男と点と線 の商品レビュー
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あとがきにも書いてあった通り、この作家の書く物語、言葉選びのセンスはすごい。東京の話とか、名文製造機か?と思った。 フランス映画みたあとみたいな感じの読後感。あとを引く物語が多いなーと思う。 この本じゃないけど、人のセックスを笑うなと一緒になってた虫歯の話とかも、折に触れて思い出すし。 今回の短編も、とくに邂逅と、膨張の話はきっと今後も私の中に残り続けていく予感がしている。パリの話も良かった!
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違う国で起きた6つの物語集。 なんだけど、国が違うことはあとがきを読んでから気付いた。笑 外国を舞台にした話って妙に気取っていたり、優雅で羨ましいと思う反面、心がささくれだっている時は鼻で笑いたくなるような、若干の片腹痛さがあることが多い。 けれども、ゆるやかに飾らない言葉で...
違う国で起きた6つの物語集。 なんだけど、国が違うことはあとがきを読んでから気付いた。笑 外国を舞台にした話って妙に気取っていたり、優雅で羨ましいと思う反面、心がささくれだっている時は鼻で笑いたくなるような、若干の片腹痛さがあることが多い。 けれども、ゆるやかに飾らない言葉で綴られたナオコーラさんの小説は、あまりにも身近だ。だからこそ、外国が遠い世界のお話ではないような錯覚に陥る。 外国外国と言ってしまったが、6作品のうちのひとつ「膨張する話」は、唯一日本を舞台にした話で、そして私のいちばんのお気に入りだったりする。 高校3年生。2年付き合っている恋人とは一度キスをしたことがあるだけという、可愛いふたりなのだが、性に対する男子の興味と、照れからぶっきらぼうになる女子が、また違った意味で可愛い。 「なんか、顔が、…変だよ」(略) 「ごめん。お腹が痛くなってきたんだよね」(略) 「今日さ、久しぶりに海藤さんに会ったからさ、ずっと勃起してたんだよ」 「は?」 オレは面白いと思って言ったのに、海藤さんは真面目な顔をして聞いている。 「でも我慢しなきゃ、と思っていたらさ、今、お腹が痛くなってきた」 「そういうものなの?」 (略) 「もしセックスしたら、二人でもっと、いろんなことを話せるようになるよね」 と、オレは、木を見上げたまま、眉間にシワを寄せて、しんみり言った。 「いろんなこと?」 と海藤さんは聞く。 「ちんこの話とか」 「そんな話、したくない」 馬鹿げている。馬鹿馬鹿しくて素晴らしい。ああいいな。こういう会話、してるんだろうな、と思うと可愛い、高校生。 表題作の「男と点と線」もすごく良かった。 みんなが良いと思う相手を良いと思ってしまう自分がイヤで、斜に構えてムシしたりしていた男が、中年になり、ようやく純粋に相手を好きでいようと決意する話。 相手を好きだと思うことは、自分を低くすることなのだ。相手に優しくする権利が自分にあるというだけで、嬉しいことなのだ。 好きでいさせてくれるだけで、ありがたい。 さおりには何も求めない。さおりの周りにいる人間を、全員尊重する。そして、こそっと好きでいるのだ。さおりが喜ぶようなことを、少しでもできるようにする。対等でなくていい。大事にされなくていい。カップルになれなくていい。愛したい。見上げたい。惚れ込みたい。応援したい。 俺はこれからも、さおりと会う時はずっと、「あなたが大好きだ」という顔をして、一秒、一秒、見つめようと思っている。 純粋に誰かを好きでいることは、素敵だなあ。相手にわかる方法で、好きな気持ちを伝えられたら、と思ったし、伝えてほしいと思った。
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慧眼(けいがん:物事の本質を鋭く見抜く力)(2006) 夫婦の生き方。 長い目でコツコツと生きてる妻のマリエさん。 誰もが、これから先の人生なんて保証はない。 ただ、欲望や希望でその保証を作っていくのかな。 この先不安だけど、この人と居れば大丈夫な気がするし、大丈夫にな...
