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科学と宗教と死 の商品レビュー

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28件のお客様レビュー

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2012/04/01

著者は東大医学部を卒業したあと、東京拘置所で医務技官を務めるなどした精神科医。囚人を観察していると、死刑囚と無期囚で明らかに違いがあるという。死刑囚は、毎日、「明日殺されるかもしれない」という非情に切迫した濃密な時間を生きているのに対して、無期囚は無限にうすい時間を生きている。無...

著者は東大医学部を卒業したあと、東京拘置所で医務技官を務めるなどした精神科医。囚人を観察していると、死刑囚と無期囚で明らかに違いがあるという。死刑囚は、毎日、「明日殺されるかもしれない」という非情に切迫した濃密な時間を生きているのに対して、無期囚は無限にうすい時間を生きている。無期囚は一つの鋳型にはまって安定し、感情を麻痺させ、無感動となり、刑務所の生活に適応するという。そもそも、モノゴトに関する感心が少ないともいう。 これを自分たちの身辺に置き換えていえば、モノゴトに関する感心が少ない人は、現代社会にという刑務所の中で、無期囚として生きているということなのかもしれない。 「人間は生きている限り、何かに興味を持つことによって救われると思う」という。「現代は死を遠ざけたことによって、逆に生をも遠ざけてしまったと言えるでしょう」ということは、とても説得力があるコトバに感じた。 著者の加賀乙彦さんは、こうした経験を通して洗礼を受け、キリスト教徒になる。そして、本書では「頑張る力」より「祈る力」と説く。それが、本書の題名『科学と宗教と死』ということにつながっていく。 人間の体の中には底知れぬ海があり、宇宙がある。いったい、このような美しいものを誰が作ったのか。何か大きな存在、「神秘」ということばでしか言いあらわせないものを感じる、というのは、著者が医学部出身で人体についてよく知っているだけでなく、囚人と接することで、人の心の奥底に潜むものを見つめてきたからこその言葉だろう。

Posted byブクログ

2012/03/12

精神医学者であり作家の加賀乙彦先生の死についての随筆。 著者は人生を通して死に多く触れてきた人物。少年期は第二次大戦期を生き抜き、精神医学者となって以後殺人など重犯罪者を対象とした犯罪学研究に尽力。留学先フランスでの落下事故、奥様の死、自らの臨死体験。それだけに著者は死に対して考...

精神医学者であり作家の加賀乙彦先生の死についての随筆。 著者は人生を通して死に多く触れてきた人物。少年期は第二次大戦期を生き抜き、精神医学者となって以後殺人など重犯罪者を対象とした犯罪学研究に尽力。留学先フランスでの落下事故、奥様の死、自らの臨死体験。それだけに著者は死に対して考えつくされた不抜の理念を持った方なんだなという印象をもった。 タイトルについて。「科学」は医療と原発があげられる。医学の究極の目標は不老不死なのか。されば死なない人間は幸福か。医療とは治すことだが、本書を読んで直すことなんだなと感じた。つまり寿命を全うするという本来の人間の生き方へ戻してやるということである。また、原発については断固反対の立場であった。その理由も少し書いてあったがせっかくこの時期に出された本ということでもうすこし考えを詳細に聞きたかった(そこまでいくとテーマから離れてしまいますが・・・)。 「宗教」はキリスト教、仏教を通して日本人がもつべき宗教観、それらと死の繋がりについて述べられている。 まとめると、先生の人生の一部を見させていただいたようなそんな本。すごく練られたというか至言のつまった本でした。ただ私にはそれをおぼろげにしか感じ取る事ができなかった気がします。死を目の当たりにした経験もない上、強烈に揺さぶられた体験も少ないからでしょうか。全体的に先生の謙虚さが伝わってくる文章でそれはそれで良かったのですが逆にインパクトがなかったのかな・・・。

Posted byブクログ

2012/03/04

加賀乙彦先生は最も尊敬する作家の1人です。 「永遠の都」は2度読みました。 沼野先生とのドストエフスキーについての対談もお聞きしました。 本書を読んで初めて知ったこと。  陸軍幼年学校の御卒業であること。  最愛の奥様を亡くされたこと。  心臓ペースメーカーをつけられ...

加賀乙彦先生は最も尊敬する作家の1人です。 「永遠の都」は2度読みました。 沼野先生とのドストエフスキーについての対談もお聞きしました。 本書を読んで初めて知ったこと。  陸軍幼年学校の御卒業であること。  最愛の奥様を亡くされたこと。  心臓ペースメーカーをつけられたこと。  昔、フランスで自動車ごと断崖に転落されたこと。 加賀先生は「死」と真摯に向き合った最高の作家だと思います。 『悪魔のささやき』も感動しました。 まだ81歳。頭脳明晰。本郷に住むなんて羨ましいです。

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2012/02/26

① 今回の厄災が、集団の不幸という戦争中の不幸に似通った面をもつ ② 義は山岳より重く、死は鴻毛より軽し ③ 人間は生きている限り、何かに興味を持つことによって救われると思う。何かに熱中すること、何かを好むこと、何か人と違ったものに向かうこと、それが人間に幸福をもたらします。...

