗っている。人種も年齢も性別も違う人が、長期間同じ船の中で生活するのだ。 ジンがインタビューすることで、乗っている人の紹介や、この船の目的がわかってくる。 この船は、南極の氷山を特殊な布で包んで持ってきて、それを融かして水資源として使うという計画をもっていた。 その計画を「アイシスト」が妨害してくる。「アイシスト」は、「アイシズム」を信奉する者のこと。「アイシズム」は、氷を超越的な存在として拝める考え。彼らにとっては、その氷を経済活動の対象とすることに良い思いを持っていない。 ジンは、氷山の表面近くに埋まっていた石を発見する。それは、46億年以上、宇宙を漂い、地球に落ちてきた隕石だった。彼は、それを彼のムックリと共にずっと身に着けることになる。 彼は、その石に圧倒される。「これと対抗できる自分があるか?」 ついに良い氷山がみつかり、それを包み運ぶ段階になって、ジムから「来い!」という手紙が届く。彼はいったん船から降りることになった。 オーストラリアでのジムとジンと老アボリジニー、トミー・ムンガの過ごす時間が、彼の生き方に新たな道を作り出す。それは、アボリジニーの世界観だ。そして、それは、彼の中にあるアイヌの世界観でもある。 トミー・ムンガはひたすら歩く。かれは、自分のカントリーをきちんとしたいのだ。それは、自分の部屋を綺麗にしておくというのと似ている。彼らが歩くトラックの網の目が大地全体にひろがっていて、かれらはそこの中で生きる。そして、踊る。 カスタネダの「ドン・ファン」を思い出した。南アメリカのネイティブ・アメリカンと世界を模索する白人の話だ。それは、大地を裸足で歩き続ける人間の世界観かもしれない。 そして、ジムは、絵を描く。彼はムックリを口にあてる。 そして、ジンはジムを連れて「シンディバード」に戻る。 新たな冒険が始まる。それは、また、新しい冒険だ。
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氷山や冷たい海、船の様子などがことこまかく描かれていて、行ったことがあるんじゃと思わされる。そのリアルな冷たさ、白さをずっと思い浮かべながら一気読み。 主人公の青年・ジンとその友人・ジム、ふたりの成長譚が柱なんだと思うけど、何を信じるかという宗教のことや、失われてしまった文化・生...
氷山や冷たい海、船の様子などがことこまかく描かれていて、行ったことがあるんじゃと思わされる。そのリアルな冷たさ、白さをずっと思い浮かべながら一気読み。 主人公の青年・ジンとその友人・ジム、ふたりの成長譚が柱なんだと思うけど、何を信じるかという宗教のことや、失われてしまった文化・生活スタイルを今どう捉えるかということ、などについて考えさせられる。
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灌漑対策として南極の氷一億トンを曳航しようという壮大なプロジェクト。 非常に読みごたえのある長編小説だった。 人類の生存のためにどこまで自然に手を加えていいのか? 何をやっても許されるのか? アボリジニ、またはアイシストの考え方、共感する箇所も あり興味深いものだった。 何度...
灌漑対策として南極の氷一億トンを曳航しようという壮大なプロジェクト。 非常に読みごたえのある長編小説だった。 人類の生存のためにどこまで自然に手を加えていいのか? 何をやっても許されるのか? アボリジニ、またはアイシストの考え方、共感する箇所も あり興味深いものだった。 何度も読み返してもっと深く考えを巡らせてみたい。 手元に置いておきたい一冊。
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いわゆる自分探しとか冒険譚ではあるのだけれど、そこには筆者の自然と文明に対する真摯さが滲みでている。 淡々としたプロットの中に、最近の著作にあるような、彼なりの思想と思索が込められている。そこには確実にメッセージがあって、我々に思索を促す。爽やかで、かつ優雅な思索。 ストーリ...
いわゆる自分探しとか冒険譚ではあるのだけれど、そこには筆者の自然と文明に対する真摯さが滲みでている。 淡々としたプロットの中に、最近の著作にあるような、彼なりの思想と思索が込められている。そこには確実にメッセージがあって、我々に思索を促す。爽やかで、かつ優雅な思索。 ストーリーとしては、水不足に悩む人類のために、難局から氷山を運んできて、利用するための船「シンディーバード」号に主人公が密航するところから始まる。(シンディーバードはシンドバッドのことだ) うまく紛れ込んだ主人公は、船内でパンを焼く仕事と、船内での情報共有のための新聞を作る仕事を得る。与えられた仕事を上手くこなし、信頼を得た主人公は、曳航する氷山で、貴重な隕石のかけらを発見する。 そこから、年上の生物学者との恋と数々の議論、アイシストと呼ばれる宗教団体との接触や、アボリジニの文化との交感、溶け行く氷山でのイニシエーション、そこでの神秘的な体験。 どれもが環境問題や、人類の作り上げた文明といったものへの批判が込められている。その辺、筆者の思想は固まっているのだろうが、判断については読者に委ねられるような結末となっている。(何となくふぬけた感じの終わり方のような気もするけれど) 重要なのは、その過程が充分に詩的であること。後半の隕石のくだりは、「スティルライフ」の夜空を見上げている時のような、ビジュアルで圧倒的な体験をもたらす。個々の視点を捨てて、大局的に想像すること。 こんな作家だから、安心して読んでいられる。
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ロマンティックな冒険小説。 主人公ジン・カイザワは北海道出身でアイヌの血をひいている。先住民族交換留学プログラムというのに参加して、ニュージーランドで高校生活を送る。高校卒業後、日本に戻らず、大学に行かず、働かず、納得できる道を探していたときに、オーストラリアから南極に向けて出...
