とにかくうちに帰ります の商品レビュー
深夜のまったりドラマ枠でやっていそうなお仕事小説。 ひとつひとつは些細なものだが、どこか身近に感じてしまう内容で、共感性が高い。 主人公の心情表現もリアルで、かつ少しだけコミカルで、面白い。 読了後は、「で?」となるかもしれないが、共感こそが本作の魅力に思う。 タイトルでもあ...
深夜のまったりドラマ枠でやっていそうなお仕事小説。 ひとつひとつは些細なものだが、どこか身近に感じてしまう内容で、共感性が高い。 主人公の心情表現もリアルで、かつ少しだけコミカルで、面白い。 読了後は、「で?」となるかもしれないが、共感こそが本作の魅力に思う。 タイトルでもある「とにかくうちに帰ります」は、本書の後半。 大雨になるがどうしても帰りたい、というもので、それ自体で一つのエピソード。 本書の前半はそれとは関係ないこまごましたお仕事短編で、むしろそちらの方が、楽しめた。 そのため、ややタイトル負けしている印象。
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『ブラックボックス』、『ハラスメント、ネグレクト』、『ブラックホール』、『小規模なパンデミック』、『バリローチェのファン・カルロス・モリーナ』、『とにかくうちに帰ります』の6作品が収録された本作。 前半4つは10ページほどの超短編小説で、バリローチェは40ページほど。こちらの5...
『ブラックボックス』、『ハラスメント、ネグレクト』、『ブラックホール』、『小規模なパンデミック』、『バリローチェのファン・カルロス・モリーナ』、『とにかくうちに帰ります』の6作品が収録された本作。 前半4つは10ページほどの超短編小説で、バリローチェは40ページほど。こちらの5つはチェーンストーリーのようになっていて、変化する主人公の視点から、それぞれの登場人物の雰囲気が掴めるのが、読んでいて楽しい。 お気に入りは、『ブラックボックス』。 P.10 田上さんのこみいった時間管理は、自分の仕事に対するブランディングなのではないか、という話になった。社内の男連中が、田上さんの仕事を、誰にでもできる字を書くだけのもの、と侮っていることは、彼らの言葉の端々から伝わってきており、馬鹿だな、と私は思うのだけど、田上さんは、入社以来培った仕事の精度を見せびらかさず、能力によって実現できる正確さを、時間によってのものであると装うことによって、自分の仕事がある程度は困難なものであると周囲に思わせているのではないか、と。要するに、十五分でできることを一時間かかると見せかけて、これは簡単な仕事ではないんだよ、おまえたちはちゃんとありがたがれよ、と主張しているのではないか、ということだ。 田上さんの強かさ。不誠実さには適度な不誠実さで答え、誠実さに対しては全力を尽くす、一貫性。結構かっこいい。 表題作の『とにかく~』は、災害級の暴風雨により、勤務先(あるいは学習塾)のある埋立洲から歩いて帰ることを余儀なくされた会社員3人と小学生1人の会話を中心に展開される物語。 P.154 「友だちからきいたんだけど、嵐山光三郎が、エッセイの中で、台風中継はエロいって言ってたんだって」ハラは声をひそめながら話す。聞こえていようといまいともうどうだっていい。 「女子アナの透明なレインコートが、風で体に張り付く様がいいんだって。なんかそれはわかると思った」 ストーリーのなかに散りばめられる、どうでもいい会話が大好物なのでこのシーンは妙にぐっと来てしまった。 また、津村さんがフィギュア好きとウィキペディアに書いてあったけれど、『バリローチェ~』でそれが垣間見えたのが嬉しかった。 セイロンのウバとか、ペリカーノジュニアとか、ニュルンベルクのフィギュア選手とか、作者の趣味であろう二ッチな知識が作品に滲み出てくるのが、たまらない。
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職場で語られる当人同士だけが盛り上がれる会話がこぼれ落ちてきて臨場感ありありのストレスを追体験できたりで2倍疲れてしまいました。 でも無視できなくて気になって聞き耳立てたくなる誘惑には逆らえない感じです。 いますよね、心の声がダダ洩れで独り言いいながら作業してる人とか・・ 貧乏ゆ...