慧眼(けいがん:物事の本質を鋭く見抜く力)(2006) 夫婦の生き方。 長い目でコツコツと生きてる妻のマリエさん。 誰もが、これから先の人生なんて保証はない。 ただ、欲望や希望でその保証を作っていくのかな。 この先不安だけど、この人と居れば大丈夫な気がするし、大丈夫になるようになさる自分も居る。 妻さんが「スピード狂」というシャープペンシルで描いた絵は一体どんなのかしらー? スカートのすそをふんで歩く女(2009) 最後の三行がすっごい悲しい。 なんかわかる気がします。 ひとに求めることは、基本信じちゃいけない気がします。私は。 それに永遠っていうものがないし、 詰め込んで詰め込んで、満杯にして人を完璧に信じてはいけない。 なぜなら、よくある、信じてたのに、そうじゃなかったときの反動がすごいからです。 でも、信じないと、まず日常から生きて行けないから、 私は世界に一人しかいない人間だけど、世界に一人しかいない人間じゃないから。 でも、私は日々何かを信じてることは確かです。 あれーこれはなんか「矛盾」ってやつかな。 信じれない分、自分で何か、自分とそのものが一対になれるものを作って、 それを生き甲斐にして、生きて生きたい。 生きて行かなきゃ、信用なんて言葉を超えてる、家族がこの世界に居なくなったとき、 自分がしっかり入れなくなる気がするから。 邂逅(かいこい:偶然の出逢い)(2008) すっごい不思議な物語。 一瞬のうちに、人間以外の誰かも引き出した出来事が起きてた。 きれいだった。 膨張する話(2006) 少年と男性の狭間?にいる弓削田くんの、男生物全開なのが面白かった。 男と女は違う前に、 私とあなた、みんな一人一人違うのに、 訳わからなくなると、男とか女とか大人とか、そんなふうにひとくくりにしちゃうのね。 男と点と線(2008) こんなにこんなに、この人を愛そうと思って、 こんなに大切に出来る人なんて、素敵だと思った。 でも、それには、もうほかの人には作れない、 二人が作った、長年の距離があるからなのかな? この物語の先では、本当に距離が縮まってればいいな。 物語の完結(2008) あんまり安心して一緒に居れなくて、そんな雰囲気を感じるときに思う、 ヤマダさんの気持ちがすっごいわかったけど、 だんだん読んでたら、あまりにも同じことを気にしすぎるから、 もう考えるのここでストップしようよ! 逆にこんなに不安を抱くと、相手にちょっと悪いかもよ!って、思った。 客観的に観るってことは、本当に大切だ。 昨日、スムーズにいかなくて、いっぺんにイライラしている「女性」をいっぱいみた。 私もてんやわんやて、顔もどんよりしてたと思うけど、 そんな中見た、イライラしてる人を見たとき、 なーんか、イライラってマイナスだね。 すっごい可愛い子が、笑顔で、いいですよーって言ってくれた子もいたけど、 なんだかんだ言って、颯爽と帰って行った。 接客業って一瞬な時間な気がして、 その一瞬の人との関わりで、いろんな心情が爆発することがあるのね。 そうゆうぶつかりもあって、築けるものならいいけど、 その爆発が一瞬で始まって一瞬で終わる。 だから、私には無理だし、無理にしたいのだ。 喜怒哀楽を見れるのってありがたいことなのね。 謙虚なことは、自分を客観的に見ることでもあるから、 謙虚ってことは大切ですよ。って美容師さんが教えてくれたんだった。 ありがとうございます。
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もやもやと感じていることを、飾り過ぎないことばで表してくれる。自分が感じたことをうれしく思う。 ああ、その感情は知っている、と思わせる文章に出会えた。 異国の情景、交わらない男女のつながり。 本の中に日常と旅があった。
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なんだかいまいち、と思っていたけど表題作が良かったので星四つ。 あとがきにあるように人生をテーマにせず、女性と男性のその時の気持ちの動き方を丁寧に描きとめる。年齢も性別も様々で、NYや上海やパリの情景と男女のありふれた、でも繊細な言葉が良かった。
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登場人物の近くにいるように物語が進む感覚。とても読んでいて気持ちよかった。 友達に紹介したくなる。 また読もう!
