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アラブ革命はなぜ起きたか の商品レビュー

3.6

17件のお客様レビュー

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2024/09/14

本書は、ネット放送局で行われたアラブの春に関するトッドへのインタビューを文字に起こしたものである。原題は『アッラーは関係ない』ということで、まぁすごいタイトル。内容は、相変わらずのトッド節だが、それでもインタビュアーのツッコミの鋭さや、そのやりとりの砕けた感などから、読みやすかっ...

本書は、ネット放送局で行われたアラブの春に関するトッドへのインタビューを文字に起こしたものである。原題は『アッラーは関係ない』ということで、まぁすごいタイトル。内容は、相変わらずのトッド節だが、それでもインタビュアーのツッコミの鋭さや、そのやりとりの砕けた感などから、読みやすかったり、ちょっとインフォーマルな冒険的発言などあったりして、おもしろい。 識字率の上昇、出生率の低下といった歴史的展開、すなわち近代化の波は、アラブ世界にも寄せており、おおざっぱに言えば、かつてヨーロッパが経験した道を(ずっと早く、ずっとうまく?)辿るだろうと言う。ヨーロッパに比べてまだまだ若者の多い、アラブ世界でも、とりわけチュニジアなどでは出生率の低下が起きていること、エジプトで内婚率が低下していることなど興味深い。 また、イラン革命は今のアラブの春の先発だとか、イスラーム全体とキリスト教と比較するようなナイーブな論に対してはそれよりもシーア派とスンナ派の区別が重要だとか、ちょっとギョッとするような視点も彼らしい。ただ、普遍主義と差異主義、つまり、左と右の対立では、彼は普遍主義を擁護して、ドイツ(とかブッシュ Jr. )をこけおろすところは、よい左と悪い右を対比しているようで、いささかどうかとは思う。けど、それは彼の価値への自由なのだろう。なお、誰もいないところで赤信号を待つのは、そりゃ権威主義的イデオロギーの発露なのよとかはっきり言われると、ちょっとへこむというか……、いや希望なのかな。 訳者による小論「トッド人類学入門」は、さすがに何度も解説を重ねてきた訳者によるもので、大変コンパクトにしかも分かりやすくまとまっていて、トッドについて知るには最も優れた小論だろう。トッドを読むのが初めてならばこの小論を先に読むとよい。さらに言えば、この小論があるから、アラブの春などのアクチュアルな問題をテーマにしている本書は、最初に読むトッドの一冊としても、優れていると思う。

Posted byブクログ

2020/04/16

「今日の世界は、経済という強迫観念に取り憑かれた世界で、経済がすべてを為すと考える、裏返しのマルクス主義者たちの世界です(私が念頭に置くのは、ネオ・リベラリストたちのことで、彼らは基本的に裏返しのマルクス主義者であって、しかもマルクス主義者より頭が良いわけではありません)。」(p...

「今日の世界は、経済という強迫観念に取り憑かれた世界で、経済がすべてを為すと考える、裏返しのマルクス主義者たちの世界です(私が念頭に置くのは、ネオ・リベラリストたちのことで、彼らは基本的に裏返しのマルクス主義者であって、しかもマルクス主義者より頭が良いわけではありません)。」(p29)と語るエマニュエル・トッドが、人口統計学(デモグラフィー)のデータを基にイスラム世界の分析を行ったのが「文明の接近」。 本書は、同書の内容をめぐって制作されたテレビ・インタビュー番組を基にした対談本。 対談本だから読みやすい。字もあまり多くない。巻末にトッドに理論的基盤となる家族類型の要約もあり、トッドを知るための格好の入門書となっている。 それでも2,100円は高いので、本屋で立ち読みするか、図書館で借りて読むことをオススメ。 トッドの説を強引に要約すれば、女性の識字率が50%を超えると出生率の低下が起こり、それとともに社会の近代化が進む。それはキリスト教やイスラム教などの宗教の如何や、経済状況などとは関係なく進む。それを過去の歴史や世界各国の人口統計から示してみせる。 イスラム世界で今起こっていることは、イギリス革命、フランス革命、ロシア革命と同様のパラメーターの基で、起こるべくして起こった事象であり、西欧諸国が動乱から安定した社会に落ち着くまで数十年以上を要したように、今後イスラムでもさまざまな混乱や逸脱、宗教的専制や女性に対する厳しい抑圧のような近代化に逆行する現象が見られようとも、人口統計学的が示すところでは、避けがたく近代化の道を歩んでいる。 また同じ民主主義国家でも、フランス、イギリス、ドイツ、アメリカ、日本では、それぞれ異なった姿を取っているが、その違いは、基本的にその地域特有の家族類例が規定している。 一見すると唐突な感じがするトッドの理論は、不思議な説得力を持っており、アメリカ風の世界観に染まった頭をクリアにしてくれる。 それがトッドの魅力だ。