① 今回の厄災が、集団の不幸という戦争中の不幸に似通った面をもつ ② 義は山岳より重く、死は鴻毛より軽し ③ 人間は生きている限り、何かに興味を持つことによって救われると思う。何かに熱中すること、何かを好むこと、何か人と違ったものに向かうこと、それが人間に幸福をもたらします。 ④ 死を遠ざけたことによって、逆に生をも遠ざけてしまったと言えるでしょう ⑤ ところが日本人は宗教を忘れてしまいました。宗教の力がないところに、科学の力だけがのさばっている。ここに私は危険を感じるのです。科学や技術を学んだとしても、それをどう生かしていくのか、どのように人間の幸福や豊かさにつなげていくのか。そこには倫理、道徳、思想が必要です。P140

Posted byブクログ

2012/02/20

「死は鴻毛より軽し」 という話から始まり死を見つめ、精神科医として犯罪者を多く見た著者の話で印象に残ったのは死刑囚と無期懲役囚の精神状態の違い。無期懲役の方が緊張が無く抜け殻のようになるのだろうか? 親しかった死刑囚がキリスト教徒になり、著者も後にキリスト教徒になる。著者はその...

「死は鴻毛より軽し」 という話から始まり死を見つめ、精神科医として犯罪者を多く見た著者の話で印象に残ったのは死刑囚と無期懲役囚の精神状態の違い。無期懲役の方が緊張が無く抜け殻のようになるのだろうか? 親しかった死刑囚がキリスト教徒になり、著者も後にキリスト教徒になる。著者はその時目から鱗が落ちたような気分になったらしいが、いかんせん話を読むだけではどのようにその瞬間を感じられるのかがわからないのが少し残念。これは著者の文章に問題があるのではなく、自分自身がその気になって神父から話を聞かねばわからないことだろう。 さて、戦争を経験した著者にとって先の震災は重なるものがあったらしい。それは大勢の人が無残に無くなった情景ももちろんだが、政府の対応に関しても。戦時中の政府は正しい情報を流さずにいた。今回の震災でも政府の発表は後手後手に回っている印象だ。また、広島長崎を思い出させる原発事故。 恐らく戦争を経験された方の中には同じように思われた方が多くおられるのだろう。

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2012/02/19

加賀乙彦先生がご自身の人生をふりかえり、語りかける。先生はクリスチャンで、宗教的な思想が根底にあり、個人的には相入れない部分もあったが、政府や財界が考える豊かさの定義に疑問を投げかけているのは正しいと思った。 最後は福島原発についても触れているが、生まれてから戦争の中で育ち、陸軍...

加賀乙彦先生がご自身の人生をふりかえり、語りかける。先生はクリスチャンで、宗教的な思想が根底にあり、個人的には相入れない部分もあったが、政府や財界が考える豊かさの定義に疑問を投げかけているのは正しいと思った。 最後は福島原発についても触れているが、生まれてから戦争の中で育ち、陸軍幼年学校在学中に終戦を迎えた戦争体験者が語る生と死は重みが違う。原発、原子爆弾がなくなったのを見てから死にたいど語り、原発を廃炉にして、全部お寺にしたらいいとは、内田先生と通じる考えをお持ちでした。

Posted byブクログ

2012/02/08
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

著者の加賀乙彦は、精神科医であり作家でもあります。 そのことと「宣告」という代表作があることとは知っていましたが、著書を読んだことはありませんでした。 阪神大震災のときに65歳だった加賀乙彦は、「東京で小説を書いているよりも医師として被災された方々のために働こうと決心し」、精神科医として避難所の人々の治療に専念したそうです。  そして、今回の大震災、加賀乙彦は81歳であり、自身が心臓病手術後にペースメーカーを装着した障害者となっており、直接的な支援はできない状況の中、今までの様々な経験の中で考えてきた幸福のこと、死のことなどから、「とくに東北の被災者の方々に襲いかかった不幸から希望のある未来を望み見るにはどうしたらいいか」を、精神科医、小説家としての体験から「懸命に書いてみた」そうです。 自身の戦争体験や精神科医としての死刑囚との交流、また若き日のフランス留学時代に断崖から車で転落して奇跡的に助かったこと、さらに奥様の予想もしない突然の死など、死にまつわる自分のさまざまな経験から、加賀乙彦が考えたことがとても読み易い平易な文章で綴られています。 そんな人生を経て、加賀乙彦はクリスチャンになりますが、キリスト教を媒介しながら今の世相や人の生きる道、そして死に至る道を独自の視点で述べている本です。

Posted byブクログ

2012/02/08

キリスト教徒である加賀さんの、3・11を踏まえた人生観が分かる一冊。 キリストに凝り固まらずに、他の宗派の良いところをきちんと認める加賀さんの姿勢こそが、日本人に合った宗教観なのかなと思ってしまう。 そして変わらない非戦の思い。 「戦争で死ぬ」という言葉のおかしさ、死ぬということ...

キリスト教徒である加賀さんの、3・11を踏まえた人生観が分かる一冊。 キリストに凝り固まらずに、他の宗派の良いところをきちんと認める加賀さんの姿勢こそが、日本人に合った宗教観なのかなと思ってしまう。 そして変わらない非戦の思い。 「戦争で死ぬ」という言葉のおかしさ、死ぬということは自分の意思で死ぬように捉えられてしまうが、戦争による死は他者に対して殺されることだから、「戦争で殺される」が正しい、にはその通りだと感じる。 また当然ながら原発は反対のスタンスです。

Posted byブクログ