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「失われた20年」と日本経済 の商品レビュー

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2018/11/04

経済の専門家による、日本経済の失われた20年の分析結果を記したもの。学術論文と同じく脚注が詳細に記されており、計算式の導出や適用したデータの解説などが厳格に論述され、正確かつ論理的に話が進められている。経済の素人である私には難解であり、結論のみ参考とした。 「先進諸国の中で過去...

経済の専門家による、日本経済の失われた20年の分析結果を記したもの。学術論文と同じく脚注が詳細に記されており、計算式の導出や適用したデータの解説などが厳格に論述され、正確かつ論理的に話が進められている。経済の素人である私には難解であり、結論のみ参考とした。 「先進諸国の中で過去20年の日本ほど長期にわたる経済停滞を経験した国は極めて稀であり、欧米等先進諸国のまともな政府の多くは、危機に迅速に対応し大きな経済損失が生じないように全力を挙げていることを心に留める必要がある」ii 「民間の貯蓄超過は、事後的には、海外に融資される(経常収支黒字)か、政府に融資される(一般財政赤字)」p6 「国際マクロ経済学が教えるように、各国で有効需要が不足する状況で相手国通貨に対して自国通貨を割安に操作し、経常収支黒字を拡大することは、失業とデフレーションを輸出することを意味する」p9 「マクロ経済のバランスのため30%の実質為替レートの増価が必要な場合、これを実現するには名目為替レートの30%増価と、国内物価の30%上昇のどちらでも足りる」p10 「失われた20年において、民間貯蓄超過の大半は一般政府赤字の補填に注ぎ込まれてきた」p68 「日本の労働生産性水準は、米国をはじめとする欧米諸国よりまだまだ低い。1970年代までの日本は、高い労働生産性上昇を達成し、欧米諸国の水準にキャッチアップする過程を続けていたが、1990年代に入るとまだ大きな格差が残っているにもかかわらず、このキャッチアップが止まったことに問題がある」p70 「(中国の自国通貨安誘導)開放マクロ経済学の教科書によれば、そのような政策は国内物価の急上昇を引き起こし、異常な物価安(自国通貨安)は名目為替レートの騰貴ではなく、国内物価の上昇を通じて解消されるはずである」p78 「日本では非製造業を中心にICT投資が長期にわたって停滞してきた。ICT投資をしないためにICT革命の果実が得られないという、当然のことが起きたのである」p100 「日本におけるICT投資の停滞は、企業による労働者の訓練や組織の改編といった、いわゆる無形資産投資の問題と密接に関連していると考えられる。日本は企業の経済的競争力を強化する投資(組織改編への支出や労働者のOJTするための支出)が特に少ない」p142 「企業は雇用の柔軟性を保つためパートタイム労働者の比率を高めてきたが、多くの場合パートタイム労働者には熟練が蓄積されないため、日本全体としてみると人的資本の蓄積を著しく妨げている可能性が高い」p145 「大企業の手元にあり余る資金をいかに最終支出に結びつけるかは、日本の貯蓄超過と需要不足問題を解決する上でも重要な課題である」p192 「投資の面では、実質金利引下げにより投資を刺激するよりも、生産性上昇の加速や国内立地の優位性回復を通じて投資期待収益率を上昇させ、持続可能な設備投資拡大が行われる状況を作り出すことが重要と考えられる」p201 「企業がICT投資を行わないのは、組織改編や職業訓練を避けているためにICT投資の成果がもともと生じにくいことに起因している可能性が高い」p282

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2014/02/04

民間貯蓄超過は、自国通貨安と経常収支黒字拡大によって自国財の超過供給は解消される、はず。 供給側から見た日本の長期停滞=TFP上昇率の鈍化が原因 デフレ脱却は重要だが、それだけでは構造的な需要不足は解消しない。 生産性上昇を通じて投資の期待収益率を上げて、持続的な投資拡大を図...

民間貯蓄超過は、自国通貨安と経常収支黒字拡大によって自国財の超過供給は解消される、はず。 供給側から見た日本の長期停滞=TFP上昇率の鈍化が原因 デフレ脱却は重要だが、それだけでは構造的な需要不足は解消しない。 生産性上昇を通じて投資の期待収益率を上げて、持続的な投資拡大を図る必要がある。 日本のICT革命は、労働市場の硬直化と関係している。 雇用の硬直性のためにICT投資が広まらない。 大企業は、TFP上昇率は、5年程度で回復した。 中小企業の研究開発投資の少なさが、TFP上昇を妨げた。 トービンのq=株式市場で評価された企業の価値を資本の再取得価格で割った値として定義される トービンのqが上昇すると投資が増加し、トービンのqが下落すると投資が減少する ジブラの法則=所得をはじめとする経済変数は対数変換によって正規型になる場合が少なくない。フランスの統計学者ジブラR.Gibrat(1904‐ )は,対数正規分布で所得分布が近似できると1931年に提唱した。これをジブラ法則という。その検証は確率紙(半対数グラフ)を用いると容易である。横軸方向に対数で測った所得をとり,縦軸方向に累積人員比率をとったとき,直線が得られれば所得分布はジブラ法則を満たす。ジブラ法則は一般に,低所得階層でよくあてはまるものの,高所得階層にいたるとうまくあてはまらない例が多い 雇用増加はサービス業で、製造業は海外移転、建設業は公共事業の減少で、雇用が失われた。 大幅な金融緩和だけで設備投資促進を続けることは持続可能ではない。 ICT投資や無形資産投資によって、TFPを上昇させること。雇用の創出。

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2013/04/09

同じ結論を述べるのでも、これだけデータに基づいていると安定感が違うと感じさせられる。帯に記載がある通りの、これぞ学者さんの仕事!と感じる力作だと思います。 失われた20年の原因は、バブル後の金融政策の失敗や企業の疲弊によるのでなく、根本的には1970年代に始まる需要不足にあるとい...