Posted byブクログ

2020/03/12
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

2020/03/12:読了  対談が、断片的な情報のつながりで、読みにくいが、内容は「なるほど」と思えるものだった。  出生率・識字率などからみた、社会の変容。  それは西欧がイギリス・フランスの革命の時に、発生していた社会的な変化であり、その変化により、民主化が起きたと言うこと。  それと同じ事が、イスラーム社会で発生し、ロシアも中国も同じ道をたどっている。イランのイスラム革命は、過去に戻る確定でなく、出生率が下がり識字率があがっていた中で、必然的に起こったこと。その後の、西欧の圧迫がなければ、もしかすれば、さらに進んだ社会になっていた可能性がある。

Posted byブクログ

2017/01/12

アラブ圏についてのトッドさんの分析を知りたくて読んでみた。インタビューを構成したものなので、ざっとしたことしかわからないが、それでもいくつかの発見があった。 アラブ圏といってもそれぞれなのである。チュニジア、アルジェリア、モロッコ。マグレブとひとまとまりにされている三国でも事...

アラブ圏についてのトッドさんの分析を知りたくて読んでみた。インタビューを構成したものなので、ざっとしたことしかわからないが、それでもいくつかの発見があった。 アラブ圏といってもそれぞれなのである。チュニジア、アルジェリア、モロッコ。マグレブとひとまとまりにされている三国でも事情が異なる。 エジプトもまた特異的でイシス信仰があるのだから女性のステイタスが比較的高い。サウジアラビア、バーレーン、リビアもそれぞれ。そして、イランはずっと民主化が進んでいる。チュニジア、エジプトで2010年に始まった革命と同種のものが1979年に起こっていたのだ。 一般的に民主化とは、市民なるもの、自由な個人が、公的空間に出現することなのだということを知った。「民主化」ってよく聞く言葉だったけどその意味をあまり深く考えずに使っていたなぁと… そうそう、肝心のアラブ圏の家族制度は、父系の内婚制共同体家族である。子供の社会的ステイタスの定義において、両親ではなく、父親だけが重要である場合に、そのシステムは父系と呼ばれ、アラブの父系の平行いとこ同士を優先させる婚姻は、内婚制であり、内側に閉ざされた家族集団を産み出すから、公的空間に市民というものが出現しにくい家族制度である。 そんなこともあって、アラブ圏では民主化が多少進行しにくいのだけれども、識字率の上昇や内婚率、出生率の低下などの人口統計学からみると、確実に民主化してきているというのがトッドさんの結論である。 そして、アラブ圏の家族制度が重要視する価値は、権威と平等。平等を求めるので、ある種の普遍性は追求される。さらに内婚制から生じる穏やかさを含み持つ父親像が投影されるイスラムの神の慈悲深さという分析は驚きだった。 いろいろとまだまだ、未消化で、もうちょっと頭を整理したいが、余裕ができたら今度はもっと詳しい「文明の接近」を読みたい。 それにしても、トッドさんの多様性の尊重と普遍性への志向のバランスの素晴らしさが感じられる。たぶん、それらが存在する次元ってのは異なるのだろうけど、自分も「多様性の尊重と普遍性への志向」を持ち続けたいなと思った。 Mahalo

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2015/03/25

ブログに掲載しました。 http://boketen.seesaa.net/article/414461099.html 言ってることは、ある意味、ものすごく単純です。 世界で起きていることは、すべて家族システムと、識字率・出生率で説明できる(それこそ、「ホントかよ!」です)。

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2014/06/01

インタビュー形式なので、最初は独特なフランス人特有の言い回しに慣れずにわかりづらかった。 トッドの著書が始めてだったので、巻末の<トッド人類学入門>から読めばもっとわかり易かったと思う。 家族形態と出生率及び識字率から導き出す、各国の特徴は大変興味深く勉強になった。特に日本・ドイ...