職場で語られる当人同士だけが盛り上がれる会話がこぼれ落ちてきて臨場感ありありのストレスを追体験できたりで2倍疲れてしまいました。 でも無視できなくて気になって聞き耳立てたくなる誘惑には逆らえない感じです。 いますよね、心の声がダダ洩れで独り言いいながら作業してる人とか・・ 貧乏ゆすりする人とか・・ ペン回したりする人とか・・ 気になりだしたら集中できなくって 主人公の鳥飼早智子も結構に変人だったりで、こだわりあったりするのですが仕事の要領は悪そうで、職場の人間観察するのがストレス解消になってるような種族で共感します。 作中出てくる万年筆のペリカーノジュニアが欲しくなってしまってAmazonチェックしたら右利き用と左利き用とかあるようでどう違うのか興味でてきちゃった。 そうゆう心に浮かぶ雑多な事ってパッときてグットきたら優先順位とか関係なく夢中になったりで、そんな挙動不審な心地よいイライラを躊躇うことなくダラダラ表現できる津村さんってやたらすごいと寒心しきりなんです。 読みやすい文章は漢字とひらがなが適度な配合で書かれたものなんですが、漢字バリバリ、カタカナ増し増し、ひらがなひかえめな、通がラーメン注文する時の呪文のような文章になると読みづらさを感じて耐えられなくなるのですが、リアルではそんな呪文で注文してる客をみたことないし都市伝説か超常現象のように感じてます。もっとも食事には静けさを求める私としては威勢いい声が轟くようなお店は怯んでしまい入れないですけどね。 アルゼンチンのフィギュア選手でファン・カルロス・モリーナとかいう人の話題が出てきた時は興味がなかったのにグイグイ惹き込まれてしまいました。城之内さんとゆう職場の先輩には決してこの人の話題は出さないようにしてるとことか。あるあるネタのように愉しめました。彼女が贔屓にしてる選手やチームは大事なところでダメになっちゃうとゆうジンクスがあるようでそこ等へんの件は面白かった。すごくニッチでどうでもいい事なんだけど暇を潰すにはかけがえのない拘りだったりでリアルすぎでした。 本のタイトルの「とにかくうちに帰ります」よりも前半の連作短編の方が面白かったです。
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「職場の作法」は別の本で読んでしまったので、「バリローチェのファン・カルロス・モリーナ」「とにかくうちに帰ります」をこちらで読了。津村さんは、スポーツ観るのも好きなのかな、別の本でも海外のスポーツ選手やゴシップを絡めたお話読んだ気がする。この、なんか、離れてるのに近い感じが、いい...
「職場の作法」は別の本で読んでしまったので、「バリローチェのファン・カルロス・モリーナ」「とにかくうちに帰ります」をこちらで読了。津村さんは、スポーツ観るのも好きなのかな、別の本でも海外のスポーツ選手やゴシップを絡めたお話読んだ気がする。この、なんか、離れてるのに近い感じが、いいのよね。モニターや媒体を通して見てる現実の別世界と自分の現実世界がどうしてこんなにうまくハマるのかよく分からないけど、着地点である自分の現実世界が色味を増すというか、灯りに照らされるというか。 「とにかくうちに帰ります」を読んで、あー、そーいや新卒で入社した会社に勤めてたとき、天候不良で早退けしたな、とか思い出すのだけれども、今はコロナ禍からほぼ完全リモートが続いてる職で、ほぼ家にいる身としては、共感するのに当時の感覚を思い出す必要があり…。読んでる今夜がしっかり雨降ってて、それは良かった。おかげで雨音を聞きながらこのお話を読めたから。
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地図の編纂室かどこかの職場で事務として働く女性のお仕事短編集。 仕事も出来て感じの良い同僚が書き留めているノートが気になったり、インフルエンザが職場で流行ったり、大切な文具を上司に持っていかれちゃったり。表題作は台風なみの大雨で会社から家に帰れなくなってしまった男女それぞれのお...
地図の編纂室かどこかの職場で事務として働く女性のお仕事短編集。 仕事も出来て感じの良い同僚が書き留めているノートが気になったり、インフルエンザが職場で流行ったり、大切な文具を上司に持っていかれちゃったり。表題作は台風なみの大雨で会社から家に帰れなくなってしまった男女それぞれのお話。 私はこの作者の作品が合わないらしく、今までも何冊か読んだけどいまいち面白いと思わなくて作者に申し訳ない。細かい感情の描写はけっこう共感できるんだけどな…
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’21年9月5日、読了。津村記久子さん、2作目。 とても、良かったです。楽しんで、読みました。 「職場の作法」、「バリローチェのフアン・カルロス・モリーナ」、「とにかくうちに帰ります」の3作を収録ですが…表題作が、一番好きかな…。 「職場〜」「バリローチェ〜」の2作は、登場...