ロマンティックな冒険小説。 主人公ジン・カイザワは北海道出身でアイヌの血をひいている。先住民族交換留学プログラムというのに参加して、ニュージーランドで高校生活を送る。高校卒業後、日本に戻らず、大学に行かず、働かず、納得できる道を探していたときに、オーストラリアから南極に向けて出港する船について知り、密航することになる。アラブの出資者に認められ、調理場でのパン焼きと船内新聞の制作というやりがいのある仕事も手に入れた。 航海途中で出港直前に知り合ったアボリジニの少年のもとへと向かう。オーストラリア内陸、砂漠のど真ん中でアボリジニの叡智を知る。 氷の上で子供だけで行う成人儀式。 アイシストとの創始者との出会い。 アイリーンとの恋。 環境テロリストによる計画失敗とアイシスト信奉者の存在。 いくつもの非日常的な出来事を重ねて少年は青年へと成長していく。 少年の中で世界は重なり合いつながっていく。少年を通して自分も世界とつながった気持ちになれたお話でした。
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池澤夏樹の氷山の南、やっと読了。ハードカバー で547頁...。 なかなか一気読みというわけにはいかず、少しず つ大切に読み進めた感じ。 南極の氷山をオーストラリアまで曳航するという プロジェクト。そのプロジェクトに密航という形 で関わることになった少年の話。 読んでみて、ネットって面白いけれど、やっぱり 本には敵わないなとしみじみ思った。 今回、この本を家事の合間や電車の中や病院の待 合室で読んできたのだけれど、何処にいても一旦 集中すれば気持ちは直ぐに南極へ...。 ちょっとアブナイ? でも、GoogleEARTHやYouTubeでは味わえない自 分だけのリアル感。 主役のジンという少年。 なにかアクシデントがあった時にそれを人のせい にするのって一番楽で一番狡い行動と思う。彼は じゃあ自分はなにができる?なにしよう?と自然 に考えることのできる強い人間だと思う。なん か、いいなあ。 この作品、もし映像化することがあれば、ぜひニ ノに演じて欲しい。切望します。
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南極の氷山を農業用水として利用する為に曳航する船シンディバード号に,密航者として乗り込んだアイヌの血を引く日本人ジンの冒険小説.中東の富豪によってサポートされている船には,生物学,材料工学,石油工学,機械工学等々のエキスパートが乗り込んでおり彼らの話を読んでいるだけでも,結構楽しい. 氷山曳航に批判的な,新興宗教団体アイシストを絡めて,氷山を動かしてまで文明を維持しようとする人間への批判や,アイシストが船に送り込んだと思われるスパイ探し等、ミステリーっぽい話もある. 印象に残ったのが,ジンがニュージーランドの高校でおしえられた「ノックは必ず3回以上して,ここに自分がいるという事を主張しなくてはならない」というくだり.本全体を通じて,ジンの超積極的でアグレッシブな人柄が好意的に描かれているけど,こういうのってあまり好きじゃないかな.
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南極の氷山を曳航、淡水を供給するプロジェクトに参加した少年の旅と冒険の物語。哲学、工学、国際資本、エコ等、様々な要素を折り込み、人と世界の関わりを描く。定住では無く動くことで見えるもの。認識することで立ち上がる世界。
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南極の氷山を曳航する船に密航者として乗り込んだ日本人の少年の心身の冒険譚。 池澤夏樹特有のしんとして平明な文章がこの物語の舞台であり小道具でもある圧倒的な低温、圧倒的な静寂を余すところなく描き出す。読者がそれを経験していると錯覚できるほど見事に。 ただ描かれるのは人間ではない。人...
南極の氷山を曳航する船に密航者として乗り込んだ日本人の少年の心身の冒険譚。 池澤夏樹特有のしんとして平明な文章がこの物語の舞台であり小道具でもある圧倒的な低温、圧倒的な静寂を余すところなく描き出す。読者がそれを経験していると錯覚できるほど見事に。 ただ描かれるのは人間ではない。人間ではないものを人間に託して語らせる手法が好きではないので、この小説は好きになれない。
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アイヌの血を引く少年ジンが南極海へ行く船で密航をはかる。その船、シンディバード号のプロジェクトは氷山を運んで水不足の地域に水を供給する実験。ジンは厨房の手伝いでパンを焼くことと、新聞の編集の仕事を得る。氷のように欲望や経済を冷やせという思想集団アイシスト、アボリジニで絵描きのジムとの出会い、成人儀式としての無言と断食、そのときに見た宇宙のビジョン。やはり宮内勝典の作品と通じるものがある。ジンとジムのその後を描いた続編が読みたい。
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