道化師の蝶 の商品レビュー
表題作が芥川賞受賞作品ということで読んでみた。本書は表題作を含む2作品からなる。円城塔の作品は、わざと主題にからむことを省略することで、読者にいろいろ考えてもらおうとしているのではないかと感じた。もしそうだとしたら、読者に教養を提供しているのかもしれないが、読みにくくなっているの...
表題作が芥川賞受賞作品ということで読んでみた。本書は表題作を含む2作品からなる。円城塔の作品は、わざと主題にからむことを省略することで、読者にいろいろ考えてもらおうとしているのではないかと感じた。もしそうだとしたら、読者に教養を提供しているのかもしれないが、読みにくくなっているのも事実。慣れれば作者の意図を理解しやすくなるのだろうが、理解する前に挫折するケースも多いと思う。読み手を限定してしまうのは少し残念ではある。 以下、個別の作品の感想。 ◎道化師の蝶 不思議な物語。きちんと理解したわけではないので私個人の解釈であるが、“わたし”が、様々な視点だったり人物というかオブジェクトになるので、なかなかわかりづらい。例えるなら、宇宙から地球を見ていたのが、視点がぐっと日本に近づき、東京の街を歩いている人が見え、その人の体内に忍び込むかのように“わたし”が動いているようだ。そのようなズームインとズームアウトを繰り返しながら日本と米国を往復するかのような動きも加わった感じがする。私の書いていることをわけが分からないと思うだろうが、わけが分からないのを表現したのだから、わけが分からないのは仕方がないと思う。と同時に、このわけが分からないレビューを読んで共感している人もいらっしゃると思う。また、蝶は“わたし”であり、“わたし”が追っているもの(対象)でもある。存在が確定していない蝶ではあるが、それが“わたし”の正体なのだと思った。 ◎松ノ枝の記 こちらはまだ読みやすい。表題作と比較してのことではあるけれど。私と、私が訳した作品の作者、私とやり取りする彼女の存在を整理できれば、この作品を楽しめると思う。主題は別のところにあるのかもしれないが、私の読解力で分かったのはこの程度。もっと精進が必要だと思いました。
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以前読んでいてついていけなくなって途中で断念したので、リベンジしてみた。二篇とも言葉と歴史、人の記憶が絡んで展開していくのだけど、全部理解しきれなくて、でもなんだか面白いものを読んでいる気はしていて楽しかった。
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ストーリーより表現の形を試したような作品ですが、この手の作品の需要はあるのでしょうか。芥川賞作品だからそれなりの評価はあるようですが。多分、後からじわじわ来るものがあるのかと思います。著者のコメントを読んでいると感覚より理論を重視されている方なのかなと感じました。
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すてきな本でした。 独特の香りがして、もやがかかったようで、 それがすごくいい。 もはや理解しようとは思わないし、 ただ、浸っていたいと思う文でした。 何度か読み返したいです
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本来はひとつの記憶?意識?でも、異なる時間と場所にそれはあって…。考えながら迷いながら読みました。正直、よくわからないけれど印象深い作品ですね。
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“屹度、そんな内容を話しているのだ。ほとんどそれは言葉というより、手芸につきものの一種の儀式をなしている。多くの国で、同じ内容が語られ続ける。理解するのに言葉が必要なくなるほどに。わたしはお婆さんの手元を注視しながら、言葉に耳を傾けている。何を言っているかはわかるのに、音の意味は...
