からのゆりかご の商品レビュー
離れ離れになったある一つの家族を再会させたい、というだけの思いで調査をしていた著者は、やがてそうとは知らず英国最大のスキャンダルの渦中に飛び込んでいくことになる。逆境に打ちのめされそうになりながらも、家族の支えと強い信念によって多くの家族を引き合わせた女性の、活動記録である。
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非常に読み応えがあった。 誠実さがどれほどのものを遂げられるかということを見せてもらった印象。 しかし、戦後の日本でも同じような話があっても驚かないな…。
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19世紀の終わりから1960年代まで、オーストラリアをはじめとする連邦各地にイギリスから移民として送られた児童たちがいた。 忘れられていた児童移民たちの事実を掘り起こし、世論を動かすきっかけをつくった人の手記。 ソーシャルワーカーである著者は養子に関心をもっていたこともあり、た...
19世紀の終わりから1960年代まで、オーストラリアをはじめとする連邦各地にイギリスから移民として送られた児童たちがいた。 忘れられていた児童移民たちの事実を掘り起こし、世論を動かすきっかけをつくった人の手記。 ソーシャルワーカーである著者は養子に関心をもっていたこともあり、たまたま「オーストラリアへ行った子供とイギリスの親族」のことを知る。 そんなことがあるのか?→これは珍しいケースだろう→どうやら他にもたくさんいるらしい→これは国の政策だ。 離れ離れの家族を再開させるというだけのはずが、どんどんおおごとになっていく。 二つの大戦前後のイギリスには施設に入れられる子供がたくさんいた。 孤児もいないわけじゃないけれど、手元で育てる余裕がない親がいる子もいる。 帝国の植民地には白い人が足りない。じゃあ余ってる子供を送ればいいじゃない。 ということで、親の承諾どころか本人への説明すらなく世界各地に子供たちが送られた。 イギリスはずっと他国からほしいものを奪い、要らないものを押しつけてきたのか。国民でさえも。 著者は最初、聖職者による虐待にショックを受ける。善良なキリスト教徒として育ったからか。 この感覚はわかりにくい。(これはカトリック教会の性虐待が公になる前の出来事だからなおさらショックだったのかも) 信じていたものに裏切られたから余計に傷つくとか、色々の傷が一気に信仰という切り口から噴き出したということなのかな。 と思ったけれど、日本で言う教員の不祥事みたいな感じか? 虐待者を何事もなかったかのように他の教区に異動させるなど、カトリック教会ほか関係団体の無様な対応は学校の不誠実に似ている。 連れ去られた子供たちはアイデンティティがゆらぐ。つながりを断たれてしまう。 ローデシア(ジンバブエ)の話は特に、ルワンダを思い出した。 イギリスのスラムから賢い子を連れ出してエリート教育をほどこし、植民地の礎とする計画に合意して出国した子供たちの話。 彼らはアフリカで使用人を従えて王族のような暮らしを手に入れるけれど、イギリスにはもう戻れない。 イギリスでこの生活はできないし、生きるすべもない。 成功してさえも、根っこの部分をちぎられたような喪失感がある。 この悲惨な場所から連れ出してあげようという善意であっても、子供を連れ出すことは傷を作る。 カナダへの移民はオーストラリアよりも時期が古い分高齢化している。 カナダの人たちはもう親にあうには遅すぎるけれどせめて出自を知りたい。 けれどオーストラリアに間に合う人たちがいるときいて、自分よりも彼らを優先させてあげてくれという。 自分自身の「死ぬまでに」に間に合わないかもしれないのに、家族に再会できる人たちの時間の期限を思いやる。 この人たちも、決断しなきゃいけない著者もせつない。 古い記録の中にも、1940年代のオーストラリアの福祉監察官ら、子供たちの苦境を改善するよう要請するものがある。 これはつまり、当時にも児童移民のために闘った(そして敗れた)人たちがいたということだ。 その人たちは現状を何とかしたくて、できなかったけれど、その時の言葉が時を経て著者と大人になった移民の力になる。 遅すぎたけれど、無駄ではない。 今していることが今実らなくても、ずっと先で実るかもしれないというのは救いだ。 訳が古いのが気になる。最初の出版年が1997にしても古い。 ところどころ意味が違っていそうなのも気になる。「細部」が全体の意味で使われている気がするとか。 冒頭で登場したご婦人が「タイがまがっていてよ」とか言い出しそうな言葉遣いで、お嬢様育ちの老婦人かと思いきや教育機会さえ奪われた40代の児童移民だったので強烈な違和感を覚えた。 文章がちぐはぐなのは、ここで訳者が変わったんだろうな、と思ってしまう。 でも内容がいいのと、最後の訳者あとがきのまっとうさに打たれたのでマイナスというほどではない。
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15年前にこの本が翻訳されていたが、全く気づかなかった。Oranges and Sunshine という映画(数年前のオーストラリアの映画)で、本のタイトルも映画の題名になってしまったが、翻訳はそのままであった。映画に合わせて名前を変えてもよかったと思われる。戦後のオーストラリア...
15年前にこの本が翻訳されていたが、全く気づかなかった。Oranges and Sunshine という映画(数年前のオーストラリアの映画)で、本のタイトルも映画の題名になってしまったが、翻訳はそのままであった。映画に合わせて名前を変えてもよかったと思われる。戦後のオーストラリアへのイギリスの施設の子どもの移民である。白人至上主義がイギリスなのでそれほど強くかかれていないがアジア人の移民で埋まることを恐れた政府の方針もあろう。親がいてもオーストラリアに送られ、しかも教会で虐待されるとは。
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p.311の著者の夫の答えが素敵すぎる。大英帝国の負の遺産。本文p.363「温情主義、人種差別、宗教的熱狂、官僚主義が邪悪な同盟を結んで、このようの結果を産み出したのである」がこの問題の根本を端的に表している。訳者あとがきが、これまた秀逸。残留孤児や戦後の「ハーフ」たちの国際養子...
p.311の著者の夫の答えが素敵すぎる。大英帝国の負の遺産。本文p.363「温情主義、人種差別、宗教的熱狂、官僚主義が邪悪な同盟を結んで、このようの結果を産み出したのである」がこの問題の根本を端的に表している。訳者あとがきが、これまた秀逸。残留孤児や戦後の「ハーフ」たちの国際養子縁組のことを一切考えられなかった、自分の思考の浅さを恥じた。
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団士郎先生からのおすすめ。 1967年までイギリスで行われていた児童移民制度を追ったソーシャルワーカーによるルポ。
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