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慧眼…このマシュマロのような柔らかさが生き延びる知恵。 スカートのすそをふんで歩く女…かなり異質な関係のはずなんだけど友達として自然に繋がっている。 邂逅…これって酔っ払いながら書いたのかな?この破天荒なファンタシーに驚いた。 膨張する話…どこにも行き着かない、平行線がどこまでも...
慧眼…このマシュマロのような柔らかさが生き延びる知恵。 スカートのすそをふんで歩く女…かなり異質な関係のはずなんだけど友達として自然に繋がっている。 邂逅…これって酔っ払いながら書いたのかな?この破天荒なファンタシーに驚いた。 膨張する話…どこにも行き着かない、平行線がどこまでも伸びているような。 男と点と線…評価はこの作品。この感覚すごくわかる。幸せとはこうあるべきという価値観の押し付けはいらない。幸せは一人一人違うのだから。 物語の完結…どことなく漂う自由な風を感じる。
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胃潰瘍で仕事を辞め、喫茶店をたたみ、マレーシアはクアラルンプールで甥のコーヒー屋を手伝う、68歳老夫婦の「慧眼」 同じサークルの仲のいい男子3人と卒業旅行で、フランスはパリに行き、男の子になって人生を謳歌したいと思う、22歳女子大生「スカートのすそをふんで歩く女」 出張先の上海で取引先の美しい若社長の姉が失踪し、彼女の足跡を一緒にたどっていく、32歳会社員「邂逅」 受験勉強の合間に真面目な彼女と水族館に行き、お互いのエロの相違を話し合う、17歳男子高校生「膨張する話」 幼なじみのさおりと娘の亜衣と一緒にNYに行き、彼女を好きだと再確認する、42歳独身男性「男と点と線」 友達と一緒に、友達の彼氏がお世話になったアルゼンチンの、日本人向けの栗本山荘を訪ねる、女性小説家「物語の完結」 文芸誌以外でナオコーラさんの本は初めて読んだが、 これはいい文章。 特殊ではない人の特殊でない体験を通じて、共感できる感覚・新奇な感覚を過剰でなく齎してくれる。 そのひとつひとつがじんと馴染む。 いい本を読んだ。
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”私は自分の人生が嫌いだ。自分に集中する事無く、世界を見て回りたい。” と作者が最後に言っているのですが。 なるほどそのとうり。私もです。 全体的に漂う、小気味よい捻くれと、ユニークは、こういうところからきてるのかなと思いました。 重くなく、物語はすらりと自分の中に入ってくる...
”私は自分の人生が嫌いだ。自分に集中する事無く、世界を見て回りたい。” と作者が最後に言っているのですが。 なるほどそのとうり。私もです。 全体的に漂う、小気味よい捻くれと、ユニークは、こういうところからきてるのかなと思いました。 重くなく、物語はすらりと自分の中に入ってくる短編集はあっという間に読めます。 信じていた、信じていたというよりこういうもんだと現状を安心しきっていた女性が あ、違うだ、、と現実を突きつけられ目がさめる場面があのですが。 ”まじか、、”とショックでもあり、 ”いい気味だ、”と痛快でもありました。
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結婚していてもしなくても、紆余曲折がありながら同じ一人の人を「一生そっと好きでいる」って本当に凄いことだと思う。そういう意味で「慧眼」と表題作は、外部からの刺激に常に揺さぶられる頼りない人の心がこんなにも強く果てへ広がっていけるのかと眩しい気持ちでいっぱいになる。決意した姿は清々...
結婚していてもしなくても、紆余曲折がありながら同じ一人の人を「一生そっと好きでいる」って本当に凄いことだと思う。そういう意味で「慧眼」と表題作は、外部からの刺激に常に揺さぶられる頼りない人の心がこんなにも強く果てへ広がっていけるのかと眩しい気持ちでいっぱいになる。決意した姿は清々しい。 「慧眼」のクニヤスさんとマリエさんの何気ない夫婦の距離感もよかった。
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