“屹度、そんな内容を話しているのだ。ほとんどそれは言葉というより、手芸につきものの一種の儀式をなしている。多くの国で、同じ内容が語られ続ける。理解するのに言葉が必要なくなるほどに。わたしはお婆さんの手元を注視しながら、言葉に耳を傾けている。何を言っているかはわかるのに、音の意味はわからない。聞いたなりにそのまま返し、お婆さんの手が止まる。 おやおや。と皺の間の目が開く。 おやおや、わたしゃあんたに言葉も教えなけりゃならないのかい。 おやおや、わたしゃあんたに言葉も教えなけりゃならないのかい。 わたしも真似して二人で笑う。 「あんた一体、どこの人だね」 「よくわからない。パスポートは四つあるけど」”[P.44_道化師の蝶] 「道化師の蝶」 「松ノ枝の記」 あれ?「SF的な宇宙で安全に暮らすっていうこと」……? “「彼は集合的無意識とかそんなものに接続していると思われますか」 「いいえ」 と彼女は短く強く否定する。 「彼は、昔のわたしが望んだ、夢見がちな記憶なのだと思います。何かを作り出そうとする記憶。彼はただのお話ですよ。自分を主人公としてお話を書き続ける種類のお話」 「充分興味深いお話だと思いますよ」 「だから、彼があなたを呼び寄せるのを、わたしは邪魔しなかったのです。でも」 彼女は一つ大きく息を吸い込み、 「あなたたちは真実だけを書くわけではない。真実だけを書くわけではないのに、真実よりも大きなものを書けるわけでもない。どうしてですか」”[P.162_松ノ枝の記]
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久しぶりに全然わからんかった。 小説家というより詩人寄りですね。 入れ子構造でどこまでその輪の中に落ちていくのか、実際だれにもわからない仕組み。 途中までは構造が複雑だな、作品の作品の作品か、と思うが、そのうちおそらく別の世界の私、が出てくる。この刺繍あみを生業とする奴が厄介だ。...
久しぶりに全然わからんかった。 小説家というより詩人寄りですね。 入れ子構造でどこまでその輪の中に落ちていくのか、実際だれにもわからない仕組み。 途中までは構造が複雑だな、作品の作品の作品か、と思うが、そのうちおそらく別の世界の私、が出てくる。この刺繍あみを生業とする奴が厄介だ。こいつは、作品の作品に出てくる奴なのか、それとも元々の語り手であった私なのか、見分けがつかない。つくのかな。 蝶が何を意味するかは読者が勝手に当てはめればよいのかもしれない。 閉じて表紙見てたら成る程そういう感じか。大きな外枠から同じ質量を有する一つ内側に、それを延々と円を描いて入っていく。マトリョシカみたいだ。
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arlequin。愉快な誤謬、文章の内側で飛び回る蝶が、思考の蝶がまさに道化である。幾度となくこの人の頭のなかはすごいと思う。潮の匂い、スパイスの匂い、特別な比喩はなく、しかし想像せずにはいられない。ジャンルが円城塔、頭が本の世界に支配されて、ずっとこのままでいたいと心底思う。
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芥川賞受賞作。 表題作のみ。 3冊目だけれど、もう諦めようと思う。 今までの中ではいちばん好きだし、 途中、驚きの余り声を発してしまうくらいはのめり込めたけれど、苦痛が大きい。 読書嫌いの理系の友達に、 「頼むから読んでみて。」 ってお願いしてみた。 難解だけれど、読み...
芥川賞受賞作。 表題作のみ。 3冊目だけれど、もう諦めようと思う。 今までの中ではいちばん好きだし、 途中、驚きの余り声を発してしまうくらいはのめり込めたけれど、苦痛が大きい。 読書嫌いの理系の友達に、 「頼むから読んでみて。」 ってお願いしてみた。 難解だけれど、読みにくくはないって。 面白い箇所を抜き出して伝えてくれたし。 あたしもバリバリの理系だったら楽しめるのかな。 無機質っつーか、 真っ白で混じり気のない感じの文体は好きなのに、本当に残念。
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2011年下半期芥川賞受賞作。難解な作品である。それは、この小説が通常のそれのような物語世界の像を形作らないことに起因している。小説の中を流れる時間も、互いに螺旋のように絡まり合いながら、しかも「メビウスの輪」のような繋がり方をしているのだ。作中の人物エイブラムス氏にしても、男か...
2011年下半期芥川賞受賞作。難解な作品である。それは、この小説が通常のそれのような物語世界の像を形作らないことに起因している。小説の中を流れる時間も、互いに螺旋のように絡まり合いながら、しかも「メビウスの輪」のような繋がり方をしているのだ。作中の人物エイブラムス氏にしても、男かと思えば女だし、また男だったりもする。友幸友幸にいたっては、さらに掴みどころがない。ところが「無活用ラテン語」は実在したりもする。つまり、ここでは言語が小説世界を仮構するのではなく、言語それ自体が小説世界そのものに他ならないのだ。
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