’21年9月5日、読了。津村記久子さん、2作目。 とても、良かったです。楽しんで、読みました。 「職場の作法」、「バリローチェのフアン・カルロス・モリーナ」、「とにかくうちに帰ります」の3作を収録ですが…表題作が、一番好きかな…。 「職場〜」「バリローチェ〜」の2作は、登場人物が同じだったので、「とにかく〜」もかな、と思って読み始めたら、これだけ違う話で、ちょっと違和感が(どうせなら同じにして、連作短編集にすればいいのに、なんて思いました)。でも、読んでいくうちに、不思議な緊迫感(!)を感じ、かなり集中して読んでしまいました。 大雨の中を、登場人物達がなんとか帰宅しようとする話なのですが…遭難するのでは?なんて、考えてました。そして、若い頃、新聞配達のバイトをしてた時の事を、思い出しました。 台風直撃の最中、配達をした時の事を…。 新聞を濡らさないように、できるだけ時間指定も守って…なんて焦りながらやってましたが、途中から義務も何も、全部ぶっ飛んでしまい、妙にハイ・テンションになった時の感覚…意識があるのかないのかも、分からなくなり…最後の方は、笑いながら(???)配達してました。その時の感覚が、脳裏に浮かんできました。死に際に、走馬燈を見たような感じ…。 登場人物達の、体力消耗や、不安、何かに&何にでも縋りたい、という思い…とても、共感しました。それでも人を助けたい、という思いも。 3作とも、「働きながら生きていく人達への、エール」と、僕には感じられました。 感想がちょっと長くなりましたが…僕にとって、とても印象深い作品になりました。津村さんに、感謝!
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毎日残業続きでまじで家に帰りたいなと思ってた時に目があって読みました。 職場の作法は、本当になんというか共感するところが多くて笑ったり頷いたりしながら読みました。 あと、ペリカーノとフィギュアの選手はついネットで調べてしまいました。買ってしまいそうペリカーノジュニア。 津村...
毎日残業続きでまじで家に帰りたいなと思ってた時に目があって読みました。 職場の作法は、本当になんというか共感するところが多くて笑ったり頷いたりしながら読みました。 あと、ペリカーノとフィギュアの選手はついネットで調べてしまいました。買ってしまいそうペリカーノジュニア。 津村さんの描く職場がリアルすぎて共感が止まらないので他のも読みたいなぁ。
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
『職場の作法』(連作短編 4作) 『バリローチェのフアン・カルロス・モリーナ』 『とにかくうちに帰ります』(表題作) の3つ(正確には6つ)の物語。 『職場の作法』と『バリローチェ〜』は登場人物が同じ。主人公と同僚たちのやり取り、主人公の目を通した同僚たちの人柄や仕事ぶり。 びっくりするくらい、何も事件が起こらない。これで小説になるの?!というくらい、何事も起こらない。 でも、何故か引き込まれて一気に読んでしまいました。どのエピソードも「わかる〜」「こんな人いるよね〜」の連続。特に「自分がテレビスポーツ観戦をすると、応援しているチームが負ける」とか「他の人が間違って持っていってしまった文具が、巡り巡って自分のところに戻ってきた」とか、自分にも経験があってすごく共感できた。 『とにかくうちに〜』はちょっとだけ非日常的なエピソード。でも、誰にでも起こり得る内容。豪雨で交通手段がなくなって、ずぶ濡れになりながら歩いて帰る人たちの物語。 どうしても帰りたい理由は、深刻なものから、側から見ればくだらないものまで、いろいろ。でも、雨に体力を奪われるにつれて、「とにかく家に帰って、濡れた服を脱いでくつろぎたい!」が一番の理由になる。 自分の家で、温かい部屋で温かいコーヒーを飲みながら読んでいるのに、登場人物たちと同じ気持ちになって「お風呂で温まって、布団にくるまって眠りたい!」と思ってしまった。
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いるよねーこんな人。最初から凄くリアルだった。うなずく描写も多々あった。だから何❓と自身に問うた時、琴線に触れなかった事に気づいた。
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「つくづく誰もが普通の人で、悪くもなりきれないし冷徹にもなりきれない。面白くないけど、良くないことでもないのかもしれない。」(16 ページ) さまざまな個性と背景を持つ働く人々。 そんな人達に揉まれながら、 人の暖かみを感じ、面白さを垣間見る一コマ。
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