インタビュー形式なので、最初は独特なフランス人特有の言い回しに慣れずにわかりづらかった。 トッドの著書が始めてだったので、巻末の<トッド人類学入門>から読めばもっとわかり易かったと思う。 家族形態と出生率及び識字率から導き出す、各国の特徴は大変興味深く勉強になった。特に日本・ドイツ・スウェーデンの共通項には頷けた。

Posted byブクログ

2014/04/25
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

《補章 人口動態から見たアラブ革命》p147 Cf. 『文明の接近』 《附録 トッド人類学入門》p160 【世界の家族型】p161 Cf. 『第三惑星』 ①外婚制共同体家族 ②内婚制共同体家族 ③非対称形共同体家族 ④権威主義家族(直系家族) ⑤平等主義核家族 ⑥絶対核家族 ⑦アノミー家族 ⑧アフリカ・システム

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2013/05/23

ソ連の崩壊とアメリカ帝国の没落、さらにアラブ革命を言い当てた上に、ユーロの消滅さえ予言したとまで疑われてしまったトッド。彼の予見の基礎に横たわる、識字化と出生率の低下、及び家族システムの問題に即しながら、アラブ革命を検証する。ウェブテレビのインタビューをベースにしているのでかなり...

ソ連の崩壊とアメリカ帝国の没落、さらにアラブ革命を言い当てた上に、ユーロの消滅さえ予言したとまで疑われてしまったトッド。彼の予見の基礎に横たわる、識字化と出生率の低下、及び家族システムの問題に即しながら、アラブ革命を検証する。ウェブテレビのインタビューをベースにしているのでかなりざっくりとした内容ではあるが、トッドの言説のおさらいには好適な一冊。

Posted byブクログ

2013/06/21

エマニュエル・トッドは 『最後の転落』(1976年)でソビエト連邦の崩壊を予測し、 『帝国以後』(2003年)でアメリカの凋落を予測し、 『文明の接近』(2007年)で「アラブの春」を予測した、 と言われる。   識字率・出生率・内婚率など人口動態から、アラブ革命の根底にある近...

エマニュエル・トッドは 『最後の転落』(1976年)でソビエト連邦の崩壊を予測し、 『帝国以後』(2003年)でアメリカの凋落を予測し、 『文明の接近』(2007年)で「アラブの春」を予測した、 と言われる。   識字率・出生率・内婚率など人口動態から、アラブ革命の根底にある近代化民主化まで予見できた・・・・・と説明されても、予言者じゃあるまいし、だからどうした?という気がする。 彼は、『文明の接近』というタイトルから分かる通り、アメリカのWASPの保守的な政治学者サミュエル・ハンチントンの『文明の衝突』という見方に反論してる。 ハンチントンのようなグダグダした記述とは違い、統計的数値の裏づけをもって「イスラームと近代化は相容れない」という通俗的な見方に反し、欧米世界とイスラム世界の接近がすでに始まっている、と分析している。 これは、最近読んだエコノミスト誌の2500年の未来予測図と、近いものがあり、もしかしたら本当のことなのかもしれない。 これに対して親イスラエル派で、フランスの反イスラムの空気を煽っているフィンケルクロートとかいう野郎がやたらとトッドに噛み付いてるそうだ。 トッドはアナール派から影響を受けてるらしい。 でも、彼のことを、単純に「歴史学者」などとは呼べない。 むしろ、彼は人口統計学者であり、人類学者であり、社会学者であり、政治学者であり、お総菜屋であり、肉屋である・・・・・という説明が、いちばんシックリきた。 つまり、何でもアリなんだけど、ハンチントンみたいな保守的な政治学者や、ウォーラーステインみたいな時代錯誤のイデオローグとは違って、文学的な言葉をダラダラ述べてゆくダメな社会学者なのではなく、科学的な手法を使って計量・分析できる専門的な研究者なのだ。 彼は、自分は何と呼ばれても良いけど、哲学者と呼ばれるのだけはイヤだ、と言ってる。 そうだな。少なくとも彼には、哲学はない。

Posted byブクログ

2013/02/06

『文明の接近』刊行後に起きたチュニジア、エジプトでの民衆革命を受け、同書の内容について検証したテレビインタビューをもとに書き起こされたものです。対談形式の文章なので比較的読みやすく、分量もそんなに多くありませんが、至るところからトッドのエッセンスを感じることができました。また、巻...

『文明の接近』刊行後に起きたチュニジア、エジプトでの民衆革命を受け、同書の内容について検証したテレビインタビューをもとに書き起こされたものです。対談形式の文章なので比較的読みやすく、分量もそんなに多くありませんが、至るところからトッドのエッセンスを感じることができました。また、巻末には訳者の石崎晴己氏による「トッド人類学入門」も附記されており、トッドを知るための入門編としてはうってつけの書でした。 http://yamachanblog.under.moo.jp/?eid=384

Posted byブクログ