同じ結論を述べるのでも、これだけデータに基づいていると安定感が違うと感じさせられる。帯に記載がある通りの、これぞ学者さんの仕事!と感じる力作だと思います。 失われた20年の原因は、バブル後の金融政策の失敗や企業の疲弊によるのでなく、根本的には1970年代に始まる需要不足にあるという点をスタートに、実際に何が起きていたのかをデータに基づき示してくれます。 単に”私はこう思う”ということを羅列した経済評論と比較すると、これからの政策を考える上ではもちろん、一般の読者が考えのよりどころにするための基盤としての安心感があると思います。

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2012/12/30

 経済学の書は、やたら難しくわかりにくいか、断言している割には根拠がよくわからない本が多い中で、本書は、専門的でありながら一般にもわかりやすく説得力もある素晴らしい本であると思えた。  日本経済が「失われた20年」に陥っていることは誰しもが認めるところだが、その原因や内容について...

 経済学の書は、やたら難しくわかりにくいか、断言している割には根拠がよくわからない本が多い中で、本書は、専門的でありながら一般にもわかりやすく説得力もある素晴らしい本であると思えた。  日本経済が「失われた20年」に陥っていることは誰しもが認めるところだが、その原因や内容について社会に深い考察や広い合意があるようには思えない。  本書はその原因を「貯蓄超過」「需要」「供給」と専門的ではあるが、一般にもわかるような内容を展開している。  「国民経済」は、当然我々が知っている「家庭の経済」とまったく違うものなのだろうが、個人では美徳である「貯蓄超過」が国家的規模になると「需要側」「供給側」にこのような大きな影響をもたらしているとは驚く。  また、「供給側」である「成長会計」による分析と考察は、日本経済が抱えている本質的な構造をわかりやすく教えてくれる。  「労働生産性で見ると、日米格差が最も大きいのは一次産業・公益・建設で米国の三分の一程度しかない。その他の製造業でも米国の半分程度であり、最も格差の小さい製造業でも米国の7割程度に過ぎない」とは驚きである。  本書では、この米国との労働生産性の差を「情報通信技術(ICT)革命)に成功した米国」との違いと指摘しているが、はじめて知った。  本書によると「日本の労働生産性」は「米国」の6割以下だそうだが、これはキャッチアップできれば日本経済は苦境から脱出できると考えるべきか、日本は米国と違い「労働生産性」を向上できない多くの社会的構造を抱えていると考えるべきなのか。  また、本書によると「労働投入の減少の原因」として「週48時間労働から週40時間労働(週休二日制)」や「パートタイム労働者の増加」と考察している。このような「労働条件の変化」が「失われた20年」の原因の一つとは驚きである。  もちろん、本書の様々な論証の「数式」は全く理解できないし、多岐にわたる項目を総合的に全て理解することは難しいが、本書の主張と主要な論点はよくわかる。  日本経済は、「民間貯蓄超過」という特性を1970年代以降継続的に持っており、その負の影響が様々あり、基本的には「需要不足」の構造があったところに、「供給側」の「TFP(全要素生産性)の低下」により、「失われた20年」に陥ったということなのだろう。  そうなると、本書の「停滞脱出への方策」はわかり易い。「日本の生産性を改善」するための「ICT(情報通信技術)投資」、労働者の生産性を上げるための「オフ・ザ・ジョブトレーニング」。「雇用の流動性を高めるための労働市場改革」、「正規労働とパート労働間の不公正な格差をなくす」など、どれも説得力がある。  最近の安倍政権は「アベノミクス」でマスコミを席巻しているが、どう考えても「日銀が輪転機でお札をすれば日本経済は再生する」とは思えない。 日本経済が抱える問題が「需要側」「供給側」全てに多くの構造的問題と課題を抱えている以上、安倍政権の取り組みはどう見ても成功しそうにはないのではないか。  今、一番日本経済にとって必要なのは、過去と現在を冷静に考察することであり、その意味からも本書を高く評価したい。少なくともここ一年間に読んだ多くの経済書の中で本書が一番説得力があり、読後にまた読み直してしまった。すごい本である。

Posted byブクログ

2012/06/24

1980年代から企業のICT投資と生産性について、製造業、非製造業のセグメントで分析をしている。その結果、製造業では90~95年にかけて生産性が上がらなかったが、その後は生産性が上がったが、投資が抑制されて内部留保されて景気が停滞したということだ。また、企業の年齢(創立からの年数...

1980年代から企業のICT投資と生産性について、製造業、非製造業のセグメントで分析をしている。その結果、製造業では90~95年にかけて生産性が上がらなかったが、その後は生産性が上がったが、投資が抑制されて内部留保されて景気が停滞したということだ。また、企業の年齢(創立からの年数)が若い会社は新しい仕事を創り出すが、10年を過ぎると喪失する仕事も増えている。これらが多くのデータにより裏付けられ、説明されている点で、非常に説得力のある説明になっているのが特徴である。 ただし、数式もたくさん出てくるので、すべてを追いかけるには専門家でないと難しいかも。プロセスを飛ばして結論だけ読んでも良いと思います。

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