ゆみに町ガイドブック の商品レビュー
- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
「ゆみに町」とはいったい何なのだろう? この小説には、「ゆみに町」に住み始めた女性の小説家である「わたし」が書きしるした町のガイドブックであると紹介されるのだが、「わたし」以外に、「雲マニア」と「くまのプーさん」と思しき合計三人の語り手が存在する。この三人が交互に語り進めていく実に短い話が速いテンポでクロスし、次第にシンクロしていくかのような構成だ。 虚構に満ちた入れ子細工のような町の構造がおぼろげに判るとき、ゆがんだ異質な世界に触れた実感がわき起こる。 果たして、どの語り手の話が一番信じられるのか? 『因果律を完全に否定するのは世界を崩壊させることだ。』と著者が書く時、この物語はまた語り始めへと戻っていく。
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+++ ここは、あの人が去った町。片耳のプーさんが走っているかもしれない町。そして雲マニアの失態で、危険な特異点が生まれつつある町……日本ファンタジーノベル大賞受賞作家が贈る書下し長編。 +++ ガイドブックというタイトルがついてはいるが、観光案内のようなものを期待して読むと驚...
+++ ここは、あの人が去った町。片耳のプーさんが走っているかもしれない町。そして雲マニアの失態で、危険な特異点が生まれつつある町……日本ファンタジーノベル大賞受賞作家が贈る書下し長編。 +++ ガイドブックというタイトルがついてはいるが、観光案内のようなものを期待して読むと驚くだろう。ゆみに町について地勢や景色、町の様子などが記されていることに間違いはないが、それは二次元に留まらないだけでなく、時間的にも空間的にもその場だけに留まるものでもないのだから。時間や空間のひずみや裂け目から、ふとした拍子にあちら側へいってしまったり、メビウスの輪の上を歩くように、知らず知らずに裏側を歩いていたりするのである。行ってこの眼で確かめてみたいような、尻込みするような、不思議な魅力を湛える町である。もしかするとゆみに町のことをすでに知っているかもしれないと思わされるような一冊である。
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