鷺と雪 の商品レビュー
ベッキーさんシリーズ第3作にして完結。最終話の『鷺と雪』は第141回直木賞受賞作。 北村薫氏が、このシリーズを書き上げる原動力となったのは、ある一節を目にしたからだという、日常が非日常を垣間見る瞬間。 それは、 『官邸の電話は一本だけ残して、みんな切って た。「その残した電話が服...
ベッキーさんシリーズ第3作にして完結。最終話の『鷺と雪』は第141回直木賞受賞作。 北村薫氏が、このシリーズを書き上げる原動力となったのは、ある一節を目にしたからだという、日常が非日常を垣間見る瞬間。 それは、 『官邸の電話は一本だけ残して、みんな切って た。「その残した電話が服部時計店の番号と似ていたらしく、ハットリですか、という間違いの電話がずいぶんかかってきた」(石川元上等兵談)』 昭和11年2月26日の事である。 なるほど、全てが、ここにつながっていたのか。名作である。
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前巻の終盤で、ベッキーさんの出自が明かされるが、この巻の初めの方で、なぜ、英子の運転手になったのかがさらりと明かされる。 そして、終盤で、英子から「なんでもできるのね。」と言われたベッキーさんは、自分には何もできないと言い、次に行く者、自分より若く可能性を持った人たちに望みを託...
前巻の終盤で、ベッキーさんの出自が明かされるが、この巻の初めの方で、なぜ、英子の運転手になったのかがさらりと明かされる。 そして、終盤で、英子から「なんでもできるのね。」と言われたベッキーさんは、自分には何もできないと言い、次に行く者、自分より若く可能性を持った人たちに望みを託した返答する。英子は、胸を張って即答することができないとしながら、胸に刻んでおこうと思う。 暗い世情を背景としながら、明るい思いでいられるのは、こういうやりとりのおかげではなかろうか。 巻末には、たくさんの参考資料の一覧が掲載されている。量に圧倒されつつ、それは、そうだろうな、と感じる。こういう資料を読みこなさなければ、こんな物語が生まれてくるはずはない。 いろとりどりのビーズをひとつひとつ繋げてできたような、見る角度により、見る人の思いにもより、いろんなものを感じられる作品だったと改めて思う。
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母に勧められ読書。 結末を知り、推理ものだからとその場にあった3冊目から読んだのを後悔。 ノンフィクションだけど、当時の時代背景がよく分かり面白い。時間がない中で忙しく読んだので、しっかり読めばまた評価は変わったかもしれない。
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鷺と雪 『街の灯 (本格ミステリ・マスターズ)』『玻璃の天』に続く、花村英子嬢とそのおかかえ運転手・ベッキーさんが主人公のミステリー・シリーズ第三弾。英子嬢が拾って来る友人や知人の小さな謎をベッキーさんが慎ましやかに解いてみせるといういつものパターンはそのままですが、時代背景が影を落としていて段々と暗さを増していきます。 「不在の父」は、英子嬢の兄が浅草で失踪した知り合いの華族を見かけたことに端を発して、失踪の真相が悲しみをもって明かされます。結末は暗めですが、別の人生を潔く生きた人の心意気を感じさせてくれます。 「獅子と地下鉄」は、今に通じる受験の願掛けを巡る謎解きのお話です。英子嬢は上野で浮浪児のグループにからまれますが、その中で庶民の貧しさと自分の豊かさをしみじみと感じることになります。 「鷺と雪」は、写っているはずのない友人の婚約者の写真を巡る謎解きのお話ですが、そのお話よりも、ベッキーさんと軍人である友人の兄との最後のやりとりが竹蔵の心を打ちました。 自らの行動に迷いを生じている軍人に対して、”善く敗るる者は滅びず、わたくしは、人間の善き知恵を信じます”と答えるベッキーさんに思わず涙が出てしまいました。 そして、時は昭和11年2月26日の雪の日を迎えます。 私たちはいつからこの国の、家族の、子供達の将来を思いやることを忘れてしまったのでしょう? 私たちはいつから勝つことばかりに一生懸命で、”善く破るる者”という大切な志を持てなくなってしまったのでしょうか? そんなことを考えさせてくれる本でした。 竹蔵
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<再登録>ベッキーさんシリーズ最終作。迫りくる戦争への気配を感じさせる中、「獅子と地下鉄」は北村作品らしいほのぼの感を味わえました。 そして運命の「鷺と雪」。この続きがあるとばかり思ってました。結末は歴史が教えてくれる。時間をかけて、こんな終わり方もあることを受け入れられました。
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『鷺と雪』 その時々において、いろいろな出来事があり、時と共に流れていく。 ドッペルゲンガー ハイネの『影法師』森鷗外・訳『分身』芥川龍之介『凶』梅若万三郎『鷺』『源氏物語 葵上』能面
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ベッキーさん完結編…なんだけど、正直「えっこれで終わっちゃう?!?!」という気持ちも強い。恋愛ものじゃないのだけれど、思わせぶりな軍人がチラチラ出てきて2.26事件か~あぁー…となってしまった。与謝野晶子の「君死にたまふことなかれ」の解釈や芥川の腹巻のことは「なるほど~」と思った。華族の地位を捨てた『不在の父』、この当時からお受験はすごかったんだな…と思わせる『獅子と地下鉄』、いたずらにしても底意地が悪いお嬢様とカメラ、そして勝久…となった『鷺と雪』。まあここで余韻を残して終わるのが綺麗なんだろうなぁ…
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個人的には三作の中で「不在の父」が一番心に残った。父はなぜ消えたのか。「わたし」との対話では、人の避けられない業のようなものがあるのかと思った。 「鷺と雪」では再び『漢書』の一節が出てくる。「善く敗るる者は亡びず」 ベッキーさんは問いに対して「はい、わたくしは、人間の善き知恵を...
個人的には三作の中で「不在の父」が一番心に残った。父はなぜ消えたのか。「わたし」との対話では、人の避けられない業のようなものがあるのかと思った。 「鷺と雪」では再び『漢書』の一節が出てくる。「善く敗るる者は亡びず」 ベッキーさんは問いに対して「はい、わたくしは、人間の善き知恵を信じます。」と答える。 その答えが、不穏な時代の雰囲気を感じさせる話の中で、人が縋れる真摯な強さを与えてくれているように感じた。
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二つ目の話のあたりで、これはシリーズものの途中から読んでしまったな…と気づいた。 ラストがとても切ないし、うわぁ〜…となった。そこに辿り着くまでも節々に戦争の影が見えてたので少し落ち込んだが、話はどれも面白かった。ベッキーさん素敵
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時代は、昭和初期。当時の士族のお嬢様と、その付人としての運転手の女性“ベッキー”さんが、日常生活の謎解きをする「ベッキーさん」シリーズ。第3作で最終作の、短編3編。 第1作から読まなかった事は、大失策。 推理小説ですので、各作品その時代らしい謎解きが楽しめます。そして、作中に何作...
時代は、昭和初期。当時の士族のお嬢様と、その付人としての運転手の女性“ベッキー”さんが、日常生活の謎解きをする「ベッキーさん」シリーズ。第3作で最終作の、短編3編。 第1作から読まなかった事は、大失策。 推理小説ですので、各作品その時代らしい謎解きが楽しめます。そして、作中に何作かの文芸作品を絡めます。その作品にも興味がわきます。 「不在の父」 自宅から突然失踪した子爵。その行方と理由を探します。実際にあった男爵失踪事件を題材にされています。山村暮鳥の囈言という詩の一節が、最終話への布石となります。この詩は、はじめ知りましたが、犯罪名と名詞で熟語としたような魅惑的な作品でした。 「獅子と地下鉄」 受験を控えた少年の上野補導事件。銀座三越のライオンにたどり着きます。 「鷺と雪」 ドッペルゲンガーと思われる現象の謎解きです。 そして、お嬢様が密かに想いを寄せる青年将校と最後になるであろう奇跡的な語らいが見事な最終話です。 この最終話のベッキーさんの語らいの部分が、理解できず、まあいいか?と諦め気味だったのですが、直木賞評価を読んだところ、宮部さんの論評で納得させていただきました。当初から、謎多き女性でしたが、未来から来たお嬢様になるほどと。 二、二六事件が、最終話を飾るのですが、三島由紀夫の憂国、宮部みゆきの蒲生邸と、視線が変われば小説も変わりますね。数行の昭和史から含まれるものが多い創作でした。
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